本連載では過去9回においてASEAN9か国の実情を順次観察して来ました。今回の最終回ではブルネイを取り上げます。
ASEAN10番目の国として取り上げるブルネイは、①人口が40万人しかいない、②原油産出国である点で、ASEANでは特異な存在と言えるでしょう。
イスラム国家であるブルネイは、原油と天然ガスを産出し、1人当たりGDPは45,000ドルと日本とほぼ同水準となっています。とはいえ、鉱物資源の埋蔵量は有限であることから、国家の存亡をかけて目下取り組んでいるのが、環太平洋経済連携協定(TPP)とイスラム金融への取り組みの強化です。
ブルネイは鉱物資源の輸出環境を整備し、より自国に有利なものとする為に、TPPの当初メンバーに名を連ね、現在もTPPの推進を積極的に行っています。一方で、原油や天然ガスが枯渇する将来に備えて、金融市場の整備、特にイスラム金融に取り組んでいるのです。
このような状況を踏まえ、本連載の最終回となった今回はブルネイが取り組んでいるTPPとイスラム金融について焦点を当ててみましょう。
▼目次
ブルネイがTPPに参加するメリット
ブルネイは国内市場が小さいことが特筆されます。また、輸出の全てが原油と天然ガスで、食糧などを輸入に頼る貿易依存の経済構造となっています。
そのような背景から、ブルネイが関税撤廃などを行ってこうむる不利益は小さく、また国際競争力のある輸出品を持っていることから、TPPで大きなメリットを享受できる国のひとつとなっています。
TPPの当初メンバー4か国は、ブルネイの他、人口が500万人余りで工業製品の輸出が多く、古くから東西貿易の拠点であるシンガポール、人口が約400万人で、畜産と農業が盛んでその輸出で稼ぐ国ニュージーランド、そして人口1,700万人余りで、銅などの鉱物資源とワインなどの農業製品輸出が多いチリといった顔ぶれで、輸出のメリットを受ける中小国が名を連ねているのです。
目下TPPの交渉は日米を始めとする参加国において反対論が強まるなど、様々な問題が表面化しています。その決着は、日本の農業のようにそれぞれの国内産業の将来を決定づけることになり、条約批准への道のりは厳しくなりつつあるように見受けられます。
なぜブルネイはイスラム金融に取り組むのか
イスラム金融は、コーランの教えに基づき、イスラム社会で行われる金融取引です。利子の受け渡しがなく、酒・賭博・武器など、教義に反する事業への投資を行わないのが特徴です。利子の代わりとして、リース料、配当金などを組み合わせています。
シャリア(法、規範)というイスラム法が禁じている対象として、投資や融資が挙げられます。しかし、債券や保険などの金融サービスが可能であることから、非イスラム圏からの投資が活発化しています。
ここにきて各国がイスラム金融を積極的に取り入れる背景として、市場規模の拡大が挙げられます。イスラム金融について正確に数字を把握することは難しいのですが、年間15%程度の伸び率で拡大しているとされています。
市場規模拡大の背景には、かつての産油国の富の増加がありますが、昨年からの原油価格の下落により、短期的に市場拡大のペースが鈍ることは避けられないことでしょう。これまで、産油国マネーは主に産油国域外で、株式投資など一般的な金融手法で運用されてきました。そして、世界的な経済の活況と、イスラム金融の発達が重なる形となり、市場規模が拡大していったと考えられます。
このようにイスラム金融が発展する過程で、イスラム国家であり産油国でもあるブルネイが、これまでの金融システムに止まらず、積極的にイスラム金融へ乗り出し、拡大する需要を取り込むことで国の発展の礎を作ろうとするのは、自然の流れと言って良いでしょう。
まとめ
これまで10回に渡りASEAN諸国の発展の可能性を探ってきました。そのASEANの成長シナリオの1つとして、インフラ整備を行い、外資導入を導入し、工業化を図ることが挙げられるでしょう。しかし、このような持続的成長には政治の安定が欠かせないことは言うまでもないでしょう。
一方、インフラ整備優先は、環境破壊を伴うこととなり、また教育や医療・保健などの社会インフラの整備が後回しになる懸念も生じます。はたして、ASEANは今後、どのような発展過程を辿るのでしょうか。
ASEANの発展は、世界経済の影響を受けながら、前進や後退を繰り返すことが予想されます。従って10年、20年単位の長いタイムスパンでフォローして行く必要があるでしょう。