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英文売買契約書(Sales Contract)の基礎と実務  ~第8回 品質保証とクレーム~(弁護士 江藤真理子)

更新日:

こんにちは、弁護士の江藤真理子です。
Sales Contract(英文売買契約)の条文シリーズ、前回は「所有権と危険負担の移転」という法律的にもわかりにくい部分でしたが、今回は、最重要といっても過言でない「品質保証とクレーム」です。

▼目次

品質の確認は”買主”の責任?

日本法に基づく、「品質保証」の基本的な考え方をご紹介します。

たとえば、国内でよくある取引基本契約書を結ぶにあたって、時折わざと「品質保証」や「瑕疵担保責任」の定めがないものを作成することがあります(売主提示の場合が多いですが)。

契約書に何の定めもないとき、買主は品質や瑕疵について、何のクレームも出せないでしょうか?

答えはNoです

何も定めがないときには、企業間であれば、売買の目的物が不特定なもの(=交換可能なもの)であるときでも、商法526条により規律されることになります。

民法にも瑕疵担保責任の条文があるのですが、商法では商取引の性質に照らして、法律関係が早く安定するよう、買主側にやや厳しい内容になっています。

つまり、①買主は売買目的物を受領したら、遅滞なく検査しなければならず②その検査で目的物に瑕疵があったら直ちに売主に通知をしたときには(ⅰ)契約解除、(ⅱ)代金減額又は(ⅲ)損害賠償請求ができ③瑕疵が隠れたもの(=直ちに発見できないもの)であるときは、目的物を受領してから6か月以内に発見したら責任追及可能、という内容になっています。

したがって、英文契約でも、準拠法を日本法にして、瑕疵担保や品質保証の定めをあえておかないこととし、いざというときには、商法526条を使えばいい、という考えにしてもよいということです。(現場の担当者がこの“6か月”のことなど気付かないリスクがあることはよく考えねばなりませんが)

英文売買契約書における「品質保証」の条文例

では、いつもの設例に沿って、今日の条文例を見てみましょう。

***
【設例】

MM物産(「売主」/“Seller”)の生活用品流通課の三井さんが担当となって、MM物産はシンガポールのスーパー(「買主」/“Buyer”)コーヒー用マグカップ(「本商品」/“Products”)を1000個販売することになりました。
***

Article XX. WARRANTY(品質保証)

1. The Seller warrants that for a period of six (6) months after the delivery, the Products shall be free from defects in material, workmanship and design, shall conform to applicable specifications, and shall vest in Buyer good and valid title to such Products.

2. If the Products fail to conform to the foregoing warranty, the Seller shall, at Buyer’s option, promptly repair, replace or refund the amount paid for such Products at the Seller’s expense.

(1. 売主は、引渡しから6か月間、本商品が材料、仕上がり及びデザインの面で欠陥がなく、適用のある仕様に合致しており、買主に対して本商品の十分で有効な所有権を移転することを保証する。
2. 本商品が前項の保証に適合しないときは、売主は、自らの費用負担で、買主の選択により速やかに修理、交換又は受領した代金の返金を行わなければならない。)

上記の例文は、お気づきのとおり、商法526条に近い内容を英語で規定したらどうなるか、という内容になっています。

1項についていえば、warrant(保証する)、free from defects(欠陥がないこと)、conform to applicable specifications(適用ある仕様に合致している)など、2項について言えばfail to conform(合致しない)、at Buyer’s option(買主の選択で)、repair, replace or refund(修理、交換又は返金)などの頻出の表現があります。

逆に、商品や、契約当事者間の力関係によっては、品質保証の約束をさらに限定することもあります。次のような例です。

Article XX. WARRANTY(品質保証)

1. The Seller warrants that the Product shall be conforming to the Seller’s standard specification.

2. The Seller shall convey to the Buyer good title to the Product free of any encumbrance, lien or security interest.

3. The Buyer shall make all claims regarding the Product against the Seller in writing within thirty (30) days after the delivery (“Claim Periods”). The Seller shall not be liable for any defects in respect of the Product unless claims for such defects are made in writing within the Claim Periods.

(1. 売主は、本商品が売主の標準仕様に合致していることを保証する。
2. 売主は、買主に対して、本商品に対する十分な所有権で、抵当権、担保権等の負担がないものを引き渡す。
3. 買主は、引渡しから30日以内に(“異議申立期間”)、書面で売主に対して本商品に関する異議申し立てを行わなければならない。売主は本商品に関する欠陥について、異議申立期間に書面で当該書面に関する異議申し立てがない限り、一切責任を負わない。)

こちらは、相当に売主寄りの内容です。

3項がポイントなのですが、売主としては、標準仕様に合致していることと、完全な所有権を渡すことくらいの約束は簡単なはずですし、異議申立期間が30日と短期に設定できれば、法律関係もすぐに安定します。

とはいえ、ここまで厳しい内容にすると、買主サイドからいろいろと修正の注文がつくことも多く、その後の交渉がかなりの負担になることもありますので、最初の条文として何をぶつけるかは、慎重に検討したほうがよいでしょう。

まとめ

いかがでしょうか?
今回は貿易取引(英文売買契約)において最重要ポイントの一つである「品質保証とクレーム」について解説いたしました。

ある調査会社の調べによると、買主からの入金遅延の理由で最も多かったのが「品質に問題があるので、支払いをしたくない」でした。品質に関する事前の取り決め・合意がいかに重要か感じていただければと思います。

▼バックナンバー
第1回 Sales Contract(英文売買契約)の特徴
第2回 Incoterms(インコタームズ)とは
第3回 ウィーン売買条約にご注意を!
第4回 売買の合意(売買の予約)と商品の特定
第5回 商品の価格と支払条件
第6回 商品の引渡しと検収(検査)
第7回 所有権と危険負担の移転

<著者プロフィール>

TMI総合法律事務所 弁護士 江藤真理子氏

東京大学法学部卒業。三井物産審査部海外審査管理室勤務を経て、2003年弁護士登録。企業法務を専門としており、国内・海外取引関係(海外進出の助言、契約書作成から紛争時の対応まで)以外にも、企業側からの雇用契約関係の助言にも対応している。

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