前回、「駐在員を一人置くことのコスト」について少しだけ触れました。
実は、この「駐在員のコスト」は、海外進出した日系企業が苦戦する大きな原因になっているケースが多いのが事実です。ですから今回はどうしてそうなるのか?と言う点について、ポイントを押さえておきたいと思います。
▼目次
①税制の問題
新興国の物価水準から考えると、日本の給与というものはものすごく高い水準にあります。また、累進課税制度がある国の場合、日本人駐在員にかかる税率はものすごく高くなります。インドの場合、税率は概ね30%で、所得控除もほとんどありませんので、ほぼ額面金額に30%の税率がかかると考えてよいと思います。特に大企業の場合、駐在させるからと言って、その国の給与水準まで落とすことが制度上できないので、どうしてもこの「税」の問題がでてくるわけです。
またインドの場合、一定額以上の所得がある人にはさらに税額の12%が課税されるという「サーチャージ制度」があります。「取れるところから取る」というのは、世界共通の傾向なのかもしれませんね。
②住宅や車の問題
通常、海外駐在になると、住宅は会社契約で、社宅として従業員に提供されます。また、新興国は治安と道路事情が良くないので、ドライバー付きの車が会社から支給されることが通常です。また、日本人が住むような場所は、概ね高級住宅街ですので、その家賃なども馬鹿になりません。
このような場合、この住宅の家賃とレンタカー会社への支払い額はすべて「給与同等物」として処理され、給与計算に含まれることになります。そうなると、また①の税金が膨らむことになるのです。もちろん、住宅や車以外にも何か手当を支給している場合には、それらはすべて「給与同等物」として処理されることになります。
③社会保険料
社会保険料は国によって制度が違いますが、インドのようにまだ社会保障協定が施行されていない国の場合(条約はある)、その国で支払った社会保険料はすべて払い損になってしまいます。そのため、会社がその分を保証しなければならないのですが、それも②と同様「給与同等物」扱いになりますので、そのものの金額+税金で会社の負担が膨らむ形になります。
④グロスアップ計算
①~③を加味して、個人の手取り給与や住む家などを決めるのですが、税金を差し引くと、予想外に大きな税金が差し引かれるケースがあります。この場合、駐在員の方の手取りを保証しなければならないので、増加税金分を会社が負担する形になります。ただ、その会社が負担した分も当然給与扱いになりますので、そこに税金が乗ることになります。となると、その追加税金分にも税金が乗ることになり…と税金計算が無限につづくわけです。これをグロスアップ計算と言います。
この①~④の結果、たとえば当初駐在員の方の給料が600万ぐらいかな?と考えていても様々な要素を足し合わせると、合計1,500万円ぐらいかかってしまうというケースがよくあります。
私がコンサルティングを行う時には、インドでは「日本人駐在員一人あたり、だいたい1,500万円ぐらいがかかると考えてください」と言うようにしています。このあたりの事前の予算が甘く、進出してから赤字地獄になる企業も少なくないので、事前にしっかりとシミュレーションしたい所です。
まとめ
・税制及び住宅等の影響で、日本人駐在員を置くコストは予想よりずっと高くなりがち。
・インドの場合、概ね1,400~1,800万円程度かかるとみておいたほうがよい。よって、 事前のシミュレーションは入念に行うべき。
<プロフィール>
野瀬 大樹(のせ ひろき) 公認会計士・税理士
大手監査法人勤務の後、NAC国際会計グループに参画、インドのニューデリーにて主に日系企業をサポートするコンサルティング会社NAC Nose India Pvt. Ltd.を設立し、同代表に就任。インド各地にて、会計・税務・給与計算に加え、各種管理業務に関わるコンサルティングサービスを提供している。
事務所HP:http://in.nacglobal.net/