みんなの海外取引ブログ

海外ビジネス経験3年以内の方へ「意外にやわらかく」お役立ち情報を提供します。

米国リスク【第5回】「シェール革命」が米国にもたらす劇的な変化

      2016/02/24

da716bdd9d0884e3f52e7838320d24c9_s

木炭、石炭、石油と続くエネルギーの主役交代は社会構造、経済構造に大きな変化をもたらしてきました

今世界では米国発のシェールガス、シェールオイルによる「シェール革命」が起きています。米国の油田地帯に活況がもたらされたものの、新興国等の景気不安や原油の供給過剰感が強まり、2014年後半から油価は大幅に下落しています。

シェール革命により米国のエネルギー自給が高まることは、米国の発展に寄与すると見られます。連載第5回の今回は、シェール革命が、具体的にどのような影響を米国そして世界にもたらすのかについて考えてみましょう。

 

「サウジアメリカ」の誕生

食糧自給率が40%程度とされる日本はじめ先進国の大半は食糧を輸入に頼っています。その中で米国は食糧を自給できる数少ない先進国の一つです。

一方、エネルギーについて米国は、天然ガス、原油ともにこれまで中東へ大きく依存してきました。その結果、米国は中東地域におけるプレゼンスを維持するため、安全保障面に関し大変苦慮してきました。 ところが、過去数十年の研究開発を経てシェールガス、オイルの発掘が商用化されたことから、情勢が大きく変化しています。

「サウジアメリカ」という言葉を皆様はご存知でしょうか?。「シェール革命」により、米国は世界で最大の天然ガス生産国になりました。また原油でも数年のうちにあのサウジアラビアを抜き、世界最大の原油産油国となる見通しです。サウジアラビアを中心とした中東の原油輸出国にエネルギー面で依存してきた米国は、国際エネルギー機関(IEA)の予測によると2035年には全エネルギーを自給できるようになるのです。これが、「サウジアメリカ」という表現が使われ出した背景です。

 シェール革命の米国への影響

米国がエネルギー輸入国から自給国になることの影響として、次の3点が挙げられるでしょう。

①財政収支の改善期待

2014年会計年度の国防予算案によると、歳出が6,151億ドル(74兆円)に上り財政収支を圧迫してきました。中東へのエネルギー依存度が減少すれば、中東安定化に要する国防費の減少を通じて財政収支の改善が期待されます。

②対外収支の改善

米国の貿易赤字額は7,400億ドル(89兆円)程度で、そのうち原油などの輸入額が約4,300億ドル(52兆円)に上っていることから、原油輸入の減少を通じ今後大幅な赤字縮小が予想されます。

③エネルギー価格の低下による米国製造業の競争力向上

これまで労働コストの安さにひかれ、中国などへ生産拠点をシフトしていた企業が米国への回帰(リショアリング)を強めることになるでしょう。

このようにシェール革命の米国経済への様々な効果が期待されており、米国経済を根本から変え、大きく飛躍させる可能性があります。

現在3億人余りを要する人口のさらなる増加が予想されていますが、それに加えて北米自由貿易協定(NAFTA)を通じて隣国カナダやメキシコの資源や成長力を取り込んで大農業国、大工業国さらには大資源国として繁栄する可能性が高まるでしょう

シェール革命がもたらす金融不安と世界への影響

現在シェールガス・オイルの損益分岐点は1バレル60ドルから70ドルと言われています。一方で原油価格(WTI)は昨年夏の100ドル水準から現在45ドル水準まで下落しています(2015年10月現在)。市場環境の激変により、シェール関連企業は採算割れで生産を行っている状況であり、経営に苦しむ企業が続出しています。

今後も原油相場の動向を見ながらシェールガス・オイル関連企業は一喜一憂することになりますが、その資金繰りに関しての懸念は当分拭えぬ状況が続きそうです。

もともとシェール関連企業はその設備投資や開発資金を低格付の社債(ジャンク債やハイ・イールド債と言います)で調達しています。これらの企業の経営悪化により、ハイ・イールド債がデフォルト(債務履行)となれば、社債市場を直撃し、世界的な金融不安へと発展する危険性を秘めています

幸い、量的金融緩和の影響を受けてカネ余り状態が続いていることから最悪の事態は回避されていますが、早ければ年内に予想される米国の利上げを前にして金融市場が逼迫すれば、真っ先に打撃を受ける可能性がある点は要注意です。

 まとめ

シェール革命に伴うエネルギー供給と価格の劇的な変化は世界に大きな変化を与え始めています。原油価格の低下を通じて原油生産国と消費国の間で所得移転が起き、世界各国の力関係に変化がもたらされつつあるのです。

その恩恵を受ける代表がエネルギー自給国となる米国であり、また消費国の中国や日本のメリットも多大です。一方、サウジアラビアやロシアなどの生産国は深刻な打撃を受けるように、メリットを受ける国、デメリットを受ける国の色分けが今後鮮明になって行くでしょう

risk_profile ●コラム筆者プロフィール●

名前:テムジン
リスクマネジメント界のチンギス・ハンです。
一言:迷える子羊たちに、世界各国のカントリーリスクを
分かりやすく説明します。

 

 - アメリカ, アメリカ合衆国 , , , , ,