海外マーケティング支援を行っている合同会社トロの芳賀 淳です。
2024年7月に2024年度版ジェトロ世界貿易投資報告が公開されました。世界を舞台にした貿易、投資、制度、規制についての現状分析、今後の流れについてのヒントが記載されています。データや根拠資料は無料で入手可能ゆえ、是非目を通されることをお勧めします。
ジェトロ世界貿易投資報告（過去の版を含む）
https://www.jetro.go.jp/world/gtir/
2024年版同報告の主たるポイントは次のとおりです。
- 貿易では地政学リスクが上昇し、自由貿易は足踏み。
- 投資面では直接投資が減少（特に中国向け投資が大幅減少）、一方で中東やインド向け投資が堅調。
- 経済安全保障に関わる各国の政策が動き出し、輸出管理の強化、サプライチェーンの見直し、重要産業の国産化推進、に配慮した動きが重要になる。
取引（候補）相手のことは取引前も、取引開始してからも、よく調べる
出典：合同会社トロ資料
貿易や投資など通常の経済活動は市況を見ながら行動すればよいのですが、地政学リスクを背景とする各国の政策や輸出管理強化の動きには、会社のコンプライアンス体制を変えて対応する必要があります。次のようなポイントを押さえておきましょう。
輸出管理強化とサプライチェーンの見直し要求が高まる
既に輸出者として安全保障貿易管理の体制を構築し、経営者の下、全社で法令遵守に取り組んでいる場合はその調子で日々の業務を進めます。
一方で、体制構築も日々の業務への落とし込みもこれからという企業の場合は早急に輸出管理体制の構築に取り組む必要があります。経済産業省と日本商工会議所が安全保障貿易管理に関する無料セミナーをリアル会場およびオンラインで行っているので、適宜受講されることをお勧めします。
https://www.meti.go.jp/policy/anpo/seminar00.html
取引相手は川下の顧客だけでなく、川上の供給元も可能な限り調べる
外部から機微な仕様の原材料、部材を購入している場合は、供給元から技術の仕様や輸出管理規制該当か否か、を確認する必要があります。さらに、個別品目の確認だけでなく、供給元の会社概要と事業活動も把握しておくことが求められるようになりつつあります。つまり、サプライチェーンの見直しを適宜検討する必要がある、ということです。
米国輸出管理規制（EAR）と米国エンティティリスト（EL）の最新版を把握する
日本の居住者である日本法人は日本の法令を遵守する必要があります。輸出管理の場合は米国の輸出管理法令も理解し、それに沿った法令遵守活動も求められます。もし米国輸出管理規則に抵触する行為を行うと、米国由来の原材料やソフトウェアの使用ができなくなる可能性があります。
米国輸出管理規制に関する全体像や概要は次のジェトロ資料P17以降を閲覧下さい。
https://www.jetro.go.jp/ext_images/world/security_trade_control/pdf/guide/202401_v2.pdf
文書の保存・報告・是正が重要
輸出許可証、該非判定書、通関書類、電子（技術）移転の記録、などを保存します。米国EAR（上記第3項）では原則5年間保存することが求められています。
もし法令違反事項を発見した場合は、社内規定に従い速やかに経営層や規制当局に報告を行い、是正策を講じます。
評価、指導を行う
法令に遵守した管理業務が行われているか否かの評価、輸出や技術移転に関わる従業員に対して法令順守に必要な指導を行うこと、が求められています。
まとめ
地政学的リスクの高まりを背景に経済安全保障に関する業務の重要性が増しています。米国の輸出管理規制にも留意しながら、川下の顧客や川上の供給元についての調査を定期的に欠かさず行うことが大切です。
【プロフィール】
合同会社トロ 代表社員 芳賀 淳（はが あつし）
大手総合電機、精密機械メーカーにてベトナム他での海外販路開拓や現地法人設立などの海外業務に携わった後、合同会社トロを設立。豊富な海外業務・貿易実務経験を活かしたコンサルティングや研修サービスを、民間企業およびジェトロや大阪商工会議所などの公的支援機関向けに提供している。これら機関向けセミナー実績も多数有する。
URL：https://sub.toro-llc.co.jp