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米中関係の緊迫化と日本への影響 (エコノミスト 斉藤 洋二)

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1月20日の大統領就任式を経て約3週間が経過した。トランプ政権はすでに大統領令を20本以上発令し、中東7か国からの入国一時禁止やメキシコ国境への「壁」の建設など公約実現へと邁進している。結果、米国内では賛否が渦巻き、社会の分断が際立ってきた。お陰で、対立しているはずのメディアは、どれもこれもその関連ニュースで溢れ返っているのは皮肉だ。

トランプ大統領はCNNなど既成メディアを嫌う一方、ツイッターのような比較的歴史の浅いツールを駆使しているが、ツイッターの字数は140字と限られているので十分に意を尽くすのは難しい。しかし小泉純一郎元首相のワンフレーズ・ポリティクス同様に、短いだけにそのインパクトはかえって大きいようで、大統領の真意をリアルタイムに知ろうとフォロワーは世界で2千万人に上ると言われる。一方、このツイッターで大統領が思うところを自由に述べているだけに、政権内での意見不一致が目立ち、垂れ流される情報をどの程度信じてよいか分からない場面も散見される。

これから各国首脳との会談が予定されているが、すでにオバマ政権が築いた外交関係を覆す場面も出ていることから不確実性が高まる。実際、電話会談においてメキシコ大統領やオーストラリアの首相との激しいやりとりは、まるで国内の政敵に対するのと同様とも言える。トランプ大統領にとっては外交も所詮「取引(ディール)」でしかないようで、今後の各国首脳との会談の行方、つまり米国の外交姿勢の方向が注目されるところだ。

このような環境で何よりも注目されるのが2016年の貿易統計において総額7300億ドル(約82兆円)に上る米国の貿易赤字の5割近くを占める中国へのスタンスだ。(ちなみに第2位の日本や3位のドイツは1割程度)。すでに中国に対しては「為替操作国」として名指しし、人為的な元安誘導による対米国への貿易拡大を図っていると強く非難しており、その敵視の度合はユーロ安の恩恵を受けるドイツや日本などの比ではない。したがって、今後の米国と中国の関係緊迫化は必至であり、貿易不均衡問題と為替問題がクローズアップされることになるだろう。また米中関係の緊張に伴い、日本の貿易黒字と円安および金融政策も狙い撃ちをされかねない点は注意を要しよう。

▼目次

トランプ政権の反中国シフト

トランプ政権は、外交方針の根幹に親ロシアとともに反中国を据えていることが特筆される。これまで中国は、グローバリゼーションが進む中で、「世界の工場」としての貢献が一定程度評価されてきたものの、トランプ政権は「米国第一主義」を掲げ白人労働者を中心に国内産業の保護を最優先する意向だ。したがって今後「中国」を目の敵として行く可能性が高い。実際米通商代表部(USTR)にロバート・ライトハイザー代表、そして大統領補佐官にピーター・ナバロ氏と対中強硬派が任命されたことからも中国に対し厳しい政策が打ち出される見通しだ。

オバマ政権はピボット政策により中東からアジアへ軍事戦力をシフトし、また環太平洋経済連携協定(TPP)を構築して通商面で中国を封じ込める戦略を練ってきた。とはいえ一方で中国の経済力を評価する一面を見せ、米国企業の中国進出を後押ししてきた。しかし、トランプ政権ではTPPから離脱すると共に中国を敵視するスタンスを強める気配が濃厚で、米国企業および資本の米国回帰(リパトリエーション)が強まるだろう。

実際トランプ大統領は選挙直後に祭英文台湾総統と電話会談し、「一つの中国になぜ縛られないといけないのか」との疑問を呈し、台湾を中国の不可分の領土とする原則の見直しに言及している。またティラーソン国務長官も中国の南シナ海の人口島へのアクセスを認めない姿勢を示すべきだと発言している。とはいえ中国は南シナ海や台湾を「核心的利益」としているだけに、これらの問題について一歩たりとも譲歩するとは考えにくく、その点でも米中の間において通商分野とくに貿易不均衡問題と為替問題に火が付く可能性が高い。

中国は嵐の前の静けさ

一方、中国の動きはと言えば、1月17日の世界経済フォーラム年次総会(ダボス会議)で習近平主席が基調講演において、反グローバリズムの動きをけん制する発言を行った。自由貿易主義のメリットと保護貿易主義のデメリットを順々と説くその姿は、かつて「自由」を標榜する米国が「国内の論理」を押し通す中国を非難するという立場が逆転したかのような印象を与えるものだった。ともかく、現在の中国はトランプ政権の出方を静観し反撃の機会を窺っており、嵐の前の静けさと言ったところだ。

中国は目下、共産党が設立された1921年から100周年にあたる2021年を前にして、20年には10年と比較して平均所得を倍増しようと当面6%台後半の経済成長率の達成に注力している。しかし、16年の経済成長率は6.7%と26年ぶりの低水準に止まり、17年の見通しも国際通貨基金(IMF)が6.5%と予測しているように20年の目標達成は微妙である。このような経済状況において3月5日に開幕する全国人民代表会議(全人代)での中国の指導部の新たな動き、特に対トランプ政権に対する反撃が注目されるところだ。

12年以降、習近平主席以下7人が常務委員会を構成し政権を担ってきたが、同時に中国の代名詞とも言える権力闘争は激しく繰り広げられてきた。16年10月の6中全会(第18期中央委員会第6回全体会議)において習近平主席は、鄧小平と江沢民にしか使われなかった「核心の指導者」と呼ばれることになり、より強い権力を築くことに成功した。とはいえ、習近平に対して李克強首相をはじめとする反対勢力は今も根強いとされており、このような状況で開催される17年秋の共産党大会は、習近平の後継体制を巡って権力闘争は一層激化するだろう。

このように共産党指導部の権力闘争が激しく続く一方、現在の中国は国内に共産党・官僚の腐敗、民族問題、格差問題、環境悪化、国有企業のゾンビ化、人口問題を抱えている。このような国内問題を抱えている以上、中国指導部は米国との軍事、貿易上の問題について一歩も譲らぬ強い姿勢を国内に誇示する必要があり、米中の対決は深まることになるだろう。

日本への影響

中国に続いて日本についても、円安政策により外貨を稼いで米国から雇用を奪っているとしてトランプ大統領の苛立ちは大きいようで、2月10、11日の日米首脳会談の行方が注目されていたが、結果としては自動車貿易や為替問題で日本への注文や批判は出てこなかった。

これまでトランプ政権は、国内企業との朝食会などを通じ積極的に国内へのシフトを要請し、自動車産業のビッグ3の行動を大いに評価している。一方、日本企業に対してはメキシコでの生産や米国車の日本国内での売り上げ不振について批判を継続させている。したがってトヨタが今後北米に100億ドル(1.1兆円)の投資をすると発表してもお礼の一言もなかった。つまり、今後は中国に続いて日本たたきを始める可能性は高く、為替調整による貿易赤字圧縮効果が乏しいことは明らかだとは言え、万民に分かりやすい政策だけに、人民元に続いて日本円についても上昇圧力をかけてくるだろう。

目下為替政策についてトランプ大統領と財務長官に就任予定のムニューチン氏との意見は一致していないものの、今後米ドルの適正水準を巡って人民元のみならず円についても議論されることは必至である。今後の円高には要注意だ。

(プロフィール)

ネクスト経済研究所代表 国際金融アナリスト 斎藤 洋二氏
大手銀行、生命保険会社にて、長きに渡り為替、債券、株式など資産運用に携割った後、ネクスト経済研究所を設立。対外的には(財)国際金融情報センターにて経済調査ODA業務に従事し、関税外国為替等審議会委員を歴任した。現在、ロイター通信のコラムを執筆、好評を博している。

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