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中国とサイバー覇権 (エコノミスト斉藤洋二)

      2017/12/06

増え続けるサイバーテロの脅威

本年5月ランサムウエア(=身代金要求型ウイルス)のワナクライ(WannaCry)に多数の国際企業が感染し、被害総額は90憶ドルに及んだと推定されている。このウイルスはウクライナあたりで増殖し世界に拡散したのではないかと見られるが、そのウイルスの種類から北朝鮮の陰謀説も語られたりするように、国家主導によるサイバーテロの可能性もなしとしない。

サイバー空間はIT革命以降大きく拡大してきたが、今やスマホの普及によりネット空間はさらに広がるとともに情報の宝庫として重要性を増している。実際、国家機密を保有する政府機関や膨大な顧客情報などを有する民間企業などに対し様々なサイバーテロが行われては情報の争奪戦が繰り広げられている。また原発施設などが攻撃されることもあれば、年金情報はじめ国家公務員の個人情報が狙われたりするように様々な情報そして国家の中枢がターゲットとされる。また昨年の米大統領選挙においてロシア軍のハッカー集団がトランプ氏当選に向けて工作を行ったとしてロシア外交官が国外退去処分される事件があったように、サイバーテロの影響は大きく広がっており、今や一国の政治にも深く関与することになっている。

それはもはや経済的メリットを狙った「犯罪」の範疇にとどまらず、国家間の「テロ」の様相を示している。これまで国家間の軍事的争いは陸空海が主な戦場となってきたが、今やそれに加えて宇宙さらにはサイバー空間へと広がった。国家・社会のネットワーク化が進む現状を見れば、将来的にサイバーテロの脅威は一段と強まることになり、その対応には国も民間企業もそして個人も十分に準備する必要が増すことになるだろう。

中国のサイバー覇権への意欲

このようにサイバーテロは今や世界では日常茶飯事になっているが、その最も激しい戦場は米中の二大国の間にあると言ってよいだろう。現在の世界を俯瞰すれば過去30年にわたる高度経済成長を達成した中国の躍進が目立ち、ほぼ米国と肩を並べるようになったといえるだろう。国際通貨基金(IMF)によれば、2014年に購買力平価ベースで中国の経済規模が米国を上回ったといわれ、同時に軍事面も同様で両国が世界の二大国(G2)として覇権争いを繰り広げる構図となっている。

実際、中国は軍事力やソフトパワー(=社会の価値観、文化的な存在感、政治体制などがもつ影響力)などにおいて米国に及ばない面はある。とはいえ経済分野では米国を凌駕しつつある。また単純に国防費で両国の軍事力を比較すれば圧倒的に米国の戦力の優位性が示されるものの、中国のヒト・モノなどのコストの低さそして潜在的な経済成長力を考慮すれば早晩中国の戦力が米国と同等になることは明らかだ。共産党・政府と並び習近平の権力の根源である軍において、太平洋を東は米国が、西は中国で二分してしまおうとの考え方をまことしやかに語る幹部がいるように、中国の覇権への意欲は並大抵のものではないと言えよう。

二大国の軍事パワーについてはこれまで陸海空においての戦力比較が常とされてきたが、今やこの争いはサイバー空間にも及んでいる。実際、米国はこれまで政府・軍機関、民間企業に頻発したサイバー攻撃の発信源を中国人民解放軍の海南島基地の部隊であると特定しては非難を行っている。

これまで述べたように中国の覇権への強い意欲は、2049年の建国100周年に実現を目指す「中国の夢」の達成に向け日々増大することはあっても衰えることはないだろう。「中国の夢」により中華民族の偉大なる復興を達成しようとのあくなき挑戦は今後も続くことになるのは必至で、その目標の達成のためにサイバー覇権の獲得はもちろん、軍事・経済・金融などにおいて米国を圧倒し覇権の確立を目指すことになるのだろう。

中国共産党大会を前に

32年後に迫った中国建国100周年における「中国の夢」実現に向けて歩む習近平総書記は10月18日に予定される中国共産党大会を控えて権力強化に余念がない。その中で注目を集めるのが実力派の副首相としての名声を勝ち取り、その後現在に至るまでの5年習総書記の盟友として反腐敗闘争をリードしてきた王岐山・党中央規律検査委員会書記だ。

今回の共産党大会において王氏は68歳の定年を迎えるが、それを延長させることにより習体制の強化が図られるのではないかとの見方が根強い。この人の続投による定年制度の無効化は5年後に69歳となる習総書記の3期目突入の可能性を広げ、そして習体制の求心力を高めることになるだけにその人事が何よりも注目されるところだ。

さらに注目されてきたのが習総書記の後継者として胡春華・広東省党委書記と共に常務委員会入りが濃厚とされていた孫政才・重慶市党委書記だ。突如解任され、その後任に習総書記の側近である陳敏爾・貴州省党委書記が就き、今後のトップ争いはこの陳と胡の争いに絞られたとの見方も可能だ。

しかし実際、習総書記は「ポスト習は習」とばかりに名実ともに紅い皇帝として君臨を狙っているとも語られる。そして毛沢東以来の「党主席」ポストを復活させて共産党トップとして3期目、さらには4期目の長期政権を狙う可能性も語られ始めており、共産党大会の行方はこれまでにもまして注目されるところだ。

米中覇権争いの帰趨

目下米中関係は、4月に習近平総書記がトランプ米大統領のフロリダの別荘を訪問して以来続いていた米中蜜月関係がきしみつつある。特に、通商問題の改善に向けた米中100日計画が実効力のある結果に結びつかず、逆に米国がスーパー301条を盾にして中国の不公正貿易への報復を進める可能性が高まっている。

またトランプ大統領は「米国第一」を掲げて保護主義を前面に押し出し、さらにパリ会議から離脱するなど、これまでの歴代の大統領と異なり世界の秩序を統合する意欲が乏しい。したがって米国の国際政治・経済における役割は低下することになるのは必至だ。その結果として、中国のプレゼンスは一段と高まることになるだろう。

45年前ニクソン米大統領(当時)が突然訪中し、米中関係をそれまでの対立から和解へと転換させ米ドルの交換停止とともに「2つのニクソンショック」として世界を驚かせたことがあった。それ以来両国関係は対立と和解の間を振れながら進んできたが今後もそれを繰り返すと見るべきだろう。したがって当面対立関係が強まると考えるのが妥当だろう。

また米中関係の底流には覇権争いが存在し、中国の台頭が著しい現在、その争いは以前にも増して激しくなる可能性を秘めている。ピーター・ナバロ大統領補佐官は、自著「米中もし戦わば」において、米中関係の将来を予測する根拠として、過去500年において英独関係のように15件の覇権争いがあり、内11件において戦争になったと言う歴史的事実を挙げている。したがって米中覇権争いが無益な戦争に至る可能性が高いとし、さらに両国の経済力がともに大きいだけに戦争を継続する能力は高く、核戦争よりもむしろ通常兵力での長期戦になると推測している。つまり早期決着どころか勝敗の帰趨も見えないままの状態 、つまり60年をはるかに超えた朝鮮戦争の二の舞の恐れもなしとしないと言っている。

まとめ

今後も米中はサイバー空間を含めた軍事および経済など様々な分野において覇権争いを続けることになるだろう。すでに北朝鮮問題で米中関係はきしみ始めている。かと言って直接的な軍事行動には様々な制約がある以上、経済戦争の激化とともに、サイバーテロがより頻繁そして深刻な問題となるのではないだろうか

(2017年10月4日)

【プロフィール】
ネクスト経済研究所代表 国際金融アナリスト 斎藤 洋二氏

大手銀行、生命保険会社にて、長きに渡り為替、債券、株式など資産運用に携割った後、ネクスト経済研究所を設立。対外的には(財)国際金融情報センターにて経済調査ODA業務に従事し、関税外国為替等審議会委員を歴任した。現在、ロイター通信のコラムを執筆、好評を博している。

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