海外マーケティング支援を行っている合同会社トロの芳賀 淳です。
リスト規制対象品目か否かで業務の複雑さが違うことがわかりました(前回記事)。すべての輸出者が遵守しなければならないとはいえ、当社にはそんな余力はない。そういう企業さんの声も聞こえてきます。
では、最低限やるべきことは何なのか見て行きましょう。
社内に責任者を決める、商談交渉時に最終用途や利用者情報をつかむ(信用調査とも照合する)
輸出者が必ず行うべきことは、受注した(受注する)貨物や技術がリスト規制対象品目であるか否かの判定=該非判定=です。該非判定業務の責任者は社内の者でなければなりません。所属や役職に関する制限はありませんが、該非判定書類の決裁権者とするのがよいでしょう。
該非判定の結果、当該貨物や技術がリスト規制対象である場合
必要書類を整備して経済産業省への輸出許可申請手続きを進めます。
手順の概要:https://www.meti.go.jp/policy/anpo/seminer/shiryo/setsumei_junshu.pdf
該非判定の結果、リスト規制対象でない場合
キャッチオール規制の手順に従って業務を進めます。
グループAの26か国向けの輸出案件ならば許可申請は不要です。
グループA以外の国や地域向けの場合は、用途が兵器開発や製造に関連するものでないかどうか(用途確認)、最終利用者が核兵器等の開発を行っていないか(行ったことがないか)どうか(需要者確認)、という確認が必要です。前回でも説明しましたが、外国ユーザーリストに掲載されている業者(需要者)との取引きでは商談内容を十分確認しましょう。
外国ユーザーリストhttps://www.meti.go.jp/policy/anpo/law05.html (2.キャッチオール規制(16の項)関係)
こうした一連の作業(取引審査)を経て、輸出許可申請を行うかどうかを会社として判断します。その判断者は営業から独立した経営層(取締役や執行役員)が務めるのが望ましいとされています。
用途や最終利用者(需要者)の確認はわざわざそれだけを行うのではなく、通常の商慣習の範囲で取引相手から得られる各種情報(文書、現場視察他)によって行います。商談の過程で行われる契約交渉や技術交渉の中で確認を行えばよい、ということです。現地出張時には現場(工場や流通網)を見ておきましょう。取引先の信用調査を忘れずに行います。
例えば、西アジアのX国からシャンプー1,000万本の引合いがあったと仮定します。X国の人口は200万人とします。人口の5倍の引合い、しかも高価格、円建て、全額出荷前払い、という好条件の引合いです。何か変ですね。会社として用途や需要者の確認をしなければなりません。シャンプーは化学品ゆえ、精製や合成することで毒ガスの材料となる可能性があるのです*。実需に見合った規模の引合いか? 支払い条件が異常に好条件でないか? ということに基づき、引合い内容の実際の姿を確認しないと後々大変なことになります。
*シャンプーは関税分類番号(HSコード)では33類、化学工業の生産品に区分されます。
注意しなければならない商談の特徴
次のような事項が経済産業省から述べられています。
- 需要者の事業内容や技術レベルからみて貨物を必要とする合理的理由があるか?
- 設置場所や据付などの条件が妥当か?
- 異常に大量のスペアパーツを求めていないか?
- 表示、船積み、輸送ルート、梱包における条件が理路整然としているか?
- 通常要求される程度の性能等の保証の要求があるか?
- 据付、指導等の通常予想される専門家の派遣要請があるか?
信用調査を含め、商談の過程で案件の根拠情報を入手するようにしましょう。
まとめ
輸出する貨物や技術がリスト規制対象品目かどうかの該非判定を行う際の責任者を決めます。非該当と判定した場合はキャッチオール規制に則った社内審査を行います。用途、需要者について、通常の商慣習の中で確認します。信用調査は是非行いましょう。
▼シリーズバックナンバー
第1回 【安全保障貿易管理、米国ルールにも注意!】Huaweiと商売するとどうなるのか?
第2回 【安全保障貿易管理、見落としたら大変!】データ送信や技術資料の扱い、大丈夫ですか?
第3回 【安全保障貿易管理、見落としたら大変!】リスト規制品の該非判定だけでは不十分
【プロフィール】
合同会社トロ 代表社員 芳賀 淳(はが あつし)
大手総合電機、精密機械メーカーにてベトナム他での海外販路開拓や現地法人設立などの海外業務に携わった後、合同会社トロを設立。豊富な海外業務・貿易実務経験を活かしたコンサルティングサービスを、ジェトロや中小機構などの公的支援機関および民間企業向けに提供している。
URL: https://sub.toro-llc.co.jp/