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海外取引契約の実務 ~販売代理店契約その1(契約の概要)~

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今回、「海外取引契約の実務」というテーマでブログを書かせていただくことになりました、弁護士の外海周二です。第1回と第2回では、販売代理店契約についてお話しさせていただき、その後、製造委託契約、合弁契約、海外M&Aに関する契約と、日本企業が海外で締結することのある取引契約の概要、実務上の注意点などを順次説明してきたいと思います。

▼目次

販売代理の意味と2つの方式

販売代理とは、自社製品を海外で販売したいと考える企業が、海外の企業(代理店/販売店)と手を組み、代理店/販売店に製品の販売権を付与することにより、自社に代わって一定の地域で製品を販売してもらうという販売手法です。日本のメーカーの中には、海外に出て積極的に自社製品を販売したいが、現地で販売子会社を設立して自ら販路開拓をするだけの人的、物的資源や販売ノウハウがない場合がありますが、販売代理は、そのような場合に、リスクを抑えつつ海外での販売を拡大する方法として、有効な方法です。

販売代理には、代理店に売買を媒介させ、売買契約は日本メーカーが顧客と直接締結する「代理方式(Agency)」と、販売店にいったん製品を販売し、それを販売店が顧客に転売する「販売店方式(Distributorship)」がありますが、販売方式の方がより一般的ですので、ここでは「販売方式」での販売代理店契約(Distributorship Agreement)についてお話ししたいと思います。

販売代理店契約で定める事項

販売代理店契約では、まず、販売店が製品を販売することのできる「販売地域(Territory)」を設定し、販売地域でのみ製品を販売することができるものとするのが一般的です。
メーカーは、地域ごとに販売店を置くことがあり、各販売店の販売地域を明確に線引きし、複数の販売店が同一地域で重複したり、販売店のいない空白地ができないようにして、販売戦略を構築することが多いと思います。

ある地域に販売店を置く場合、その販売権を「独占的(Exclusive)」なものとするか「非独占的(Non-Exclusive)」なものとするかも重要なポイントです。メーカーが販売店に独占的販売権(Exclusive Distributorship)を付与した場合、同一地域において他の企業に販売権を付与してはならず、その地域においては、当該販売店のみが製品を販売することができるようになります。

販売店とすれば、当然独占的販売権を得たいと考えるわけですが、メーカーとしては、その販売店がしっかりとした販路やマーケティング能力を有する企業であるかを見極めないと、その地域で満足のいく売上を立てられないことになるので注意が必要です。

独占権とセットで考えるべき事項として、「最低購入量(Minimum Purchase Amount)」という考え方があります。販売店に独占権を与える場合、その地域で製品を販売できるのは当該販売店のみですので、メーカーとしては、販売店に一定の売上ノルマを課し、達成できなければ販売代理店契約を解除する、又は独占権をはく奪するといった手当ができるようにしておく必要性があります。非独占的な販売店に対しては、最低購入量を定めなくても、他の販売店を同一地域に置くことで売上をカバーすることが可能ですので、最低購入量を設けないことが多いです。

メーカーが販売店に自社製品の販売努力をしてもらうための方法としては、最低購入量を定めるほか、販売店が競合他社製品を取り扱うことを禁止することもあります。これも、販売店との間で、競合製品を扱わない代わりに独占権を与えるといった交渉の材料になる事項です。

その他、メーカーは販売店に対し、自社製品の販売促進のために、自社の商標を使用する権限を付与することが一般的です。販促資料をメーカーが支給することも多いですが、マーケティングを販売店に任せる場合、自社の商標が不適切な使われ方をしないように、しっかりとブランド管理をすることが重要です。販売店が販促資料を作成、頒布するにあたってメーカーの承諾を要するものとすることもあります。

販売代理店契約では、上記の事項に加え、メーカーと販売店の間の売買に関し、通常の売買契約に必要となる、引渡条件代金の支払方法品質保証などの規定も必要となります。

まとめ

以上のように、販売代理店契約では、販売店に対してどのような権限(販売地域、独占権、商標利用権など)を付与するのかということと、どのような制約(販売地域外での販売禁止、最低購入量、販促資料の事前承諾制など)を加えるかということを、販売店が販売による利益やモチベーションを維持できる範囲内でバランスよく考えていくことが大切です。

第1回は、販売代理店契約の概要について、簡単にご説明しました。次回は、販売代理店契約の個別の条項に関して、法的に問題となる事項について、少し掘り下げて検討したいと思います。

<著者プロフィール>

外海法律事務所 弁護士 外海周二氏

東京大学法学部卒。2003年弁護士登録。米国ボストン大学ロースクールにてLL.M(法学修士)を取得し、米国ニューヨーク州弁護士の資格を保有。シンガポールの現地法律事務所で1年間勤務した経験を持ち、日本企業の海外進出支援及び海外取引契約の作成などに数多く携わっている。

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