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【5分で解説】アメリカ大統領選挙がもたらす5つのリスクとは?(エコノミスト 斉藤洋二)

      2016/10/09

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2016年11月8日に行われるアメリカ大統領選挙まで、あとひと月を切った。目下ヒラリー・クリントン氏とドナルド・トランプ氏は3度にわたるTV討論会の真っただ中で8千万人を超える視聴者の前でディベートに凌ぎを削っている。両者を比較すると、選挙戦前半から一貫してクリントン氏が優位で、現在でも支持率で数ポイントリードしているとされる。しかし6月の英国のEU離脱において世論調査の精度が低いことが明らかになったばかりで、この大統領選挙についての予想にはくれぐれも注意する必要があるだろう。

全国レベルでの支持率はさておき、オハイオ、フロリダ、ヴァージニアなど、両党の支持が拮抗している激戦州である『スイング・ステート(Swing State)』において、どちらが勝利するかが注目される。この地区の結果が大勢を決することになり、その票読みが始まるなど、いよいよ選挙戦は最終盤の様相を呈している。

今回の選挙の特徴は、嫌われ者同士の一騎打ちになったことだろう。かつてブッシュ政権で国務長官を務めたパウエル氏はトランプ氏を「国家の恥だ」、そしてクリントン氏を「尊大だ」と形容したが、この二人の候補はともに様々な問題を抱えている。

その一端を示せば、クリントン氏の場合は健康問題、自ら役員になっているクリントン財団の私的利用、さらに私用のメールアドレスを公務に使用していた問題などが挙げられる。そしてトランプ氏については、女性差別を含めたこれまでの発言の数々に加え、18年間におよぶ税逃れの疑惑もあり、両者ともに果たして大統領の資質を備えているのかとの疑問は拭いきれない。

以下にクリントン氏およびトランプ氏が大統領に就任した場合の米国内および世界経済への影響について、①対中戦略としてのTPP、②保護貿易の台頭、そして、③大統領選挙がもたらす5つのリスクについて考察することとしたい

対中戦略としてのTPP

環太平洋経済連携協定(TPP)の協議は、シンガポール、ブルネイ、チリ、ニュージーランドの4か国で始まったが、2011年頃から米国主導へと変わった。2016年2月に12か国間で合意署名に至り、目下各国で批准手続きに入っているところだ。

そもそも、TPPに参画する前の米国ブッシュ政権は、アフガニスタンとイラクにのめりこんでいたが、オバマ政権下において軸足を中東からアジアへと転換する『ピボット政策』を外交方針とし、米海軍力の過半をアジアに展開することになった。このピボット政策とアジア太平洋諸国の通商関係を緊密化させるTPPが一体となり、アジアでの対中戦略を強固とするものと位置づけられた。

しかし、ピボット政策の現状は、北朝鮮が再三ミサイルを発射し、また中国の南シナ海進出によりベトナムやフィリピンが脅威に直面するなど十分な効果が上がっているとは言い難い。このような環境下、オバマ政権としてはぜひとも米国の対中戦略の根幹をなすTPPを実効化させたいところだ。

実際、米国が中国に対し牽制発言を繰り返しているものの、南シナ海における中国の基地建設は加速化している。これまでもアジア諸国の対外姿勢は、軍事は米国に、そして通商は中国に依存する傾向が強かった。しかし今や、中国のプレゼンスの高まりを受け、各国は軍事・通商両面で大中華圏に飲み込まれようとしていると言っても差し支えないだろう。

したがって、TPP法案が米国で批准されない場合、アジアにおける米中関係の不均衡が拡大し、地政学的リスクが増大すると見られる。現状二人の候補者はともに自由貿易主義を批判しており、今やTPP構想は米国内において雇用をおびやかす悪の根源とみなされるに至っているのが実情だ。国内事情を優先させ、反グローバリゼーションに傾く両候補のどちらが大統領になっても対中戦略は根本からぐらつくことになる

保護貿易の台頭

オバマ大統領は、任期8年の集大成として今年末にTPPの議会承認を目指している。しかし、ねじれ状況下の議会で法案を通すことは難しく、次期政権に先送りされればその実現はさらに遠のくことになる。実際、TPPは米国内の産業・労働者に不人気であり、今後の米国で保護主義を後押しする動きが強まることになるだろう。

クリントン氏は当初オバマ大統領と同じ民主党であることから、これまでの路線から大きく逸脱することなく現実路線をとると思われていたが、TPPについて反対へと転じた。その背景には、民主党において社会主義を唱えるサンダース氏が若者・低所得者層の支持を集めて善戦したことがあり、クリントン氏にTPPについて「いまのままでは反対だ」との態度へと転じさせた。

ただ、クリントン氏の「転向」については、多くの自由貿易論者は大統領に就任したあとに意見を修正し、賛成に転じるのではないかと期待していた。第一期のオバマ政権でクリントン氏は国務長官としてTPPを推進した当事者だったことがその根拠とされていたが、8月に入りミシガンできっぱりと「私はTPPに反対しているし、選挙後も反対するし、大統領としても反対する」と言い切っている。また9月の両候補のTV討論においても、TPPについて「転向」を批判されたクリントン氏は直ちにTPP反対を繰り返しており、もはや賛成へと再度転じる可能性はなくなったと言えよう。

一方のトランプ氏は、低所得・低学歴の白人層からの支持を受けており、さらに日ごろの言動からも「アメリカファースト(米国第一)」に徹するに違いなく、保護主義へ舵を切るのは明白だ。

アメリカ大統領選挙がもたらす5つのリスク

それでは新大統領の登場に伴い経済・金融面はどのような影響を受けることになるだろうか。
今回の大統領選がもたらすリスクを以下5点に整理しておこう。

① トランプ・リスク

トランプ氏は対米貿易黒字国の中国や日本の責任に言及している。したがって大統領就任の場合、貿易・金融・為替政策に激変をもたらすだろう。何よりも米国内にドル高への不満と保護主義の機運が高まっていることから、今後日本、中国の通貨安政策への批判を高めそうだ。また重要な貿易相手国であるメキシコも日本、中国同様に貿易縮小などの打撃を被ることになるだろう。

② クリントン・リスク

クリントン氏勝利の場合はトランプ氏ほどの激変を世界にもたらさないだろうが、限定的とはいえ政権移行に伴う様々な軋轢が生じることになるだろう。特に、TPPの実現が遠のくことは間違いなく、世界の経済システムが変化することになるだろう。

これまでの大統領の中で就任時の年齢が最も高いのがレーガン氏の70歳。トランプ氏はそれを上回り、ヒラリー氏も69歳に達する。またヒラリー氏については様々な病歴が指摘されており、4年にわたる激職に耐えられるのか、やはり健康・年齢面でのクリントン・リスクがつきまとうことになる。

③ 為替リスク

為替面について、財務省は両候補の保護主義的主張に対応して一層のドル安誘導を行うことになるだろう。すでに日本政府が意図する(円売り)介入に反対の立場を表明しており、今後も円安誘導や元安誘導には様々な牽制球を投げるだろう。

ただ大統領選直後については、トランプ氏勝利の場合は円高へ、そしてクリントン氏当選の場合はやや円安に振れるのではないだろうか。

④ 金融リスク

金融面では、米大統領選のあった年の多くにおいて株価が値上がりしており、今回も米国株価は堅調だ。その背景として米連邦準備制度理事会(FRB)が選挙を意識して金融緩和をしてきたことと無縁でなかったと言えよう、

目下のところ米国利上げは12月が濃厚との見通しとなってきている。来年以降の追加的利上げについては年2-3回との見通しもあるものの、新政権の経済政策が明確ではないことから新政権下での利上げは先送りされるのではないだろうか。

⑤ 反グローバリゼーション

米国の経済はこれまで以上に内向き化し、『リショアリング』つまり海外に進出していた企業の国内回帰が進むことになるだろう。つまり今回の大統領選を機に、これまで経済成長をもたらしていたグローバリゼーションとは反対の動きが強まることになるだろう。

まとめ

どちらの候補が勝利するにしても、この大統領選挙において今後4年の米国の向かう方向が決定される。その意味でアメリカ大統領選挙は2016年後半の最大リスクと言ってよく、その影響は当然米国内にとどまらないことから世界は固唾を飲んでその結果を見守ることになる。

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<プロフィール>

ネクスト経済研究所代表 国際金融アナリスト 斎藤 洋二氏

大手銀行、生命保険会社にて、長きに渡り為替、債券、株式など資産運用に携割った後、ネクスト経済研究所を設立。対外的には(財)国際金融情報センターにて経済調査ODA業務に従事し、関税外国為替等審議会委員を歴任した。現在、ロイター通信のコラムを執筆、好評を博している。 

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