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第3章① 債権保全の基礎 ~有効な債権存在の証明と消滅の阻止~

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海外与信管理レッスン基礎編の第3章では、債権保全のチェックポイントを解説していきます。

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▼目次

債権保全の重要性

企業にとって取引先に対する債権(商事債権・貸付債権等)は、最も重要な資産の一つです。一般の企業では、債権はその総資産の相当額を占めているため、債権の回収率次第では企業業績を大きく左右するだけのインパクトを与えかねません

債権は、一定期日に一定金額の回収が期待できるため、企業の資金繰りを策定するうえで最も重要なファクターと言えます。一方で、もし予定どおりの回収が行われなければ、企業の資金繰りを狂わせる結果となりかねないことも意味します。

債権保全のための知識・経験は、与信を行う際に必要とされるリスクの存在および範囲を正確に把握するための不可欠の知識と言えるでしょう。

海外の債権保全は、各国の法制度に則り適切に行う必要がありますが、全世界について網羅することは困難です。ですから、本稿では、大半の国に共通する基本的な考え方をご紹介したいと思います。個別の問題に対しては、相手先国の法律・商習慣等を研究し、専門の弁護士等に確認することをお勧めします。

有効な債権存在の証明と消滅の阻止

債権保全の第一歩は、「有効な債権が存在し、且つ、それが対外的に(相手方にても、第三者にも)証明できる」ということです。この点は、当たり前のことでありながら、意外と忘れられがちです。特に、海外取引においては海外拠点の管理機能が十分でないケースが多く、いっそうの注意が必要です。

1. 契約の重要性

契約は、債権の存在と内容を証明するものとして最も重要です。契約に使用する言語は、可能な限り英語とすることが望ましいでしょう。

 署名の確認

契約書を受け取ったときは、まずは適正な署名があるか否かをチェックしましょう。サインは判読不明の場合が多いので、その下に署名者の名前をプリント表示させなければなりません。また、署名者に署名権限があるか否かの確認も必要です。会社登記簿に署名権限者(Authorized Signatory)の名前と署名が登記される制度をもつ国もあるので、これの閲覧・謄写が有用です。
さらには、2人以上の署名による、いわゆる共同署名(Co-signatory)を求める場合もあるので注意が必要です。

契約書記載事項の注意点

基本事項として、契約金額、数量、品質、受渡条件(期日・受渡場所)、決済条件(決済方法・期間)、支払期日等を記載するのはもちろん、下記条項につき明記することが望ましいでしょう。

① 債務不履行条項

債務不履行要件(Events of Default)を列挙し、債務不履行(デフォルト)の際に下記を要求する権利をもつことを明記しておくことが必要です。

  • 債務者の期限の利益喪失(Acceleration)
  • 相殺(Off-set)
  • 遅延金利請求権(Delayed Interest 利率も明記するのが望ましい)
  • 担保権の実行(Execution of Securities)
  • 新規引渡しの停止(Suspension of Delivery or Shipment)
  • 引渡物件の変換(Retrieval of Goods)
② 所有権留保(Title Retention)条項

所有権留保付売買契約の場合は、代金の支払いが完了するまで当該物件の所有権は債権者に帰属します。したがって、債務不履行の場合には、債権者は債務者に対し、当該物件の返還を請求する権利を有します。

③ 追加担保条項

債務不履行の場合だけでなく、債務者が信用不安状態にあると債権者が判断したときは、追加担保を要求する権利をもてるようする条項です。

④ 仲裁(Arbitration)条項

相手先との間で契約の履行につき紛議(Dispute)が発生したときに、第三国等での仲裁に付するとする条項を付けることがありますが、相手先の国が国際的な仲裁条約に加盟しているか否か、また、その国の法律(外国での仲裁規定の国内での執行に関する法律)を確認のうえ、仲裁規定による執行が同国内で可能であることを確認する必要があるでしょう。

2. その他必要書類の完備(貨物受領証等)

商品の売買契約においては、債権は商品の引渡しにより発生するので、引渡しが行われたことを証明する書類が必要となります。通常は、貨物受領証(Cargo Receipt)を取り付けますが、その他に、送り状(Invoice)、引渡指図書(Delivery Order)等があることが望ましいです。また、手形・小切手決済の場合は、これら有価証券も有力な債権確認方法となりえます。

3. 債権の有効性の維持

① 消滅時効(Prescription)の中断

消滅時効となる期間は、国により、また債権の種類により異なりますが、少なくとも売掛金と手形・小切手の消滅時効につき、その国の制度を調べておく必要があります。通常、売掛金は短期消滅時効として2年程度で時効となるので注意が必要です。

② 破産等の際の債権届け

取引先に破産宣告等がなされたときは、一定期間内に債権を裁判所・管財人等に届けなければならないので、このような場合には、失権しないように管財人からの通知・官報等に注意を払わねばなりません。

4. 貸主責任(Lender’s Liability)

偽りの情報提供により第三者をある会社との商内に引き入れる行為や、債権者の立場を利用して経営に関与したり、突然与信枠を解約するなどの信義誠実に違反する行為がある場合には、第三者に対し、劣後したり損害額の賠償義務を負担することがあります。

5. 衡平的観点からの債権劣後(Equitable Subordination)

株主、経営者または経営に深く関わっている銀行等が、取引先の資本不足または資金繰りを補う目的で供与しているローンは、取引先倒産時において、一般債権者の請求権に劣後することがあります。

次の記事はこちら→第3章(2)決済手段の工夫等による債権保全

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