21世紀初頭ゴールドマンサックス社は、成長が期待される4か国を「BRICs」と命名しました。さらにモルガンスタンレー社は、その4か国に続く国々を「MINT」と名付けメキシコ、インドネシア、ナイジェリア、トルコの潜在的成長力を指摘しました。
なかでもメキシコは、1992年の米国、カナダとの北米自由貿易協定(NAFTA)への参加調印を機に、若くて安い労働力を武器に外国企業の誘致を進め、同時に、製品を輸出する経済構造を作り上げ、現在の発展につなげています。
メキシコの人口構造はピラミツド型となっており、今後も人口増加による恩恵が期待されています。さらに米国との地理的な近さという利点を生かして、21世紀の中盤に向けて最も成長が予想される新興国のひとつとなっています。
新興国シリーズ第8回の今回は、世界はもちろん、日本でも注目を集めているメキシコの成長力と実情を探ってみましょう。
▼目次
メキシコを象徴する金融危機とNAFTA
経済協力開発機構(OECD)の加盟国であるメキシコは、人口約1.2億人とほぼ日本と同じ規模で、面積は日本の約5倍、そして実質GDP は世界15位に位置しています。
メキシコと言えばまず思いつくのが、2度にわたる「金融危機」でしょう。メキシコは1970年代に石油ブームに乗りインフラ投資が活発化したことをきっかけに、海外からの投資資金の流入額が増加しました。しかし、経常赤字が常態化していたために増大した借金の返済が難しくなったことから、1982年に「メキシコ債務危機」が発生しました。
そして2度目の「金融危機」は、北米自由貿易協定(NAFTA)締結に沸いた直後の1994年に発生しました。原因は、米国の利上げを機にデフォルト懸念が高まったことで、その結果、海外からの投資資金の一斉引き上げが起こり、メキシコペソが暴落する通貨危機が発生したのです。
これは「テキーラショック」と言われるもので、メキシコを襲ったそのショックは、中南米諸国に伝播し、国際金融市場を揺さぶりました。この事例は、経済や金融市場が未成熟で外貨準備も不十分な国が、過大に短期資金に依存し過ぎると、流動性危機に見舞われやすいという典型的なケースになったといえるでしょう。
この危機を受けメキシコは、民営化と貿易の自由化を進めました。それを後押しし、現在のメキシコ経済の成長の基盤を作ったものこそ、NAFTAと言えるでしょう。NAFTAは、米国およびカナダ、メキシコの3か国間における投資・貿易に関する障壁撤廃を目的とする協定です。この協定をきっかけに、安い労働コストに魅かれ、米国企業がメキシコに進出したことが、現在のメキシコの成長を実現した大きな要因のひとつと言えるでしょう。
自由貿易システムの恩恵と自動車産業の成長
日本とメキシコの関係は、伊達正宗の家臣・支倉常長が遣欧使節としてスペイン、ローマへ向かう際に、メキシコを経由したことに遡ります。それが1613年の出来事であり、日本とメキシコの関係は2013年に400周年を迎えました。現在では両国間で経済協定(EPAEPA)が締結されており、メキシコ進出50年を迎える日産自動車はじめ、日本企業が様々な形で事業展開を進めています。
メキシコはNAFTAに加え中南米、欧州などとも自由貿易協定(FTA)を締結し、外資誘致や貿易取引の活発化に臨んでいます。メキシコは最も自由貿易の恩恵を享受している国のひとつと言っても差支えないでしょう。
メキシコの主要産業へと成長した自動車産業を見ると、日産に加えフォルクスワーゲン、ゼネラルモーターズ、フォードそしてクライスラーの5社がビッグ5を形成していると言われています。
すでに、メキシコの自動車生産台数は年間300万台とタイやブラジルを上回っており、その8割を占める輸出は、米国はじめ欧州、中南米など世界各国へと拡大しています。
自動車の生産・輸出でしのぎを削るタイと比較すると、FTAの締結エリアの市場規模でタイが世界の約20%に止まるのに対し、メキシコは50%を超えており、メキシコが、世界の生産そして輸出拠点として傑出していることは明らかと言っても良いでしょう。
まとめ
メキシコは、NAFTAや様々な国とFTAを締結することで、貿易の自由化とともに経済成長を進めてきました。今後も、太平洋経済協定(TPP)への参加をきっかけに、さらに自由貿易の恩恵を拡大して行くのでしょう。しかし、地理的に米国と近いことから得る恩恵がある一方で、負の影響も受ける可能性がある点については留意すべきです。
実際、昨年12月に米国が利上げしたことにより、これまで急成長を遂げてきたメキシコが、3度目の金融危機に見舞われる可能性は皆無とは言えません。もちろん、以前の金融危機時とは異なり、外貨準備高の増加を受け、危機対応力が増しているとは思われますが、急成長のひずみには注意が必要だと言えるでしょう。