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(3)契約交渉準備と契約書のドラフト準備(弁護士 瀧澤渚)

      2016/09/21

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はじめに

前2回の記事で、海外取引の際に契約書を作成することの重要性について触れて参りました。今回は、海外の顧客との契約交渉前にどのような準備をしたらよいか、また、契約書のドラフト準備に関して留意すべき点は何かといったことについて触れてみたいと思います。

契約交渉の事前準備と気構え

契約書は、取引を具体化するツールにすぎません。ですから、契約交渉にあたっては、契約交渉の担当者において、事前に、「この契約によってどのようなビジネスを構築したいのか?」というイメージを固めることが重要です。売買契約であれば、カネとモノはどの時点でどのように動くことを想定しているのか、ライセンス契約であれば、どういった知的財産について、どのように使用許諾し(してもらい)、そこからどのくらい利益を得たいと考えているのか……。そういったことを一つ一つ紙に書き出したり、議論しあったりして、詰めておくことが必要です。その際には、取引の流れを図に書いてみるなどし、商品や権利、金銭の流れを具体的にイメージすることも有益でしょう。

また、「この取引を通じて達成したい又は得たいものは何か?」をはっきりさせることも重要です。単発又は短期の取引で1円でも多く利益を得たいのか、長期的な取引をすることで安定的な収益を得たいのか。それとも、当該取引先との取引を増やす足がかりをつくりたいのか。こういった方向性によっても、交渉のスタンスは大分変わってきます。

次に、将来問題が起こった際に役に立つ契約書を作成するためには、当該契約におけるリスクを整理しておくことも重要なポイントです。

そこで、まず、確認したいのが、「当該顧客がどのくらい信用できる相手か?」という点です。信用できる取引先相手の場合と、そうでない取引先相手の場合では、契約書をどのくらい詳細に慎重に作成しなければならないかという点に差が出てきます。信用できる相手なら、コストとのバランスを考え、契約書の内容を要点だけですませると判断することもあり得る選択肢であるからです。

しかし、日本の取引先と異なり、海外の取引先となると、当該取引先について外から得られる情報も限られますし、現地に赴くことも必ずしも容易でなく、場合によっては、担当者同士顔を合わせることもほとんどないかもしれません。それでも、当該会社の規模、取引先、収益、格付け機関等からの評価や他社からの評判等、可能な限り情報を集め、分析することが大切です。また、以前に当該会社と取引をしたことがあるのであれば、その際、期限を守ってくれたかどうか、契約内容を守ってくれたかどうか、何か紛争等は起きなかったか等もぜひとも確認したいところです。

さらには、当該取引の特徴からリスクを把握することも必要です。例えば、契約から履行までの時間が長ければ、その間に会社の財務状況が変わったり、競合の邪魔が入る可能性があるでしょう。また、商品を輸送する場合であれば、輸送の距離が長ければ長いほど、商品が滅失したり損傷する危険が増します。

契約書は、何かトラブルが起こったときのために作られるものですから、このように事前にリスクの内容と程度を洗い出し、そこを契約書で手当てするというステップを踏むことはとても重要なことなのです。

(なお、こういった情報の収集・整理には、コノサーのサービスが大活躍してくれますので、ぜひ、ご活用ください!)

最後に、当該契約交渉のボトムラインは何かを確定させることも必要です。当然のことのようですが、海外の取引先相手でも、弱気になったり、惑ったりすることなく、自社として何が妥協できる点で、何が妥協できない点なのか、そこをはっきりさせ、そこだけは最低限死守する気持ちで交渉に臨むことができれば、良い取引実現の一歩となることでしょう。

契約書のドラフトはどちらが用意する?

では、いよいよ契約書作成という段階になった場合、最初のドラフトはどちらが用意するのが望ましいのでしょうか。答えは、自社で用意する、です。

こう言われると、「自社には英文契約を一から作るノウハウはないし、相手が出してきたドラフトを修正すれば十分じゃないか?」とも思えるかもしれません。

しかし、契約書は、取引の内容を文字で描いたものです。そのため、契約書の中には、当該取引の構造やビジネスモデルをどのようなものにするかが書かれており、ドラフトを相手に作らせるということは、どのような取引にするかのベースを相手に作らせるということと同義といえます。また、契約書にかかれている内容について、「金額と支払時期、納期を除けば、後の条項はどの契約でもおおよそ同じ」という認識を持たれることもありますが、これは大きな間違いです。契約書の中には、所有権の移転時期、危険負担の移転時期、瑕疵がある場合の扱い等、トラブルが発生した場合に備えた各条項が規定されており、これらは、買主有利にも売主有利にも変更することが出来るのです。そのことをきちんと意識しなければなりません。

そして、取引相手が出してくるドラフトは、当然、取引相手側にとって有利な条件で記載されています。

ひとたびドラフトが出されてしまうと、こちらから対案として全く新たなドラフトを出さない限り、最初に出されたドラフトがベースとなって交渉が進んでいきます。修正を提案する場合には、「なぜ変えるのか?」と理由を求められ、納得できる説明ができなければ、「では、原案通りでいいではないか」等と押し切られてしまう、といったことにもなりかねません。

また、取引相手の出してくるドラフトが難解なものであった場合、こちらで契約書の内容を理解するのも一苦労です。

このようなリスクを考えれば、自社から、自社で使いこなせる、自社に有利な内容のドラフトを提出するというのは、重要な戦略の一つです。

このように、ドラフト作成は、交渉のベースを作る重要なものになりますので、会社の法務部員や弁護士に、当該取引に合った自社に有利な契約書作成を依頼することが一番望ましい形です。

また、会社が以前締結した同種の英文契約書を使おうとするケースも散見されますが、過去の契約書の中には、自社の立場が逆(売り手→買い手、又はその逆)のものであったり、個別の事情により様々に修正されたものが含まれており、本件取引において自社にとって有利な内容で規定されているとは限らないので、注意が必要です。そのため、自社の過去の契約書を使うときにも、各条項が自社に有利に規定されているか、法務部員や弁護士に見てもらうことを強くお勧めします。

しかし、法務部がなかったり、コスト等の関係から、どうしても法務専門者の意見を得ることができない場合には、インターネットや書籍、自社の過去の契約書等から、当該取引に最も近く、かつ、自社の立つ立場に有利なように作成されている(または、少なくともイーブンな形で作成されている)ひな型を探すことになります。書籍の中には、初心者でもわかるように説明しているものや、契約書中の同じ項目について、様々な規定の仕方を具体例と共に示したものもありますので、その中で、使いやすく、当該取引にあったものを選び、情報を収集すると良いでしょう。

まとめ

・契約交渉の前には、当該契約の目的やボトムライン、当該取引に潜むリスクの内容を整理し、明確にしておきましょう。

・契約書のドラフトを自社で用意することを検討してみましょう。

 

<プロフィール>

弁護士法人堂島法律事務所(東京事務所) 弁護士 瀧澤 渚氏

慶應義塾大学大学院法務研究科修了。2014年弁護士登録。外資法律事務所勤務の後、2016年より堂島法律事務所所属。企業法務・労務を中心に、英米法等の海外法務にも精通。

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