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契約書を受け取ってまず行いたいこと(弁護士 瀧澤渚)

      2016/10/26

 

2ffd7b1f3cb63a52f9418ba6bf6ad65a_s今回は,相手方から送られてきたドラフトや,社内の他の社員が作成したドラフトを確認する際に,まずどのような点を確認すると良いかについて,確認していきたいと思います。

基本情報に誤りはないか

契約書の確認をしていると,意外にも,契約当事者の会社名に誤りがある例や,対価の桁数に誤りがある例をちらほら見かけます。

また,契約書のひな型や以前に違う取引で使用した契約書を使ってドラフトをしている場合には,過去の取引の当事者名や,その際合意した当該取引における特殊な取引条件等が誤ってそのまま残ってしまっているということもあります。(※社内の他の社員が作成したドラフトである場合には,ベースとした契約書を確認してください。その必要性等については,詳しくは,第3回の記事をご覧ください。)

そこで,契約書のドラフトを受け取ったら,まずは,当事者名,取引の目的物を特定するための目的物の名称や番号,金額等の数字,契約書作成段階前に当事者間で合意していた内容等の基本的な情報が,正確に契約書に反映されているか,確認しましょう。

理解できない部分はないか

基本情報の確認ができたら,次に,全体をざっと読み,意味が分からない部分がないか,確認しましょう。

初めて英文契約書に触れる場合,知らない・分からない記載がたくさんあって当然です。知識や経験は後からついてきます。初めのうちからできる大切なことは,「知らない部分,分からない部分」をはっきりさせることです。

契約書に書かれている単語や熟語の意味を知らない場合

「これくらいいいか」とならずに地道に辞書等で確認しましょう。契約書では法律英語が使われており,重視していなかった単語が意外な意味を持つことがありますから,その点慎重な態度で臨む方が賢明です。その際使えるものとして,以下のようなツールが挙げられます。

・通常の英語辞典

→使い慣れているもので良いでしょう。

・法律用語辞典

→「田中英夫編『BASIC英米法辞典』東京大学出版会」のように,コンパクトなものを選ぶと,初めのうちはとっつきやすいかもしれません。

・英文契約書の参考書

→「牧野和夫著『英文契約書の基本表現』日本加除出版株式会社」など,英文契約書独特の表現方法に特化した参考書も出版されています。頻出の表現を俯瞰できる,使い勝手の良いものも多いです。

・インターネット上の英訳・和訳サービス

→「英辞郎」や「Weblio」等のウェブサイトでは,英単語や英熟語の実際の使用例を検索結果として出してくれるので,それらを確認することで,自分の理解した訳で間違いないかを確認することができます。

英辞郎:http://www.alc.co.jp/

Weblio:http://ejje.weblio.jp/

・Japanese Law Translation(法務省)

→法務省では,日本の法律の英訳版(公定訳ではなく,あくまで参考資料として使う目的のもの)を公開していますが,そこで使われている訳を下記サイトで検索することが可能です。法律用語の検索に役立つときがあります。

http://www.japaneselawtranslation.go.jp/dict/?re=01

書かれている内容が不明瞭である場合

知らない単語・表現を調べた上でも,契約書の内容を理解できないことがあります。そういった際には,開き直ることも重要です。すなわち,「ここはどういう意味か。」「この義務は誰がどういう場合に負うものとして規定しているのか。」「わかりやすく記載し直してくれないか。」と相手方に投げ返してみて,説明させるのです。

このように聞き返すのは格好悪いと思われるかもしれませんが,日本人が書いた日本語でも,記載の趣旨が不明瞭な悪文をよく見かけるように,外国人が書いた英語でも同様のことが起こり得ます。相手が難解な表現を使用していたり,日本にはない法制度を前提に記載をしていたり,受動態で記載していて主語が不明確であったり,文章が長すぎて意味が取りにくい文章になっている等、こちらの語学力以外の部分に原因がある可能性があります。そのため、聞き返すことを恥じる必要はありません。むしろ,きっちりと説明を求め,相手の意図するところをクリアにし,契約書ドラフトの内容を細部まで理解することは,とても重要なことです。

裁判所にわかる内容か

契約書の中に,技術用語や業界用語など,特殊な言い回しが多用されていないでしょうか。契約外の第三者にとって理解し難しい表現の使用は必要最小限にとどめ,可能な限り避けましょう。契約書は,紛争が起きた際に裁判所等の第三者に見せ,判断を仰ぐために作成される文書です。当事者には理解可能でも,裁判所等の第三者が内容を理解できない契約書は,契約書として不十分という気概で,契約書チェックに臨んでください。

数字が明確か

契約書に記載された数字は重要な意味を持ちます。期限に関するものであれば,その期限を守らないことで,本来主張できる権利が主張できなくなったり,契約違反となるリスクが生じます。そのため,契約書チェックの際は,実際に取引を行うときのことを想像して,当該期限の定めが明確かを確かめてください。例えば,「10営業日内」という規定であれば「いつから」10日以内なのかや,「営業日」の定義が明確かを確認してください。後者の指摘は細かいようですが,国によって銀行営業日が異なることもありますので,確認が必須です。また,「……までに○○するものとする。」といったような表現の場合は,当該期限の最終日をいつとするかが一義的に表現されているか確認してください。

同様に,取引量など,何らかの数量として数字が契約書中に規定されている場合にも,その数字がこちらの意図したとおり表現されているか確かめましょう。例えば,取引数量に応じて単価を変える場合に,「取引数量が100個以上である場合は」という記載と,「取引数量が100個を超える場合は」という記載では,何個目から違う単価が適用されるかについて違いが出てきます。こういった点は,契約書上は細かく見えても,実際に取引を行う際には重要なポイントとなってきますので,きちんと目配りをしておきましょう。

実行可能な内容になっているか

契約書の内容が実現可能な内容かの確認も重要です。受発注や納品・検品の手続きの内容や期限が適切か,対応可能な取引数量・頻度になっているか等,契約開始後を想像してきちんと確認し,「そもそも守るのが難しい」契約書になっていないか検討を行ってください。

契約書が締結されれば,各当事者は当該契約書の目的である取引の履行にあたり,契約書に記載された手続に拘束されます。そして,それが守れないと,契約違反となって契約を解除されたり,損害賠償責任を負うリスクが生じます。そのため,契約書の内容はきちんと守ることができる現実的な内容になっていることが必要なのです。

なお,この点は,実務に携わっている方が,一番よくわかっており,適切な判断を行うことができるところでしょう。その意味では,契約書チェックを弁護士や法務部等に依頼する場合であっても,事前に,担当者レベルでこのような観点での契約書チェックを行っておくことは非常に有益であり,ぜひとも行っていただきたいと思うところです。

まとめ

・契約書を受け取ったら,まずは基本情報に誤りがないか確認しましょう。

・全体を読んで不明瞭なところを洗い出し,明確にするための具体的方策をとりましょう。

・書かれている内容が実行可能な内容になっているか,確認しましょう。

 

<プロフィール>

弁護士法人堂島法律事務所(東京事務所) 弁護士 瀧澤 渚氏

慶應義塾大学大学院法務研究科修了。2014年弁護士登録。外資法律事務所勤務の後、2016年より堂島法律事務所所属。企業法務・労務を中心に、英米法等の海外法務にも精通。

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