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米国リスク【第6回】格差拡大が映しだす米国社会の光と影

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トマ・ピケティが、世界的ベストセラー著書「21世紀の資本」で富裕税の導入を提案し議論を巻き起こしたように、格差拡大は世界各国に共通する深刻な問題です。米国も同様に格差拡大が、中間層の没落と貧困層の増加による社会断裂を引き起こし、さらには消費の減退につながるとの懸念が膨らんでいます。

格差問題を是正する万能な処方箋はいまだなく、現実的な対応は、税による富の再分配と言われています。

連載第6回の今回は、米国の格差社会の問題がどこにあるのか、富裕税は果たして有効な解決策となりうるのかについて考えてみましょう。

 

▼目次

「林冠経済」化するアメリカ

米国のチャールズ・ファーガソンが著書「強欲の帝国」(Predator Nation)で米国経済の現状を「林冠経済」(Canopy economy)と呼んでいます。

「林冠」とは何か

林冠とは、森林の太陽光をふんだんに浴びて枝葉が繁茂する天辺部分のことであり、そこでは独特の生態系が育まれ、特別な動植物相が存在します。これはまさに林冠の「光」の部分と言えます。一方で、林冠は光がその下の枝葉層に届くのを妨げる働きを有しています。これは林冠の「影」の部分と言えるでしょう。林冠の生態系が、光と影の部分の差を一段と大きくしていることになります。

林冠経済による社会の分断

このような林冠の生態系はまさに現在の米国経済そのものだ、としてチャールズ・ファーガソンは米国経済を「林冠経済」と呼んだのです。つまり最上層にいる一握りの超エリートが富を独占し、中間層そして貧困層とのつながりを失っている経済・社会こそが現在の米国の姿だ、と指摘しています。実際上位10%の人が所得の50%を、なかでも上位1%の人は所得の20%を占有している現状が全てを物語っているのかもしれません。

林冠の生態系に属することが出来るのは、コンピューター・サイエンスの修得者やMBA取得者を除けば富裕層もしくはそれに準じる階層に属した子弟・子女に限定されると考えられます。格差の固定化が進んでいる点が、問題の根深さの一端と言えるでしょう。

林冠が警鐘する米国社会の今後

リーマンショック後の金融危機が去って7年、米国の抱える問題は是正されたでしょうか?金融界トップの高報酬が常態化している点や格差の存在など本質は不変であると言っても良いでしょう。林冠が栄えれば栄えるほど森林の生態系は崩れて行く。つまりこれは、富裕層が栄えれば栄えるほど米国社会は崩れて行くという警鐘と言えるのかも知れません。

ジニ係数に見る格差の実態

所得格差を表す数字としてジニ係数がよく使われます。“1”は一人が総取りする状態つまり究極の格差であり、そして“0”は平等を表します。このように係数は「0から1」の間に位置づけられ、一般的に0.4を上回ると社会不安が増大し暴動等を招く恐れがあると言われています。

現在日本は0.33、そして米国は0.39に達しています。何かと格差問題が喧伝されている中国は0.469(中国政府が12年ぶりに発表した2014年時点の数値(※))でした。米国の富の集中は、権力と富が一体化していない点で中国と異なると言えるでしょう。ただ、ジニ係数が既に高水準にあり、これ以上中間層が細ると米国全体として消費の落ち込みが懸念され、米国経済の活力が失われかねません

とは言え、これという答えもないのが実情であり、税金や社会保険による「富の再配分」という従来型の手法のみで格差是正を解決するのは一筋縄ではいかないことだけは言えるでしょう。
(※)中国人民銀行と四川省の西南財経大学が共同で設立した研究機関、「中国家庭金融調査研究センター」の2014年調査では0.7以上という結果もでている。

格差是正に向けて富裕税は有効か

米フォーブズ誌の世界長者番付を見ると、上位陣には米国からマイクロソフト社のビル・ゲイツやバークシャー・ハサウェイ社のウオーレン・バフェットなど企業経営者が資産5~10兆円余りと上位に並んでいます。

先年、このバフェット氏が富裕税導入に前向きである旨をオバマ大統領に語ったことが話題になったことがあります。この背景は利息・配当など金融収入が多い同氏の所得税率が従業員の税率よりも低いことを問題視した結果と言われました。このように富の再分配を促す上で富裕税の導入が米国でもしばしば議論されています。

しかし現実はそれほど簡単ではないようです。フランスなどの富裕税導入の結果を見ると、一部富裕層がスイスやベルギーなどへと移住したケースが散見されています。格差社会是正の数少ない有効策と思われる富裕税ですが、適切に制度を運用することはなかなか難しいということでしょう。

このように格差社会の是正手段として、富の再分配について様々な議論が行われていますが、根本的な是正に向けた有効な政策はこれまでの経済学では解明されていないと言っても良いでしょう。

まとめ

高度経済成長する社会では格差は縮小し、低成長下では格差は拡大すると言われています。その意味では長期停滞に入ったとも言われる現在の米国は、格差が拡大する傾向にあると考えられます。格差拡大は米国のみならず、日本を含む先進国の共通課題であることを認識し、世界が一致してこの難問に対峙する必要があると言えるでしょう。

risk_profile ●コラム筆者プロフィール●

名前:テムジン
リスクマネジメント界のチンギス・ハンです。
一言:迷える子羊たちに、世界各国のカントリーリスクを
分かりやすく説明します。

 

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