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はじめに:「中国の夢」は現実のリスクの裏返し
習近平(シーチンピン)国家主席率いる指導部が発足して2年が経過しました。習主席は、就任直後から「中国の夢」を語っています。
「中国の夢」というスローガンが表す具体的な内容は、
となります。
「中国の夢」は「アメリカンドリーム」を明らかに意識していると言われます。
そして指導部が「中国の夢」を語るということは、その裏返しとして足元に厳しい現実があること、その現実には様々なリスクの芽が隠れていることを示しているのではないでしょうか。
それでは「中国の夢」という理想と、現実との間に横たわるチャイナリスクについて、構成要因である政治リスク・経済リスク・社会リスクに分けて考えてみましょう。
<政治リスク>中国現代史にみる格差拡大と民族問題
また共産党幹部などに富が集中したことで、官僚の汚職や腐敗が蔓延しました。経済成長の成果である富や権力・権利の極端な集中は、弱者層による抗議行動や治安悪化といった事態を招いています。
そして漢民族の他、多数の少数民族を抱えることも民族問題を招いています。
格差拡大に民族問題も加わって、国家の分裂や破綻リスクは、建国以来から現在にいたるまで消えることはありません。
<経済リスク>「新常態」への移行に伴う経済リスク
中国経済の高成長を支えてきた「輸出・投資主導」
そこで、政治リスクを回避する最善策として、雇用を増大させ、国民生活を安定させるために国家主導による経済の高成長が推進されました。
実際、過去30年にわたって、中国経済は輸出・投資主導により年率10%程度の成長を続けてきました。それが今や、環境問題や労働コスト上昇などの問題により、ひたすら成長を追い求めることは難しくなっています。
今後中国が目指す「消費主導」への成長構造の転換
個人が豊かになってきたこともあり、中国は今後、内需中心・消費主導による経済成長を目指すことを表明しています。
輸出・投資主導の「高速成長」から内需中心・消費主導での「持続的成長」への転換を、李克強首相は2015年3月開催の全国人民代表大会で、「新常態」(ニューノーマル)と表現しました。
成長に息切れが見られる中での「新常態」への移行は、目標とする7%成長を下回り、中国経済の底割れを招く可能性があります。
またその場合、中国経済に依存する他国の混乱を招くという懸念もあります。
<社会リスク>成長の土台を揺るがす2つの人口問題
中国の高速成長の原動力のひとつには、世界最大の人口が挙げられます。しかし現在、中国は2つの人口問題に直面しています。
労働人口の頭打ち
これは開発経済学で「ルイスの転換点」と言われるもので、今後は賃金の上昇が予想されます。
用語解説:ルイスの転換点
英国の経済学者、アーサー・ルイスによって提唱された概念で、工業化の過程で農業部門の余剰労働力が底をつくこと。
工業化前の社会においては農業部門が余剰労働力を抱えている。工業化が始まると、農業部門から都市部の工業部門やサービス部門へ余剰労働力の移転が起こり、高成長が達成される。
工業化の過程で、農業部門の余剰労働力は底をつき、工業部門により農業部門から雇用が奪われる状態となる。この底を突いた時点がルイスの転換点でそれ以降は、雇用需給が締まるため、賃金率の大きな上昇が起きる。
高齢化問題「未富先老」
中国への進出、また撤退にあたっても、今回ご説明したようなリスクの構成要素は押さえておくべきポイントでしょう。
●コラム筆者プロフィール●
名前:テムジン
リスクマネジメント界のチンギス・ハンです。
一言:迷える子羊たちに、世界各国のカントリーリスクを 分かりやすく説明します。 |