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英文売買契約書(Sales Contract)の基礎と実務  ~第7回 所有権と危険負担の移転~(弁護士 江藤真理子)

      2018/03/31

引き続き、Sales Contract(英文売買契約)の重要な条文を取り上げます。前回(第6回)は商品の引渡しと検収(検査)の条文を取り上げました。今回は、「所有権と危険負担の移転」です。(第1回第2回第3回第4回第5回はコチラ)

はじめに

「所有権」は解説不要だと思いますが、日本語でも理解するのが簡単でない、「危険負担」については少しご説明します

危険負担の具体例で良く出されるのは、建物の売買契約において、引渡し前に建物が燃えたら買主は代金を払わなくていいのか、というものです。

たとえば、湖畔に別荘を買って、土地が100万円、建物が500万円だったとします。契約締結後、あと少しで引渡し、というときに不幸にして建物が火事で燃えてしまったとしたら、買主が払わなければならないのは、600万円なのか、100万円なのか。

わが民法を当てはめると、答えは600万円。民法は、このような特定物の売買の危険を、消滅してしまった特定物(この例では燃えてしまった建物)の引渡し請求権を有する債権者(この例では買主)側に負担させているのです。学生の頃にこれを習って、「えー、厳しい!」と思ったのは私ですが、いかがでしょうか。

なお、民法は、不特定物の売買では債務者側(不特定物の売主)に危険を負担させているので、代金を支払義務も一緒に消滅して売主は代金を得られません。

このように、危険負担は重要な売買条件の一つになりますので、売買の目的物の危険負担について、もともと危険を負担している売主から買主に対して、いつ移転することになるのか、常に意識しておく必要があります。一般的には、目的物が売主の支配下から買主の支配下に移る時点で危険負担も移転するというのが公平ですが、貿易取引の場合には、たとえば船便であれば長期間航海が続くので、特に重要です。いずれにせよ保険をかけるのが通常ですが、だれの何のリスクか、明確にしておかなければなりませんので、危険負担への理解は不可欠となります。

では、いつもの設例に沿って、今日の条文例を見てみましょう。

***
【設例】

MM物産(「売主」/“Seller”)の生活用品流通課の三井さんが担当となって、MM物産はシンガポールのスーパー(「買主」/“Buyer”)コーヒー用マグカップ(「本商品」/“Products”)を1000個販売することになりました。
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所有権と危険負担の移転時期

Article XX. Title and Risk(所有権と危険負担)

Title to and Risk of the Products shall pass from the Seller to the Buyer at such time when, and at such place where, the Products are delivered on FCA Tokyo basis under the definition of the Incoterms 2010.

(本商品の所有権及び危険負担は、本商品がインコタームズ2010によるFCA東京条件により引き渡された時点及び場所において、売主から買主に移転する。)

何回か前にやったINCOTERMS(インコタームズ)が出てきましたね。上記の条文は、MM物産の三井さんが、INCOTERMSのFCA東京条件を選択したときの例になります。
INCOTERMSでは、危険負担の移転時期も定めていますので、このような条文になります。

次のような例もよく見ますね。

Article XX. Title and Risk(所有権と危険負担)

Title to and Risk of the Products shall pass from the Seller to the Buyer at the time when the Products are loaded on board at the port of loading.

(本商品の所有権及び危険負担は、本商品又はその一部が船積港で本船に船積みされた時点で、売主から買主に移転する。)

「船?」と思われる方もいるかもしれませんが、これは、INCOTERMS(インコタームズ)のFOB、CFR、CIF条件の利用(船便の利用)を前提にした条件になります。FOB、CFR、CIF条件の場合は、「Risk transfer from the seller to the buyer when the goods are loaded(危険負担は商品が船積みされた時点で売主から買主に移転する)」となります。

このように、売買契約書でも危険負担の移転時期を明記するときには、INCOTERMSの条件と同じ内容になるように記載することになります。

INCOTERMS(インコタームズ)で危険負担も決められている

「え?では、危険負担の規定はINCOTERMSにゆだねて、書かなくてもいいのでは?」と思ったみなさん、そのとおりです。
以下のような所有権の移転時期しか定めていない売買契約もあるのは、そのためです。

Article XX. Title Transfer(所有権の移転)

Title to the Products shall pass to the Buyer upon payment in full.

(本商品の所有権は、本商品の代金が完済されたときに買主に移転する。)

しかし、逆にいえば、所有権の移転時期はINCOTERMS(インコタームズ)には一切書かれていません

MM物産の三井さんとしても、ある程度の量の商品をシンガポールの客先に販売しますから、危険負担はINCOTERMS(インコタームズ)にゆだねるとしても、所有権の移転時期は、契約書にきちんと入れておくべき、ということになります。

もちろん、日本国内の売買とは異なり、所有権留保がどこまで強力かは疑問が残りますが、交渉材料としては重要な条件になります。

まとめ

いかがでしょうか?今回は貿易取引(英文売買契約)においてよくトラブルになりがちな、「所有権と危険負担の移転時期」について解説いたしました。特に「所有権の移転時期」については、INCOTERMS(インコタームズ)に定めが無いため、売買契約書にどのような記載がされているのか、必ず確認することをお勧めします。

⇒第8回 品質保証とクレーム

▼バックナンバー
第1回 Sales Contract(英文売買契約)の特徴
第2回 Incoterms(インコタームズ)とは
第3回 ウィーン売買条約にご注意を!
第4回 売買の合意(売買の予約)と商品の特定
第5回 商品の価格と支払条件
第6回 商品の引渡しと検収(検査)

<著者プロフィール>

TMI総合法律事務所 弁護士 江藤真理子氏

東京大学法学部卒業。三井物産審査部海外審査管理室勤務を経て、2003年弁護士登録。企業法務を専門としており、国内・海外取引関係(海外進出の助言、契約書作成から紛争時の対応まで)以外にも、企業側からの雇用契約関係の助言にも対応している。

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