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フィンテックと藤井4段とAI (エコノミスト斉藤洋二)

      2017/08/30

藤井聡太四段は中学生棋士としてデビューし、29連勝の新記録を達成した。中学生棋士と言えば加藤一二三九段以降、谷川、羽生、渡辺と4人の有力棋士が続いたが、新たに天才が加わった。その実力は160人のプロの中でもすでにトップクラスと折り紙付きで、4~6段相手で圧倒的な強さを示すのも当然だろう。このまま順調に順位戦を勝ち上がれば3~4年ぐらい、つまり十代の名人が登場することになるのではないか。そんな話が語られるにつけ筆者を含めにわかファンは盛り上がり、将棋フィーバーが巻き起こっているのだ。

その強さの背景はいろいろ語られるが、その一つには教材として「将棋ソフト」を活用していることが挙げられる。特に近頃のソフトの開発進化は目覚ましく、今や局面ごとに最善手を教えながら形勢を判断してくれる。したがって人間よりAI(人口知能)が勝つ時代が訪れたと言われるのも当然で、もはやこの世界におけるAIの進化は止まることを知らない。

とはいえ、AIにも不得意分野があるようだ。AI「東ロボくん」による「東大受験プロジェクト」は断念されることになった。実際、数学、世界史などを得意としたが、国語や英語などの読解は苦手だったとのこと。このように今後AIは将棋、自動運転をはじめとする得意分野でどのように成長を遂げるのか、また不得意分野をいかに克服するのか注目されるところで、AIがどのような世界をもたらすのか興味は尽きない。

ついては以下にAIの得意分野のひとつとされる金融分野におけるAIの実情を眺めつつ、今後のAIの進化と限界について考えたい。

AI+金融イノベーション=フィンテック

「Fintech(フィンテック)」とはファイナンシャル(金融)とテクノロジー(技術)の融合を意味する造語で、ネットの情報を取り込んで融資や決済業務など金融の裾野を広げるニュービジネスである。つまりAIによる金融イノベーションのひとつだが、その萌芽はリーマンショック後の米国に求められ、スマートフォン、ビッグデータ分析、ブロックチェーン、生体認証などに秀でたベンチャー企業がその技術を生かし、新たな金融サービスを創出する動きを強めてきた。

具体例として次の3件が挙げられるだろう。

  1. 米スクエア社(Square Inc)はスマホによる法人決済の代表的存在で、スマホに装着した簡易リーダーで手軽にカード決済ができるサービスを提供している。
  2. 決済大手ペイパル社(Paypal Holdinngs Inc)はスマホなど携帯端末経由の決済処理で急速に伸長している。
  3. アップル社(Apple Inc)は、決済サービス「アップルペイ」を開始した。このサービスはiPhone6以降において可能となったが、クレジットカードの情報は内蔵されているので、カードを持ち歩く必要はない。このように決済業務におけるスマホの発展とAIの進化は目を見張るが、今後その成長は想像を超えるものとなる可能性が高い。

一方、AIによる金融イノベーションの代表格としてフィンテックとともに注目されているのが200ほどある仮想通貨のひとつであるビットコインだ。ビットコインはサトシ・ナカモトという人物の名前で、2008年にインターネット上にその文書が掲載されたが、利用者間の信用だけでその価値が維持されており、国家の保証がない点が特徴の「決済システム」である。実際、暗号理論を用いて通貨の発行額を抑制し、取引の安全性が維持されている。

目下その価格は1ビットコイン2700ドル程度で、大きくスイングしている。このように価格が乱高下することから仮想通貨の利用価値は投機目的に止まるとの否定的な意見も少なくない。このような否定的な意見が日本人に蔓延している背景としては、2014年に東京の仮想通貨取引所マウントゴックスが破綻した事件が連想されること、さらに現在仮想通貨取引所の停止や分裂騒動などが進行中であることなどに起因すると見られる。

しかし、2016年から電力小売業に参入したガス会社がビットコインでの公共料金である利用料の支払いを可能にしたことは大きな一歩となった。これを機に日本においてビットコインが実用化に向けて動きだす可能性が高まる。また外国送金においてコスト節減など画期的なサービスを享受できるメリットも見逃せない。例えば、日本から銀行経由で送金を行えば10万円程度の送金額の場合数千円の銀行手数料がかかるが、ビットコインによるネット送金なら5円程度のコストで済むこととなる。

さらにビットコインを金融論の視点から見ると、中央銀行の管理下にない仮想通貨である点がこれまでの通貨と全く異質のものと言えよう。特に量的緩和策の遂行により中央銀行の管理の下で通貨が無尽蔵に発行される現行金融システムにおいて、発行額が限定され取引の安定性を目指す通貨の登場は現行金融システムへの新たな挑戦であり、今後の広がりを感じさせるものだ。

ビットコインは誕生して8年を経過したがこれまでは通貨としての基本概念についての議論に終始してきた。しかしここにきて実用化についての議論へと発展しつつある。つまりこの仮想通貨は第一段階を超えて第二段階に入ったとも言え、今後その進捗ぶりを注視する必要があるだろう。

AIと人間の関係は?

これまで述べてきたように、AIがもたらす金融イノベーションは、金融先進国である米国において実用化が進んでいる。その流れは変わらないとしても米国に続く発展の可能性を秘めるのが金融システムの発展に出遅れた国々である。その代表である中国ではネットショッピングの急増に伴うモバイル決済が急速に拡大し、また人民元への不信感を反映してビットコインの利用度も高まっている。また元々、通貨価値が不安定な国であるアルゼンチンにおいてもその利用度が高まっている。つまり金融後進国が「後発性の利益」を享受していると言うことで、後発ゆえに今後の伸びしろが大きいと言うことである。

このように金融イノベーションは、金融先進国と金融後発国という両極端の国々での発展が際立つが、それに比べて日本のように既存金融システムが構築されている国々においては、その成長は目下のところ限定的である。

実際、日本におけるフィンテックは未だ初期段階を越えていない。積極的に参入を試みる顔ぶれを見ると楽天やヤフーなどIT企業と中小のベンチャー企業が中心である。逆に金融の主役であるメガバンクの立ち遅れは明らかである。したがって今後米国発の金融改革の波が日本をどのように巻き込み、メガバンクとベンチャー企業がどのように新たなシステムを構築し、その結果としてどのような金融イノベーションがもたらされるのか注目されるところだ。

まとめ

AIは様々な分野で進化を遂げ、労働コストを削減し、生産性を上げては人間の営む経済生活の向上に寄与してゆくことになるだろう。それでは新たな時代を牽引するAIが人間に代わる存在となれるのかと言えば、その答えは「NO」だろう。AIは過去のデータの学習効果が高く、その点で人間の頭脳労働を代替することは可能だ。しかし新しい価値や成長を生み出すのかと言えばそれは難しいとしか言えないのが実情だ。AIには新しい価値を生み出すことについて能力的限界があり、AIがいくら進化したとしてもその点において人間を凌駕することは難しいのではないだろうか。つまり人間があくまでもAIを利用する主体であり続けることになるだろう。

(参考文献)

「中央銀行が終わる日―ビットコインと通貨の未来」(岩村充)

「超情報革命が日本経済再生の切り札になる」(野口悠紀雄)

「金融史がわかれば世界がわかる」(倉都康行)

(2017年8月1日)

【プロフィール】
ネクスト経済研究所代表 国際金融アナリスト 斎藤 洋二氏

大手銀行、生命保険会社にて、長きに渡り為替、債券、株式など資産運用に携割った後、ネクスト経済研究所を設立。対外的には(財)国際金融情報センターにて経済調査ODA業務に従事し、関税外国為替等審議会委員を歴任した。現在、ロイター通信のコラムを執筆、好評を博している。

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