先日、オフィスの冷蔵庫に何を置くかについて、弊社のスタッフと話をする機会がありました。ご想像の通り紅茶にミルクと砂糖を大量に入れたチャイを好むのかと思いきや、「チャイはクール(恰好いい)な飲み物ではないから、みんなそれほど飲まない。」という答えが返ってきたので驚きました。どのお宅にお邪魔してもチャイが出されるほどメジャーな飲み物なのに、何か変化が起きているのでしょうか。
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何がクールでかっこよく、何がダサいのか
紅茶というごく一般的な飲み物に、格好良い・良くないという判断基準があること自体、日本人からすると疑問です。ではコーヒーはどうかと聞いてみると、実にクールな飲み物なので飲みたいということでした。
違いはどうやら、親世代が慣れ親しんだものではなく新しいもので、まだ一部の人しか楽しんでいないことにあるようです。実際コーヒーに関して言えば、それを家庭で飲むインド人はまだまだ少数派です。スターバックスが昨年進出したものの、誰もが気軽に楽しめる値段設定というわけにもいかず、コーヒー文化が浸透するにはまだ時間がかかるように見えます。
ただスタッフや近所の子によると、それでもチャイを飲むのは何やらダサいということで、それでは家で何を飲むのかと聞くと高校生でさえもたいていは牛乳を飲むと返ってきます。
インドカレーもイケていないのか?
インド人は三食カレーばかり食べているのか?という質問を受けることもありますが、半分は正解、半分は誤りです。たしかに日本人からするとスパイスが効いているので「どれもカレー味だよね」という食べ物を食べているのですが、インド人からするとそれぞれ別の名前の付いた食べ物で、三食とも別々の野菜を使って作っているのが実情です。
スパイスに慣れ親しんだ伝統的な「カレー」が主流のインドですが、マクドナルドやドミノピザも営業しています。ただし昔の日本と同じで、店内のお客さんはほとんど10代~30代の若年層です。祖父母世代は1回利用したきりで、2回目は来店しないのも似ています。
ピザやハンバーガー店も気を利かせて、スパイスが効いたメニューを用意しています。ただ若者にとってはその味が好きというより、いつもと違う何か目新しいクールなものを食べている自分というステータスが大切なので自撮り写真を撮るお客も多く、店側もお客の意向に沿ったクールなTVコマーシャルを放送しています。
ボリウッド映画はどうなの?
何の前触れもなく、突然登場人物全員がダンスを始めるインド独特のボリウッド映画についても同様です。インドで放映される映画はすべて管轄当局の検閲が入っていますが、今やスマートフォンの保有者が増えて、Youtube等でハリウッド映画も簡単に見られます。
するとボリウッド映画について、いつも同じスターが主人公で、どのストーリーも保守的で勧善懲悪だと覚めた目で眺める、その批判的な姿勢でいること自体をクールと感じる若年層が増えているように思います。
結論として、インドの若者世代においては、
・欧米のクールな文化や豊かさへの憧れが強く、
・新しく体験したことを周りに自慢したい気持ちがあるものの、
・現実の所得や保守的なコミュニティによってあれこれ制約を受けている状態
…というのが実情です。
とはいえ今は貧しくとも、時代が経つにつれて社会が豊かになって行く、給与も上がるということを誰もが肌で感じているのも事実で、私が想像するに日本の高度経済成長期もちょうどこんな感じだったのかなあという感じです。
まとめ
この先インドの需要の中心となる中間所得層は、欧米文化や何か新しい物への憧れが強い。購買意欲が非常に強く周りへの自慢を好むので、経済発展とともにこれらの商品は順調に売上を伸ばすと思われる。
プロフィール
野瀬 大樹(のせ ひろき) 公認会計士・税理士
大手監査法人勤務の後、NAC国際会計グループに参画、インドのニューデリーにて主に日系企業をサポートするコンサルティング会社NAC Nose India Pvt. Ltd.を設立し、同代表に就任。インド各地にて、会計・税務・給与計算に加え、各種管理業務に関わるコンサルティングサービスを提供している。
事務所HP:http://in.nacglobal.net/