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第4次産業革命(インダストリー4.0)と日本およびアジアへの影響について(エコノミスト 斉藤洋二)

      2016/10/26

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注目度の高まる第4次産業革命。第4次産業革命は、これまでの産業革命とどのように違い、日本企業や、アジアにどのような影響を与えていくのだろうか。今回は、第4次産業革命が与える影響や、その波及の可能性について考えていく。

産業革命とは

第4次産業革命の話に入る前に、第1次から第3次までの産業革命について整理しておきたい。すなわち、第1次産業革命とは18世紀後半の水力や蒸気機関などによる工場の機械化であり、第2次産業革命とは19 世紀後半の電力の活用による大量生産の開始、そして第3次産業革命とは20 世紀後半の「工場で自動制御に使われる装置」(プログラマブル・ロジック・コントローラー=PLC))とIT(情報技術)を組み合わせた生産工程の自動化とされている。

技術革新によってもたらされてきた経済成長

世界経済は中国、インドが6%以上の成長を続けていることから、全体では3%台の伸びが確保されているものの、米国、日本など先進国では0~2%程度と、成長の減速が目立っている。特に日米欧は、金融政策においてこれまでの伝統的手法に止まらず非伝統的手法として量的金融緩和政策を導入して久しいが、それにも関わらず各国は長期停滞(セキュラースタグネーション)から脱することができない。

この長期停滞については、元米国財務長官ローレンス・サマーズ氏の指摘により議論が始まったが、依然その原因については意見が分かれ、しかるべき解は見いだせていない。とはいえ、これまでの世界経済をけん引してきたものとしては、「人口増加」もさることながら何よりも「技術革新」が世界の労働生産性を引き上げ大きな躍進をもたらしてきたことは論を待たない。そして、このような画期的な技術革新が長く起きていないことが現在の長期停滞の原因と言うことが可能だろう。

実際、究極の技術革新とも言うべき産業革命は、18世紀後半の英国で蒸気機関の発見を皮切りに始まった。それはまさにエネルギー革命であり、木炭、石炭、石油へと順次エネルギーが大転換する度に産業革命が進み、世界経済のパラダイムシフトが起きた。

第4次産業革命の実情

ドイツにおいて、2012年に産官学の連携により「インダストリー4.0」(=第4次産業革命)が始まり、現在4年が経過したところである。これは生産工程のデジタル化や自動化を大幅に進め、「工場のデジタル化」を通じてコストの大幅削減とものづくりの高度化を実現しようというものである。

それは、「進化した工場」、つまり「スマート工場(Smart Factory)」の実現を意味している。実際、その構想においては、スマート工場を中核としてモノやサービスのインターネットであるIoT( Internet  of  Things )及びIoS ( Internet  of Services)が中核として位置付けられている。そして、ここでキーとされる技術は、ネットワーク機能が強化されたITである。第3次産業革命でもIT が活用されているが、その対象は生産工程の自動化に限定されており、第4次産業革命ではこの範囲が大幅に拡大することが特徴的である。

スマート工場から展開されるものとして想定されるものには、ネットワークに接続された機器同士が自律的に協調動作する「M2M(Machine to Machine)」や、ネットワークを介して得られるビッグデータの活用、さらには生産系以外の開発・販売といった業務システムとの連携などが挙げられる。

スマート工場化が進むことにより期待できるものとして、まずエネルギー問題が挙げられる。例えば、工場の操業度に応じて、エネルギー供給をリアルタイムで調整できるようになれば、エネルギー消費量を大幅に減らすことができる。また、もう一つ期待できるものとして、働く人々への柔軟性、つまりIT の活用によって機械・設備を遠隔地から操作できるようになれば、安全、快適な場所で作業をすることができる。したがって、通勤自体が不要となるなど、働く人にとり自由度、快適度が高まることが期待される。

この第4次産業革命の流れは、ドイツに始まり米国やインドに波及して研究が本格化されつつあるところだ。この潮流に乗り、日本政府も遅ればせながら人口知能(AI)、ロボットさらにIoTを活用した新ビジネスの創出支援など民間投資の呼び水にしようとしている。果たして、官主導の呼びかけに応じて日本の民間企業は、研究開発に本腰を入れ技術革新への挑戦意欲を取り戻せるのだろうか。

日本経済の再生のカギとなるか

このような時代の大きな変革を先取りしようと、世界各国で産官学連携により行動が始まりつつある中で、現在の日本企業の置かれた状況を見ておこう。日本企業は、デフレ・スパイラル下、これまでデレバレッジ経営、つまり債務返済を優先させることを経営の最優先課題ととらえ投資活動を先送りしてきた。実際、日銀「資金循環統計」(2016年6月)によれば、非金融民間企業の現預金残高は261兆円と増加基調を辿っており、利益剰余金も合せると内部留保は300兆円を超えると見込まれる。

しかし、内部留保も本来新規の設備投資に回されるべきであり、手元に置くだけではただの遊休資本に過ぎない。これまでの日本企業は、デフレ圧力下で研究投資を削減し、設備投資を先送りしてきた。今後、日本政府が進めようとする第4次産業革命が日本に定着するには、企業が技術革新への種まきを行うこと、つまり様々な投資案件への積極的姿勢が必要と言えるだろう。

デフレ環境が未だ払拭されていないなかで、日本の企業経営者は今こそ「アニマルスピリッツ」を取り戻し、これまでのコスト圧縮最優先から、高付加価値型の経営を目指した投資を行う時だろう。つまり、成熟社会における企業は、内部留保を原資として「研究投資」「工場のデジタル化」により企業価値の増大を図るべきであり、その結果として労働生産性の向上がもたらされるのではないだろうか。

2012年末に安倍政権が発足して以来、アベノミクス三本の矢、そして新三本の矢が放たれたが、その効果は円安・株高などに限定されてきた。実際、日本経済はデフレ・スパイラルから脱しておらず、個人消費も設備投資も盛り上がらない。

そのような状況下、この四半世紀はほぼゼロ%台の低成長で推移してきた日本経済は4年後の東京五輪に向けて動き出した。果たして、長期停滞脱却に向けて打ち出された、8月の28.1兆円に上る経済対策には、投資を呼び覚ますほどの効果が期待できるのだろうか。

実際、その中身は「未来への投資」が掲げられているが、その実態は旧来型の公共投資とバラマキであることは明白だ。そして、公共投資は所詮需要の先食いでしかなく、その経済効果は限定的と言わざるを得ない。そこで期待されるのが、旧来型の公共投資ではなく第4次産業革命による技術革新と労働生産性の向上の効果と言えるだろう。つまり、これこそが日本経済再生の条件と言えるだろう。

アジアの未来への影響

世界経済のグローバル化が定着し、東南アジア諸国連合(ASEAN)やインドなど、アジア経済が急速な成長過程に入った現在、日本にとっての選択肢は「内向き化」ではなくこの地域との「共生」となるだろう。

実際、国内需要の停滞、労働コストの格差、さらには円高対応なども勘案すれば、海外シフトの流れを反転させることはできない。このような環境下、日本企業の海外生産比率はすでに25%に達しており、今後も増加傾向を辿るのは必至だ。したがって、中国はじめインドやASEANへの工場移転は本格化することになる。つまり、第4次産業革命は国内主導で進められるとしても、将来的には「工場のデジタル化」など様々な試みが、順次アジアへ移転されてゆくことになるだろう。それは、これまで様々な高度な技術が国内から海外へ移転されたのと同じ経緯を辿ることになるだろう。そして、アジアでは時間差を置きつつもそのメリットを享受することになるだろう。

もともとドイツで始まった第4次産業革命は、米国、インドで引き継がれている。その点では、日本はフロントランナーのインドからも学ぶ余地はあるだろう。このように、技術革新の動きは国内に止まらずアジア各国でも進みつつあり、双方向での技術革新のスピードアップが進むことになる。とすれば、技術革新を取り込むことが出来るか否かが日本企業生き残りのカギとなるのではないだろうか。

 

<プロフィール>

ネクスト経済研究所代表 国際金融アナリスト 斎藤 洋二氏

大手銀行、生命保険会社にて、長きに渡り為替、債券、株式など資産運用に携割った後、ネクスト経済研究所を設立。対外的には(財)国際金融情報センターにて経済調査ODA業務に従事し、関税外国為替等審議会委員を歴任した。現在、ロイター通信のコラムを執筆、好評を博している。

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