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インド経済の実情と日印ビジネス発展の可能性(エコノミスト 斉藤洋二)

      2016/09/21

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インドの人口は、現在約13億人と中国に次いで世界第2位であり、国連の世界人口推計によれば、2022年には世界で最大になると見られている。同時に、経済発展に連れて中間層の拡大も見込まれており、早晩世界で1,2を争う巨大な消費市場が誕生すると予測されている。

特に、現在のインドの人口動態は平均年齢も若く、人口ボーナスが当面続くと見られることから、農業主体から商工業を中心とした産業構造への転換、つまり都市型ビジネスの発展が期待され、今後インドの産業界そして進出する海外資本はその果実を享受することができるだろう。

とはいえ、現在のインドには、未だ前近代的な制度や規制があり、発展を阻害している。このような環境下、もディ政権は「モディノミクス」による構造改革により経済の合理化を進めているが、その改革の実現にはもう少し時間を要するものとなるだろう。

このような背景のインドだが、本稿においてはインド経済およびその中心に位置する新旧財閥の実情を眺め、さらに日印両国政府が連携を深める中で、インドに進出する日本企業の発展の可能性と課題を探ることとしたい。特にインドは、外資導入に伴う規制を緩和し、消費市場も拡大している点で、日本企業にとり進出する魅力が大きい。一方、法務・税務・財務(=会計)面において改善されつつあるものの、未整備の面も多く、さらに労務面でも様々な問題が発生する可能性がある点には十分に注意する必要があるだろう。

モディノミクスの現状

日本でアベノミクスが始まって3年半が経過したが、インドでも2014年5月にモディ政権が経済改革に着手し、国内外から「モディノミクス」と囃されて成長期待が高まっている。さらに、モディ首相は巧妙な外交で中国を意識しながら「強いインド」への布石を打ち続けている。しかし、日本で構造改革がなかなか進まないのと同様に、地方政府が強いインドにおいても中央政府主導による改革が奏功するのか、そして金融緩和で時間稼ぎをしている間に構造改革が進み、新興国群の中で一歩前を歩む中国を追撃することができるのか、今後の展開が注目されるところだ。

まず足元のインド経済を見ると、原油・天然ガスなど資源価格の低迷で経常収支が改善しており、同時に国際通貨基金(IMF)によれば15年の成長率は7.3%、16年は7.5%予想と中国を上回る好調を維持している。

さらに、ラジャン総裁が率いるインド準備銀行(中央銀行)がインフレを抑え込み、即効性に欠ける政府の構造改革を補完するように利下げを実施するなど、首相と中銀総裁との二人三脚が海外投資家への安心感を与えている。このような環境下、過去2年間は保険・防衛分野において海外資本の誘致に成功するなど、総じて順調に推移してきたと言えよう。

しかし一方で、カースト制度や土地制度などに見られる制度上の問題を前にして改革の速度が遅いとの指摘が続出する点も見逃せない。特に、モディ政権が進める食料の供給拡大を目指す農業改革や、土地供給を促すための土地収用法改正などは都市型ビジネスの優先を目指したもので、農村部と都市部との利益相反が目立つ。今後、中央政府主導での改革に対して地方・農村部からの抵抗が予想されるだけに、どのように着地させることができるのか注目される。

三大財閥に続く新興財閥の台頭

現在、インド三大財閥と呼ばれるのは「タタ・グループ(Tata Group)」、「ビルラ・グループ (Birla Group)」、「リライアンス・グループ (Reliance Industries Group)」だ。インドにおいて財閥は、英国の統治時代以来大きな役割を果たしてきたが、現在においてもこれら財閥は大きな存在感を示している。

その代表格で、ペルシャからの移住民の流れを汲むタタは、インドにおけるほぼ全ての産業分野に関与している。中でも主な事業は、自動車(タタ・モータース)、製鉄(タタ製鉄)、IT、電力の4部門での売り上げは同グループ全体の8割に及んでいる。

実際、タタ・モータースと言えば1台20万円台の安価な車「ナノ」で知られるが、同時にジャガーやランドローバーなど英国企業を傘下に収めるなど、M&Aにより事業拡大を積極的に行っている。タタ製鉄も英国系の大手を買収した結果、世界で5位にランクされているように、現在グループ全体で45万人を雇用しインド経済を牽引している。

タタを筆頭に三大財閥は、これまで既存制度下において地位を確立し優位性を示してきたが、ITなど新規分野の成長が著しく経営環境が激変していること、さらに相続をめぐる家族間の争いなどによりこれまでの勢力が分裂しつつあり、今では新興財閥が迫る状況へと変化しつつある。

こうした新興財閥の中で、「バールティ・エンタープライズ (Bharti Group)」、「アダニ・グループ(Adani Group)」、「ドクター・レッディーズ・グループ(Dr. Reddy‘s Group)」、「フューチャー・グループ (Future Group)」、「ベダンタ・グループ (Vedanta Resources)」などグローバルに展開する企業群の活躍が注目を浴びる。今後、構造改革が進むにつれインドのビジネス環境の一段の変化は避けられず、新興財閥や新しい企業がこれまでにも増して台頭するのは必至であり、これらの企業群と日本企業の合弁がさまざまに進んでゆくだろう。

日印ビジネス発展の可能性と課題

日本とインドの関係強化に向けては、2014年8月にモディ首相来日の折、「日印特別戦略的グローバル・パートナーシップのための東京宣言」が出された。この宣言において両国は、安全保障分野での連携を深めるとともに、インドにおける投資環境整備と日系企業の進出促進を見据えた経済協力が大きな柱として謳われた。また経済面では、今後5 年間で日本からの対印直接投資と進出企業(現在1,200社程度)を倍増させ、官民合わせて3.5 兆円の投融資を行うことが目標として掲げられた。

このように政府間レベルにおいて日印関係の緊密化が構想されているが、はたして民間ベースでどこまでその関係が深まるのか今後が注目されるところだ。ただ、日印関係の歴史を眺めれば、明治時代にインドから綿花を輸入しこれを製品化して輸出するビジネスモデルが構築され、そのことが日本の近代化に貢献したが、今後の日印関係にも大きなビジネスチャンスが眠っており、日本の経済発展に欠かせないのではないだろうか。

最近の日本企業の進出の例を挙げると、モバイル通信事業においてNTTドコモから2,500億円の出資を受けてタタ・ドコモが事業を展開している。また、みずほフィナンシャルグループがインド事業拡大に向けファンドに投資するなど、メガバンクグループが海外事業の拡大を目指している。このように、今後日本企業のインド進出に当たっては、大財閥にとどまらず様々な企業との提携が進むこととなり、その分野は製造業に始まり、中間層が成長するに従い非製造業へと広がってゆくだろう。

最後にインドに進出する日本企業が直面するビジネス環境の課題について整理しておこう。インドへの外資の進出にあたっては、1990年代に新産業政策が導入されて以来外資規制が緩和されてきたことから、進出や投資の自由化が進んでいる。また、政府はインフラ整備を推進中で、電力についても質量などの点で日本国内と比較すれば見劣りがするものの、大幅に改善されている点は特筆されるだろう。

とはいえ、法務、税務、財務(=会計)については、この国固有の事情を考慮する必要がある点、進出リスクとして挙げておく必要がある。特に法務面について言えば、インドの法律は1950年代以降、様々な法改正が行われた結果、現在では体系的な理解が難しくなっている。さらに、政府認可の取得など手続きに時間を要する点は懸念材料である。とはいえ、最近では税制改革が進みつつあり、国内の間接税の統一の動きに従いビジネス環境の改善が期待できるだろう。

一方、インドでは公用語が22もあり使用される言語は200にも上るとされている。このように、言語のみならず民族、宗教、文化が多様にあり、地方においてはカースト制度の影響も依然残っている。このような社会の多様性を受けて、労務環境が複雑化しており、企業経営に当たっては労務問題に苦慮する場面が多い点には留意する必要があるだろう。

これまで述べてきたように、インドにおけるインフラ整備が進み、また英語が共通語として使われていること、さらに法務、税務、財務において改善が進んでいる点からも、日本企業の進出の余地は大きいと言えよう。インドが成長力に溢れ、また外資導入に向けビジネス環境の整備に取り組んでいる現状、日本企業のインドへの進出の流れは本格化してゆくに違いない。

<プロフィール>

ネクスト経済研究所代表 国際金融アナリスト 斎藤 洋二氏

大手銀行、生命保険会社にて、長きに渡り為替、債券、株式など資産運用に携割った後、ネクスト経済研究所を設立。対外的には(財)国際金融情報センターにて経済調査ODA業務に従事し、関税外国為替等審議会委員を歴任した。現在、ロイター通信のコラムを執筆、好評を博している。 

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