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海外M&Aに関する契約その2(M&A実行に至るまでのプロセス)

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こんにちは、弁護士の外海周二です。

海外M&Aに関する契約第2回の今回は、M&Aが実行されるまでの具体的なプロセスについてお話しします。

▼目次

基本合意書(LOI/MOU)

日本企業が外国企業の買収に関して売り手の株主と協議をする場合、最終的な合意をするまでには、デュー・デリジェンスを実施するなど、ある程度の時間を見ておく必要があります。
そのため、最終的に株式売買契約等を締結するまでに何の書面も取り交わさずに交渉を進めることはまれであり、Letter of Intent (LOI)Memorandum of Understanding (MOU)と呼ばれる基本合意書を取り交わした上で交渉を行うことが一般的です。

この基本合意書では、交渉開始段階での売却価格を一応設定しておくことがありますが、この価格はあくまでも仮条件であり、デュー・デリジェンスを経て変動可能性があることを前提とし、法的拘束力を持たせません。

一方、秘密保持義務独占交渉権について、法的拘束力のある規定を設けることがあります。独占交渉権は、ある一定の期間、当事者(特に売主)が他の当事者と交渉せず、現在の相手方とだけ条件交渉することを約束するものです。買い手は、独占交渉期間中は売り手が他の買い手に株式を売却してしまうことを心配することなく、デュー・デリジェンス等を行うことができるようになります。

法務デュー・デリジェンス(DD)

基本合意がなされた場合には、買い手企業は、対象会社が買収に値する企業であるか、またどの程度の買収価値があるかを判断するために、デュー・デリジェンス(DD)を行うことが一般的です。DDには、企業価値を算定するための財務DD、法律面でのリスクを洗い出す法務DD、対象会社の事業の価値や将来性を判断するためのビジネスDDがあります。

ここでは法務DDについてだけ言及することとしますが、法務DDでは、売り手が持っている対象会社の株式が瑕疵のないものであるか(有効に発行された株式か、これまでの株式譲渡が有効であるか、第三者の担保に入っていないか等)、事業を行う上での許認可が有効に取得されているか、会社運営が適切になされているか(取締役会、株主総会の決議の有効性等)、対象会社とその取引先との契約に問題がないか(不利な内容の契約でないか、多額の損害賠償リスクを負っていないか等)、といったことを、対象会社が保有する大量の書類をチェックして検討します。

また、対象会社が締結している取引契約において、主要な株主が変更した場合には相手方は契約を解除できるという、いわゆるChange of Control条項が入っている場合がありますので、その場合には、M&A成立により取引先から契約を解除されないよう手当する必要が出てきます。

海外M&Aに特有の問題

海外M&Aの場合、対象会社の会社設立や運営は現地法令に基づいていますので、法務DDは、現地法令に精通した現地弁護士に委託して行う必要があります。

また、株式や会社運営についての現地法に基づく制度は、日本と異なる場合がありますので、その点は留意しておく必要があります。

例えば、日本では、株券は有価証券であり、それ自体が権利を表章するものですので、株券発行会社の株式譲渡には株券の交付が必要となりますが、シンガポールでは、株券は、株主の権利を証明する証明書のようなものでしかなく、株式譲渡の際には旧株主は株券を会社に返還し、新たな株主にはその株主の名前が記載された新しい株券が発行されます。

また、株式譲渡の効力についても、日本では株券不発行会社であれば当事者間で売買の合意がなされれば当事者間での譲渡の効力が発生しますが、シンガポールでは、非公開会社の株式譲渡は、ACRAと呼ばれる商業登記局にて登記がなされなければ、効力を生じないものとされています。

このように、M&Aに関連する法制度は、国によって異なりますので、M&Aを瑕疵なく完了するためには、現地弁護士と連携し、現地法に従った手続きをしっかり履践することが必須です。

海外M&Aに関する契約の最終回となる次回は、M&Aで締結する最終契約とクロージングについてお話しします。

▼バックナンバー
第1回 販売代理店契約その1
第2回 販売代理店契約その2
第3回 製造委託契約
第4回 外国企業との合弁契約その1(合弁契約とは)
第5回 外国企業との合弁契約その2(合弁会社運営に際しての法的問題点)
第6回 外国企業との合弁契約その3(合弁解消の方法)
第7回 海外M&Aに関する契約その1(海外M&Aの概観)

<著者プロフィール>

外海法律事務所 弁護士 外海周二氏

東京大学法学部卒。2003年弁護士登録。米国ボストン大学ロースクールにてLL.M(法学修士)を取得し、米国ニューヨーク州弁護士の資格を保有。シンガポールの現地法律事務所で1年間勤務した経験を持ち、日本企業の海外進出支援及び海外取引契約の作成などに数多く携わっている。
http://www.tonogai-law.com/

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