海外ビジネス経験3年以内の方へ「意外にやわらかく」お役立ち情報を提供します。

みんなの海外取引ブログ

グローバル

【海外事業のリスク管理】#01 準拠法と裁判管轄

更新日:

こんにちは、弁護士の外海周二です。

「海外取引契約の実務」シリーズに引き続き、今回、新たに「海外事業のリスク管理」というテーマでブログを書かせていただくことになりました、弁護士の外海周二です。第1回目の今回は、海外企業との契約書において準拠法と裁判管轄をどのように規定することがリスク管理につながるか、というテーマのお話ししたいと思います。

準拠法の規定

異なる国の企業同士が契約を締結する場合、契約書に準拠法の規定を置くことが一般的です。準拠法とは、契約の解釈をする際に適用される法律のことです。

一般的には、契約当事者は、自国の法律を準拠法にすることを望みます。勝手知ったる自国の法律が適用される方が、予測可能性があり、リスクを回避できるからです。しかし、契約相手も当然ながら、自国の法律を準拠法にするよう求めて来るでしょうから、交渉となります。そして交渉においては、契約当事者間の力関係で準拠法の規定が決まることが多いといえます。

当事者双方が自国の法律を準拠法とするよう主張し、合意に至らない場合に、妥協の産物として第三国の法律を準拠法とすることもあります。この場合、次にご説明する裁判管轄(又は仲裁地)も同じ第三国にすることが一般的ですが、その国の法律や裁判制度(仲裁制度)が公平で信頼できるものであれば、そのようにしても問題はありません。ただし、企業が外国で裁判や仲裁を行うためには、その国の弁護士を代理人に選任したり、資料を全て翻訳する等の手間と費用がかかるため、紛争の金額がよほど大きくない限り、費用倒れのリスクがありますので注意が必要です。

なお、日本は「ウィーン売買条約」(国際物品売買契約に関する国際連合条約,CISG)に加盟しているため、契約の内容が売買に関するものであり、契約相手が他の条約加盟国の企業である場合には、同条約が売買契約に自動的に適用されます。ウィーン売買条約が適用される場合でも、当事者間で明示的に合意した条項が優先しますが、明示的に契約に規定されていない事項については、準拠法に指定した法律よりも条約が優先されます。例えば、同条約では、買主によるクレーム提起期間は、物品の引渡しから2年間とされています。

国際的な売買契約においてこのウィーン売買条約の適用を排除するためには、単に準拠法で特定の国の法律が適用される旨の規定を置くだけではなく、ウィーン売買条約を排除する旨の文言を入れる必要があります

裁判管轄の規定

裁判管轄の規定は、契約当事者間で紛争が生じ、裁判を行うことになった場合に、どこの裁判所で解決すべきかということをあらかじめ当事者間で合意しておく規定です。裁判管轄の規定には、特定の裁判所のみを管轄裁判所と指定し、それ以外の法に基づく管轄裁判所を排除する「専属的合意管轄」の規定と、法に基づく管轄裁判所に加えて合意管轄裁判所にも管轄権を認める「非専属的合意管轄」の規定があります。非専属的合意管轄の規定を置く場合には、相手方から、合意された管轄裁判所ではなく、法に基づく本来の管轄裁判所で訴えを提起される可能性がある点に留意しておく必要があります。

管轄裁判所をどこに置くかについても、基本的には、当事者は自国の裁判所を管轄裁判所とするよう主張することが多いと思います。相手国で裁判をする場合、その費用と手間は膨大なものになるからです。しかし、相手方当事者に対して金銭を請求する訴訟を自国の裁判所で行い、勝訴判決を得た場合に、相手国にある相手方当事者の財産に強制執行しようとする場合、相手国の執行裁判所が日本の判決を承認しないと、強制執行が実現しません。すなわち、自国と相手国との間で、相互に相手国の判決を承認する、いわゆる相互保証がなければ、自国の裁判所を合意管轄裁判所とすることには大きなリスクがあるのです。日本と相互保証のない国として、中国がよく知られています。中国の企業と契約する場合、日本の裁判所を合意管轄裁判所とすると、中国企業に対する金銭請求が日本の裁判所で認められても、これを中国で強制執行する手段がありません

このような不都合を解決するため、裁判による紛争解決ではなく、国際仲裁を利用するという方法があります。国際仲裁を利用する場合、双方の国が仲裁に関するニューヨーク条約(外国仲裁判断の承認及び執行に関する条約)の締結国であれば、一方の国で出された裁決を、他方の国の裁判所で強制執行することが可能です。国際仲裁は、上訴ができないため一回で終局的解決が図れ、言語の選択もできるため、国際紛争には使い勝手のよい制度です。そのため、外国裁判について相互保証のない国の企業間の契約のみならず、相互保証のある国の企業間の契約でも、裁判ではなく国際仲裁を紛争解決方法として選択するケースも珍しくありません。

仲裁を紛争解決方法として選択する場合、利用する仲裁機関の指定をするほか、使用言語、仲裁員の数(1名又は3名の奇数にすることが多いです)を指定する条項を作成することが一般的です。仲裁機関としては、日本であれば日本商事仲裁協会(JCAA)や国際商業会議所(ICC)を使うことが多く、日本以外では、アジアでは香港国際仲裁センター(HKIAC)やシンガポール国際仲裁センター(SIAC)が取扱い件数も多く、ノウハウが蓄積されているため利用しやすいといえます。

まとめ

このように、準拠法や裁判管轄の規定は、契約交渉の際に当事者間で主導権を巡って綱引きが行われることが多いのですが、その意味内容や効果を十分に吟味した上で検討することが、その後の取引におけるリスクを回避するために必要です。

▼バックナンバー
「海外取引契約の実務」シリーズ
第1回 販売代理店契約その1
第2回 販売代理店契約その2
第3回 製造委託契約
第4回 外国企業との合弁契約その1(合弁契約とは)
第5回 外国企業との合弁契約その2(合弁会社運営に際しての法的問題点)
第6回 外国企業との合弁契約その3(合弁解消の方法)
第7回 海外M&Aに関する契約その1(海外M&Aの概観)
第8回 海外M&Aに関する契約その2(M&A実行に至るまでのプロセス)
第9回 海外M&Aに関する契約その3(M&Aの契約及びクロージング)

<著者プロフィール>

外海法律事務所 弁護士 外海周二氏

東京大学法学部卒。2003年弁護士登録。米国ボストン大学ロースクールにてLL.M(法学修士)を取得し、米国ニューヨーク州弁護士の資格を保有。シンガポールの現地法律事務所で1年間勤務した経験を持ち、日本企業の海外進出支援及び海外取引契約の作成などに数多く携わっている。
http://www.tonogai-law.com/

-グローバル
-, ,

Copyright© みんなの海外取引ブログ , 2020 All Rights Reserved.