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英文売買契約書(Sales Contract)の基礎と実務  ~第9回 知的財産権~(弁護士 江藤真理子)

      2018/09/05

 


こんにちは、弁護士の江藤真理子です。
Sales Contract(英文売買契約)の条文シリーズ、今回は「知的財産権」です。

意外と怖い!?企業間取引における「知的財産権」のリスク

知的財産権といえば、特許権、著作権、意匠権、商標権などが思い浮かびますが、実際にはいろいろなものがあり、ソフトウェアや半導体集積回路はもちろん、ノウハウ(=営業秘密)、微生物、動植物などが問題になることもあります。

個人の売買であれば、知的財産権との兼ね合いでは、「私が買ったこのブランドバッグ、本物?」程度の問題ですが(大問題ですが)、企業間の売買であれば、その後の買主企業による転売や利用において、知的財産権の処理がどうなっているのか、問題が尾を引くので重要になってきます。

「尾を引く」というのは、例えば企業が海外から輸入してきた商品を日本国内で広く販売していたところ、別の海外の事業者から「その商品は当社の特許権を侵害しているから販売を差し止めよ、さらに損害も補償せよ」などと請求されるようなことがある、ということです。

転売先がその商品を部品として組み込んでさらに大きく販売している、ということになれば、その紛争の規模はすぐに膨れ上がります。つまり、売主である場合を想定すると、他社から仕入れて転売したところ、買主から、「貴社の商品は第三者の権利を侵害していると警告された。補償してくれ」と突如請求されることもありうる、ということなのです。

英文売買契約書における「知的財産権」の条文例

上述のような関係にあるので、少し緊張感をもって、今日の条文例を見てみましょう。

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【設例】

MM物産(「売主」/“Seller”)の生活用品流通課の三井さんが担当となって、MM物産はシンガポールのスーパー(「買主」/“Buyer”)にコーヒー用マグカップ(「本商品」/“Products”)を1000個販売することになりました。三井さんとしては、本商品は周辺国の他の業者から仕入れてきたものであって、その周辺国におけるデザインなどの権利関係の調査まではできなかったことから、売主にとって有利な条文を入れることにしました。
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Article XX. INTELECTUAL PROPERTY(知的財産権)

The Seller shall not be responsible for any infringement with regard to the rights of design, trademark, patent, copyright or any other intellectual property rights in any country in connection with the sales, use or delivery of the Products and any disputes or claims arising therefrom shall be settled by the Buyer at its own expenses.

売主は、本商品の販売、利用又は引渡に関連し、あらゆる国において、意匠、商標、特許、著作権、その他の知的財産権の侵害について何ら責任を負わず、関連して生じるあらゆる紛争又は請求については、買主が自らの費用負担で解決するものとする。

以上の文章で買主がやむなしとして受諾してくれればよいですね。

しかし、多少国際取引の経験がある買主なら、「売主なのだから、もう少し責任を負うべきだ。もっときちんとした条文を提示してほしい」などと要請してくることもあるでしょう。そのような場合には、以下のような案文も選択肢になります。

Article XX. INTELECTUAL PROPERTY(知的財産権)

The Seller warrants that, to the best of its knowledge, no intellectual property rights of a third party will be infringed upon in connection with sale, use, or delivery of the Product in the event that the Product is used in Japan and Singapore.

売主は,本製品の販売,使用又は引渡しに関連して,知る限り,日本及びシンガポールにおいて,いかなる第三者の知的所有権をも侵害しないことを保証する。

ポイントは「to the best of its knowledge(=知る限り)」「in Japan and Singapore(=日本及びシンガポールにおいて)」です。

この二つがあると、一見重く見える売主の責任が、相当限定されます

買主サイドから厳しい要求がつくことも多いのですが、そのちょっとした文言追加で売主の責任を限定することができる、という例になりますので、覚えておかれるとよいでしょう。

まとめ

いかがでしょうか?
今回は貿易取引(英文売買契約)における「知的財産権」について解説いたしました。

知的財産に関するトラブルは、万一発生した際にどの程度のリスク(経済的損失)があるのか、あらかじめ合理的に見積もることが難しい点にあります。契約書を工夫することで、少しでもリスク回避につながるように心掛けたいものです。

▼バックナンバー
第1回 Sales Contract(英文売買契約)の特徴
第2回 Incoterms(インコタームズ)とは
第3回 ウィーン売買条約にご注意を!
第4回 売買の合意(売買の予約)と商品の特定
第5回 商品の価格と支払条件
第6回 商品の引渡しと検収(検査)
第7回 所有権と危険負担の移転
第8回 品質保証とクレーム

<著者プロフィール>

TMI総合法律事務所 弁護士 江藤真理子氏

東京大学法学部卒業。三井物産審査部海外審査管理室勤務を経て、2003年弁護士登録。企業法務を専門としており、国内・海外取引関係(海外進出の助言、契約書作成から紛争時の対応まで)以外にも、企業側からの雇用契約関係の助言にも対応している。

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