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英文売買契約書(Sales Contract)の基礎と実務  ~第6回 商品の引渡しと検収(検査)~(弁護士 江藤真理子)

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前々回から、実際のSales Contract(英文売買契約)中の重要な条文を取り上げています。第6回(第1回第2回第3回第4回第5回はコチラ)は、商品の引渡しと検収(検査)の条文を見ていきます。

今回で3回目になりますが、Sales Contract(英文売買契約)の条文、いかがでしょうか。一つ一つ見てみると大したことない、という感覚が伝わると筆者としてもうれしいです。

▼目次

はじめに

私たちも消費者としては、ほぼ毎日、売買契約を締結していると思いますが、たいていはその場でお金を払って商品を受け取って終わりです。しかし、企業間の大型取引では、むしろそのような売買は少数で、契約上、商品の引渡しは契約締結よりも後になるのが通常であることから、いつ、どこで受け取るか、そして、物によってはその検査をどうやって行うか、が重要になってきます。

ここで、「引渡し」の言葉について少し補足します。「引渡し」は立派な法律用語で、民法178条(「動産に関する物件の譲渡は、その動産の引渡しがなければ…」)などで使われています。英語であれば、何か運送契約のような響きがあるかもしれませんが、Deliveryなどといいます。このように、引渡しとは、売買の根幹たる売主の義務になりますから、重要な条文です。今回も具体的な設例に沿って話を進めます。

 

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【設例】

MM物産(「売主」/“Seller”)の生活用品流通課の三井さんが担当となって、MM物産はシンガポールのスーパー(「買主」/“Buyer”)コーヒー用マグカップ(「本商品」/“Products”)を1000個販売することになりました。
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商品の引渡し(Delivery)

Article XX. Delivery of the Products(商品の引渡し)

Delivery of the Products shall be made at Tokyo Port, Japan on a CIF Singapore Port basis, on or before the 15th day of December, 2017.

本商品の引渡しは、東京港において、CIFシンガポール港条件で、2017年12月15日までになされるものとする。

ここで、「CIF」というのが出てきましたが、覚えていらっしゃるでしょうか。第2回でご紹介したインコタームズ((Incoterms)国際商業規則)の一つです。CIFというのは「Cost, Insurance and Freight」の略で、売主が運賃と保険料を負担する条件になります。

本件でいえば、売主は、2017年12月15日までに東京港のコンテナヤードで買主手配の運送人に引き渡さなければならず、それまでのリスクを負うほか、シンガポールまでの海上運賃と保険料を負担するということになります。インコタームズ、3文字ですが便利ですね。

なお、本件では、「FCA Tokyo」条件にすれば、東京港からシンガポールまでの運賃、保険料は買主負担となり、「CIF Singapore」ということになると、東京からシンガポール港までの運賃と保険料は売主負担ということになります。当然、「FCA Tokyo」のときより、「CIF Singapore」のほうが価格が高くなります。

検査(Inspection)

引渡しとセットなのが、検査(検収)です。

日本の法律では、商品の受入れ検査について商法526条に規定がありますので、日本国内の商人間の売買契約で検査条項がない場合、商法526条を見ればいいことになります。しかし、海外との契約の場合、やはり相手方が海外企業ですから、いれるのが望ましいといえます(日本法が準拠法の場合は、商法526条に委ねるつもりで何も書かない、というのも戦略ですが)。

このとき、当事者が納得いく形でタイムリーに検査するのが難しいのが通常なので、第三者を検査人として指定したり、船積み前の製造業者による自主検査を信頼することとして、当該検査を最終としたりすることも多いです。今回は、後者の例文をご紹介します。

Article XX. Inspection of the Products(商品の検査)

The inspection by the manufacturer of the Products prior to shipment shall be final between the Seller and the Buyer with respect to the quality and quantity of the Products.

(本商品の品質及び数量に関しては、製造業者にて出荷前になされる検査をもって、売主及び買主間で最終的なものとする。)

しかしながら、これでは買主として安心できない、ということもあるので、「The Purchaser shall have the right to inspect the Products after the delivery at the final destination and reject the defective Products.(買主は、引渡後に最終目的地において本商品を検査し、瑕疵のある本商品については受領を拒否することができる。)」というような条件を入れるよう求められることもあります。

まとめ

引渡しの条件と検査の条件、大事な条文ですから、まずはよく読んでみて、素直な疑問を大事にしていくとよいと思います。

⇒第7回 所有権と危険負担の移転

▼バックナンバー
第1回 Sales Contract(英文売買契約)の特徴
第2回 Incoterms(インコタームズ)とは
第3回 ウィーン売買条約にご注意を!
第4回 売買の合意(売買の予約)と商品の特定
第5回 商品の価格と支払条件

<著者プロフィール>

TMI総合法律事務所 弁護士 江藤真理子氏

東京大学法学部卒業。三井物産審査部海外審査管理室勤務を経て、2003年弁護士登録。企業法務を専門としており、国内・海外取引関係(海外進出の助言、契約書作成から紛争時の対応まで)以外にも、企業側からの雇用契約関係の助言にも対応している。

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