第二次世界大戦から70年、そして東西冷戦が終了して25年が経過しました。
欧州にとって、ロシアは変わらず政治的な脅威です。その一方で、エネルギーの約3割をロシアからの輸入に頼るなど、重要な経済パートナーとしての一面もあります。
このようなロシアとの複雑な繋がりから、たとえばウクライナ進出問題に対する経済制裁といった対応も、強硬姿勢の米国に比べて欧州は弱腰にならざるを得ません。
また目下、両者はそれぞれ中国との関係強化を図っており、力関係の変化が注目されます。連載第4回では、欧州の対ロシア外交を考えてみましょう。
▼目次
欧州とロシアの複雑な関わり
欧州のエネルギー依存と「強いロシア」復活の道
ソ連が解体したのは1991年のことです。それ以来、西側諸国は旧ロシア領であるバルト三国、中央アジアそして ウクライナの取り込みを図りました。
一方ロシアは、西側の切り崩しに対して防衛しつつ、国民の要望を背景に「強いロシア」復活の道を探り始めます。
欧州全体で見れば天然ガスのロシアへの依存度は約30%に達します。
さらにウクライナのパイプライン経由に限定すれば、全体の6割に達します。
ウクライナが欧露双方にとって、極めて重要な地域と位置づけられる理由がお分かりいただけるでしょう。
政治的脅威としてのロシア~クリミア併合への欧米諸国の反応
クリミア半島は旧ソ連時代の1954年、ウクライナに編入された地域です。ロシア系住民が約60%を占め、同国への帰属意識も強いとされます。
そして2014年3月、有権者約150万人によるクリミア住民投票の結果、90%以上の賛成によりロシア連邦への帰属が決定しました。
しかし欧米諸国はこの決定の正当性を疑問視します。
理由の一つが、ウクライナ憲法では「領土変更は国民投票によってのみ議決すると定められている」という点です。
つまり有権者をクリミア住民に限ったこの選挙は、憲法違反と判断されてしまうのです。
そしてロシアの領土拡大に異を唱える欧米諸国により、経済制裁が発動されることになりました。
最悪のシナリオ「第2次東西冷戦」はありえるのか
過去の東西冷戦の始まり~ヤルタ会談
東西冷戦は1945年2月、クリミア半島から黒海を臨むソ連随一のリゾート地、ヤルタから始まります。
第二次世界大戦の戦勝国によって、戦後世界の枠組みに関する利害調整の会談が行われたのです。
会場であるリヴァディア宮殿には、アメリカ・イギリス・ソビエト連邦の巨頭、チャーチル・ルーズベルト・スターリンの3人が集まりました。
このヤルタ会談により、戦後の世界秩序の根幹となる体制が決定されます。
結果、東ヨーロッパと東ドイツを社会主義国であるソ連が支援することになると、資本主義国であるアメリカとの対立構造が明確になります。これが冷戦の一端になったと言われています。
現代の状況と国際的緊張の高まり
それから70年が経過し、1989年ベルリンの壁崩壊~東西ドイツの統一、ソ連の解体など予想外の出来事が起こりました。
そして今、ウクライナを巡って再び国際情勢は緊張を高め、新たな局面に入っています。
米国、EU、ロシア、ウクライナが迎えたこの試練を「第2次東西冷戦の始まり」という最悪シナリオに結び付ける声もあります。
EUとロシアとの間の密接な経済関係が、問題の解決を導きだすことができるのか、今後が注目されます。
一方で、各国における反EU勢力が、プーチン政権に接近する動きもあります。
フランスの極右戦線(FN)や、2014年5月の欧州議会選挙で反EUを掲げて躍進した英国の独立党などです。
ちなみに、この勢力はEUのウクライナ介入を否定しています。北大西洋条約機構(NATO)とEUが共同して進めてきた欧州の東方拡大も、曲がり角の状況といえます。
中国へ急接近する欧州とロシア
中国を取り込もうという欧州・ロシア双方の動きと、中国の出方は今後も注目されるところです。
ロシアの動き
そして両者間で、天然ガス供給契約が交わされます。
これは同国の「エネルギー戦略」だけでなく、中露両国によるユーラシア大陸での覇権確立に向けた大きな一歩といえます。
欧州の動き
一方欧州も、中国との協調を模索しています。
その結果、エアバスのジェット旅客機「A320」50機の購入というトップセールスを取付けます。
一方、中国からも首相クラスの人物が毎年のようにドイツを訪問しています。両国の貿易拡大は、蜜月関係といえるでしょう。
まとめ
欧州が中国との関係緊密化を重視する動きは、ロシアへの警戒感を考えれば当然と言っても良いでしょう。
●コラム筆者プロフィール●
名前:テムジン
リスクマネジメント界のチンギス・ハンです。
一言:迷える子羊たちに、世界各国のカントリーリスクを 分かりやすく説明します。 |