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①トランプリスク
トランプ米大統領が選出されて1年が経過した。それ以来インフラ投資の拡大や大型減税を期待する声が高まり、世界的に株価や不動産市場は上昇を続けトランプラリーの1年となった。その点について経済界の代弁者としての自負を持つトランプ大統領としては満足しているように見受けられるが、内政面や外交面では様々な問題が発生しており、今後トランプ政権の屋台骨を揺るがし続けることになるだろう。
まずホワイトハウスの不安定な状態が危惧される。バノン上級顧問はじめ大統領補佐官の辞職が相次ぎ、今や身内のクシュナー夫妻と元将軍たちだけが残ったと言っても過言ではない。そして今もロシアゲート事件の捜査が続き、トランプ政権は安定感とはほど遠い状況が続く。また各省庁の主要人事も空席が目立っており、政権2年目も政策運営能力を発揮できるのか疑わしい。
そして内政面では米国の分断が進んでいる。トランプ大統領は人種差別反対を唱える人々を「オルト・レフト」(極左主義者)と呼び白人至上主義者を擁護している。そしてマンデラ元南ア大統領の人種差別反対の言葉を引用したブログを書き喝采されたオバマ元大統領とは対照的な存在となっている。このように大統領の言動が格差対立のみならず人種間対立を激化させており、その結果として米国社会の分断が進むことが懸念される。
そして経済・貿易問題について、トランプ大統領は貿易赤字こそ米国の損失であると主張し、200年以上前の重商主義に逆戻りしたような保護貿易主義を声高にしている。お陰で米国企業は輸入制限の導入を恐れて前倒し的な輸入を増加させており、米国の貿易赤字は縮小するどころか逆に拡大傾向を辿る。
このように米国の通商政策はライトハイザーUSTR代表やピーター・ナバロ補佐官など国内派が主導して強硬路線へと傾斜している。果たして貿易黒字大国の中国、日本そしてドイツは、安全保障と通商をデイ―ル(取引)しようとするトランプ大統領との間で問題解決を図ることができるだろうか。
そして外交・軍事面では中国との関係、とくに南シナ海や朝鮮半島を巡りどのように協調関係を維持できるのか。特に北朝鮮への経済制裁について中国がどの程度米国に協力するのかが注目されることになる。
②東アジアリスク
朝鮮半島情勢は緊張を高めている。北朝鮮は執拗に米国への威嚇を続けており、米国本土などを標的にした大陸間弾道ミサイルの開発進化をアピールしてきた。その背景には米中首脳会談、米韓合同軍事演習、日米接近への警戒があり、何よりも金正恩体制の維持と権力強化が横たわる。
これに対しトランプ政権は北朝鮮問題を政権の重要課題とし、これまで20年間にわたる6者協議などの対話策を全くの失敗と断定して北朝鮮の施設を先制攻撃するオプションを視野に入れている。さらに金融制裁や北朝鮮とのビジネスを活発化する中国企業への制裁などを強めている。果たして圧力と対話政策の効果はでるのか。
これに対して韓国は、5月の大統領選により文在寅(ムン・ジェイン)氏が選出されたがその北朝鮮政策は人道的な見地としつつも援助を実施するなど親北朝鮮的であり、それに対し米国は不信を隠さない。したがって前大統領の醜聞により社会の亀裂が進む韓国において現政権はいかに国内外からの不信を解消できるかが注目される。
一方、中国では共産党大会が10月に行われ、習近平総書記の指導理念が盛り込まれた党規約が改正された。この結果、習近平思想は「建国」を謳った毛沢東思想そして「経済発展」を進めた鄧小平理論と並び特別視されるところとなり、習近平総書記の核心としての存在が強く認識されるところとなった。
「習近平思想」とは「治国理政」、つまり党が掲げる20年までの目標である「小康社会(ややゆとりのある社会)の全面的な実現」に向け、改革や法治、厳格な党内統治を推進することと考えられる。つまり反腐敗や脱貧困を進めることにより、49年に迫った建国百周年において「中国の夢」の実現を手繰り寄せようとの意図は明らかだ。
この「中国の夢」を目指す中国では生活水準は改善されつつあるというものの、極めて大きな格差が残る監視社会であり自由な社会とは程遠い状態だ。これから30年間の中国では習近平思想が指し示すように発展し、小康社会が実現されるのか疑わしい。
つまり習近平総書記に集中された権力がどのように国民生活の発展に利用されるかが重要であり、それは同時に負の面として権力集中リスクが高まることを意味し国家が混乱する可能性を捨てきれない。
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