第2回は、第1回で触れたインコタームズ(Incoterms)についてです。輸入取引における引渡条件について、「FOB Bangkok」、「FCA Taipei」、「CIF Tokyo」などと、聞いたことがある読者も多いかと思います。最初の3文字が、いわゆるインコタームズで、後半の地名が貨物の積地又は仕向地です。貿易に携わっているビジネスパーソンにとっては、貿易の「いろは」ですが、触れる機会がなかった方にとって未知の世界だと思います。新人弁護士もまた同じ。彼らはいろんなトレーニングを積んできますが、「FCA」、「FOB」などに触れる機会がないので、最初はちんぷんかんぷんのようです。
▼目次
1 ICCとインコタームズ
「インコタームズ(Incoterms)」は、International Commercial Terms(国際商業規則)の略で国際的な売買取引における、買主と売主の義務をまとめた国際規則です。制定者は、国際商業会議所(International Chamber of Commerce(ICC))です。ICCは、第一次世界大戦後に米英仏伊等が集まって発足したもので、1920年から100年近い歴史を誇る国際団体です。その活動範囲は広く、国際機関への民間の立場からの意見具申、政策提言を続けているようですが、ビジネスパーソンにとって身近なのは、このインコタームズのほか、「信用状統一規則」や「仲裁規則」等かと思います。
2 インコタームズが定めているもの
売買取引で一番大事なのは、値段ですね。値段の決定においては、さまざまな経費が関係してきます。貿易となると、運賃(運送料)、輸送中の事故によるリスク、そのための保険付保、という点が重要になります。荷物自体が全滅、行方不明になれば、荷物の価額だけ丸損ですので…。このような、ごく当たり前の感覚から出発し、インコタームズは以下の重要な条件(=値段決定に直結する条件)をカバーしています。
- 運賃負担者は売主なのか、買主なのか。
- 貨物の損傷のリスクは、売主から買主に、どこで移転するのか。
- 輸送中の保険契約を手配するのは売主か、買主か。
3 インコタームズのグループ分け
上記の1から3というのは、どこで受渡すのか、ということで区別されていきますので、インコタームズも、その観点から大きくグループ分けされています。インコタームズはアルファベット3文字の略称が使われますが、最初の文字だけで、どんな引渡条件かが一目瞭然です。
Eグループ:出荷工場渡し。「Ex Works」という出荷工場渡し条件の略称から来ている名称です。売主の負担が最も軽いものになります。使用頻度は低いと思います。
Fグループ:輸送費抜き渡し。売主は輸送費を負担しません。「Free」という単語を冠にしたグループです。売主は引渡しまでの輸送費のみ負担し、買主が手配した運送人に渡せばよい、というものです。Cグループと並んでよく使われます。
Cグループ:輸送費込渡し。売主が仕向地までの輸送費を負担します。「Cost」という単語を冠にしたグループです。Fグループに比べると、輸送費が入りますので、当然価格が高くなります。
Dグループ:仕向地等まで持込み渡し。売主が仕向地まで配送しますので、「Delivered」という単語を冠にしたグループです。売主は、仕向地までの運賃等だけでなく、リスクも負担します。リスクも負担、というところがCグループとの違いです。
4 主なインコタームズの特徴
よく使うFCAやCIFで、具体的に説明しましょう。
FCA(「Free Carrier」)は、運送人渡し条件です。売主は、積地内の指定場所(貨物の積み地のコンテナヤードなど)に貨物を持ち込んで、そこで買主手配の運送人に引渡します。引渡すまでの費用やリスクは負いますが、その後は全部買主負担です。
CIFは「Cost, Insurance and Freight」の略です。売主は、積地内の指定場所(積地のコンテナヤードなど)で買主手配の運送人に引き渡すまでのリスクを負うほか、その先の仕向地までの海上運賃と保険料を負担します。リスクの移転時期が積地内における引渡し時なのはFCAと同じですが、その先の海上運賃と保険料は売主負担です。
たとえば、東京からバンコクのお客さんに物品を販売する場合、「FCA Tokyo」といえば、東京の港(空港)からバンコクまでの運賃、保険料は買主負担となり、「CIF Bangkok」ということになると、東京からバンコクの港(空港)までの運賃と保険料は売主負担ということになります。当然、「FCA Tokyo」のときより、「CIF Bangkok」のほうが価格が高くなります。
他にも、インコタームズには、CFR、DESなどの条件があって、最新版のインコタームズ2010では、全部で11種類あります。相手方、売買目的物、相手国の組み合わせで、どのインコタームズを使うのが有利かなどが変わってきますので、必然的に、よく使うインコタームズ、全然使わないインコタームズも出てきます。徐々に、よく使うインコタームズから理解を深めていくとよいでしょう。
次回は、第1回でご紹介した「ウィーン売買契約」について触れたいと思います。
⇒第3回 ウィーン売買条約にご注意を!
▼バックナンバー
第1回 Sales Contract(英文売買契約)の特徴
<著者プロフィール>
TMI総合法律事務所 弁護士 江藤真理子氏
東京大学法学部卒業。三井物産審査部海外審査管理室勤務を経て、2003年弁護士登録。企業法務を専門としており、国内・海外取引関係(海外進出の助言、契約書作成から紛争時の対応まで)以外にも、企業側からの雇用契約関係の助言にも対応している。