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朝鮮半島緊迫化と日本への影響  (エコノミスト 斉藤洋二)

      2017/04/18

4月6日、トランプ政権は化学兵器の使用が疑われるシリアのアサド政権軍へ、巡航ミサイルによる攻撃に踏み切り、これまでから一転して「力の外交」への回帰を誇示した。一方、 シリアと北朝鮮は友好関係を続けていることから、今後、米国の北朝鮮に対するスタンスも「対話」から「軍事行動」へと移る可能性が高まった点が特筆される。

また、この軍事行動がフロリダ州にあるトランプ大統領の別荘で米中首脳会談の会食中に行われたが、シリアの後ろ盾のロシアを震撼とさせたのみならず、北朝鮮と友好関係にある中国に対してもトランプ政権の強固な姿勢を示すこととなった。

今回の米中会談においては、貿易不均衡の是正やこのところ緊張を高める朝鮮半島情勢、特に核実験とミサイルの発射実験を繰り返す北朝鮮への対応が話合われた模様だ。その北朝鮮は、執拗に米国への威嚇を続けており、もはや米国にとってその脅威は全米を覆いつつあり見過ごしておく余裕がなくなってきている。

これまでの北朝鮮による、国連安保理の経済制裁の決議にも拘わらずの威嚇行動は、米国および中国の接近をけん制し、自らの存在を主張するものであることは明らかだ。さらに、現在韓国で行われている米韓合同軍事演習への対抗、そして金正恩朝鮮労働党委員長の国内における権力基盤の強化などを意図したものであると考えられる。

このように、大統領の実質的な不在が長引く韓国と威嚇行動を活発させる北朝鮮がにらみ合う朝鮮半島の情勢は混沌としており、その緊迫化は東アジア、特に日本の政治・経済に多大な影響を与えることは必至である。ついては朝鮮半島の実情を精査し、日本への影響について以下考察することとしたい。

北朝鮮と中国

北朝鮮の威嚇行動が活発化する中で、トランプ政権は北朝鮮問題を政権の重要課題ととらえ、「北朝鮮に対して先制攻撃も辞さない」との発言を行った。これまで、朝鮮半島の非核化に向けては、1993年より米韓中朝日ロの六者会合による「対話」を軸にして行われてきた。しかし、北朝鮮の核・ミサイルの開発に歯止めはかからず、逆に米国の脅威は高まったとして対話路線を全くの失敗とトランプ政権は断じた。そして、中国が北朝鮮へ圧力をかけない場合は自ら単独で制裁を行うとのスタンスを明らかにしている。

その背景には、北朝鮮の後ろ盾である中国が北朝鮮への圧力をかけることに協力せず、逆に様々な面において支援してきたことがある。実際、北朝鮮に対する経済制裁が国連安全保障理事会で決議され、中国は現在石炭禁輸を年内実施するとしているものの、多くの場合反対してきた。そして、北朝鮮は中国と共同経営する銀行を通じて資金を集め、また数百社に上る中国企業を経由して必要な物資の調達を行っていると言われるなど、経済制裁がしり抜け状態になっている。

実際、2015年の中朝貿易は55.1億ドルと、中国への依存度は90%に達していると見られる。さらに中朝貿易の主要な品目を見ると、北朝鮮からの輸出は石炭および衣料品を中心とし、また輸入は電気製品や農産品などとなっている。このように、北朝鮮にとり中国との貿易は生命線であり、また北朝鮮への経済制裁を無力化していることは明らかだ。

このように北朝鮮と中国の緊密な関係は、北朝鮮が米中の緩衝地帯としての機能を果たしていることを抜きにしては考えられない。つまり北朝鮮は、中国が米軍基地のある韓国と直接的な接触を回避でき、戦略上欠かせない防波堤となっているのだ。

とはいえ、中国が北朝鮮による核・ミサイルの開発進化を歓迎しているわけではない。その中国が米国の要請を受けてどのように対応するかは不明だが、今秋に5年に1度の共産党大会を控えていることから、習指導部が外交特に米中関係の混迷化を回避したいのはやまやまだ。中国の北朝鮮への影響力がどの程度なのか見えない中で、中国が米朝の間に入り、どのような役割を果たせるのか今後注目されるところだ。

流動化する韓国

一方韓国においては、朴前大統領は既に罷免され大統領代行がその任に当たっているが、韓国の政治はここ数か月まったくの機能不全状態が続いている。 このような状況で5月9日に行われる大統領選は今月半ばに公示され与党「自由韓国党」(保守系・旧セヌリ党)は公認候補の洪準杓(ホン・ジョンピョ)氏が出馬する見込みであるが、朴政権の腐敗への国民の不満は大きく、選挙を勝ち抜くのは難しい状況だ。目下先行するのは、「共に民主党」(革新系)の文在寅(ムン・ジェイン)氏で、それを追うのが「国民の党」(中道系)の安哲秀(アン・チョルス)氏だ。4月に入り保守票の受け皿となった安氏が文氏を急追しており、現在はほぼ肩を並べたとも言われる。その帰趨は5月9日の投開票待ちと言ったところだ。

ただ、どちらが大統領になるにしても、韓国は前大統領の醜聞に政治情勢は混乱を極め、また社会の亀裂も深刻化している。したがって、新大統領就任後は国を覆う政治不信の解消が優先されることになりそうだ。

一方外交・安全保障面では、軍事挑発を重ねる北朝鮮への対応が注目される。この点においては日米韓の連携の必要性が語られるところではあるものの、文在寅候補も安哲秀候補もともに北朝鮮に融和的であり、一方で反日的な姿勢を隠さないことから連携を強めることができるのか不安視される。

また米軍のTHAAD(終末高高度防衛ミサイル)の韓国配備について中国が反発しているが、同じく親中的な文候補もTHAADに反対していると見られる。一方、安候補はTHAADに賛成の意向を示しており、今後韓国が米日と中朝との間においてどのような姿勢を示すのかは新大統領の意向が色濃く反映されるだけに、選挙結果が注目されるところだ。

なお最終結論に至ったはずの慰安婦問題に関する日韓合意については、両候補は見直しを示唆しており、国内世論を映じて韓国政府の日本に対する姿勢はより厳しくなる見込みだ。このように、韓国の政治スタンスは選挙以降まで明らかにならず、また北朝鮮の動きが不透明なだけに、半島情勢の先行き不安は日本に対して重くのしかかることになりそうだ。

半島情勢の日本への影響

朝鮮半島が流動化した場合の日本への影響は、政治的・経済的さらには物理的な被害の恐れなど様々に予想される。実際、東アジアおよび日本の歴史を紐解くと、半島情勢の変化に応じて日本は国家運営の方向性を大きく左右されてきた。

例えば、日本は6世紀以降朝鮮半島への進出を活発化させていたが、7世紀半ばの「白村江(はくすきのえ)の戦い」で日本・百済連合軍が唐・新羅連合軍に敗れて半島での拠点を失い、日本は海外志向から国内志向へと舵を切り長く内向きの時代を過ごすことになった。

その敗戦を機に唐や新羅などから大量の占領軍が日本に来たとされているが、その結果政治制度としての律令制が導入され、また首都としての平城京が整備され、日本が新たに出発することになった。その後、日本は平安時代を通じて国風化を進め、鎌倉時代になるとさらに陸地に根差した内陸国家へと転換して行く。

その後15世紀以降は倭寇さらに堺の商人などによる海外志向の高まりを受けて日本は再び海洋国家となり、歴史の上でも画期的な外向きの16世紀を迎え、グローバル化を進めることになった。ただ豊臣秀吉の朝鮮出兵の失敗(文禄・慶長の役)以降再び内向きに転じ、江戸幕府により鎖国政策へと転じた。

このように日本は大陸や朝鮮半島との関わりの中で大きな影響を受け国の方針を大きく転換してきたが、その傾向は今もそして今後も変わらないと考えて良いだろう。つまり現代においても東アジアにおける地政学リスク増大が日本、日本人、日本の企業へ与える影響は大きいものであると言えよう。

すでに再三に渡る北朝鮮による核・ミサイルの実験は、日本海を隔てて至近の日本に脅威となっている。すでに日本の経済排他水域(EEZ)の内、つまり秋田沖の僅か数百キロに弾道ミサイルが落下するなど物理的な危険が迫っているのが実情だ。

したがって半島情勢の緊迫化は、リアルタイムに政治・経済面、特に為替・金融市場を襲う。実際株安を通じて円高へと市場が触れることになり、円安によりデフレスパイラルからの脱出を狙う日本にとって、景気回復の腰折れにつながる要因として働くことになるだろう。

半島情勢がどのような展開を辿るのか目下のところ読みづらい。米国の要請により、中国が仲介役となり米中朝の3か国がテーブルにつく可能性が模索されれば進展があるだろうが、その可能性は低い。トランプ政権の強硬手段も有りうる状況下、「朝鮮半島有事」の場合の日本への打撃を想定しておくことも必要かも知れない。どちらにしても朝鮮半島情勢の緊迫化は日本に重くのしかかることになるだろう。

(2017年4月10日)

(プロフィール)

ネクスト経済研究所代表 国際金融アナリスト 斎藤 洋二氏

大手銀行、生命保険会社にて、長きに渡り為替、債券、株式など資産運用に携割った後、ネクスト経済研究所を設立。対外的には(財)国際金融情報センターにて経済調査ODA業務に従事し、関税外国為替等審議会委員を歴任した。現在、ロイター通信のコラムを執筆、好評を博している。

 

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