ブラジルは2014年ワールドカップ、2016年リオ五輪の2大イベントによる投資資金の流入を追い風に、成長が加速してきました。しかしここにきて景気悪化、インフレ高進、さらに不正疑惑スキャンダルなど取り巻く環境が悪化しています。
また資源輸出先としてメリットを享受してきた中国が中成長へと舵を切ったこともマイナス要因です。
そして2015年9月には遂に、S&Pはブラジル国債の格付けを投資不適格級へ引き下げました。国際商品市況の落ち込みの影響を受け、ブラジルはBRICsの中で早々と失速しつつあります。新興国シリーズ第6回は、ブラジルが成長軌道へ復帰する日が訪れるのか考えてみましょう。
前回の記事はこちら⇒新興国リスク【第5回】ロシアリスク??最近よく聞く「地政学リスク」とは
▼目次
スキャンダルが招いた政権への不信感
大手国営石油公社社の汚職疑惑
ブラジル随一のトップ企業・国営石油会社ペトロブラスは2015年6月、ドル建て100年債の発行計画を発表しました。日本の国債の償還期間が40年ですから、もちろんこれは超長期債といえます。
一方ペトロブラス社といえば、同社の招いた政治家の汚職疑惑が国民の不満を招き、去る3月~4月にルセフ大統領の退陣を求める反政府デモにまで発展しました。
(この騒動を為替市場が嫌気した結果、ブラジルレアルはなんと12年振りの安値水準にまで下落しました。)
経済悪化により高まる国民の不満
左派労働党のルセフ大統領は2011年に当選し、2014年に僅差で再選を果たしました。汚職問題という大スキャンダルの他にも、経済政策に対する「バラマキ」という批判的な見方もあり、目下支持率は10%程度と危険水域にあります。
経済の悪化が国民の不安を招く中で、政権が維持されるのか否か要注意の状況が続きます。
ブラジル経済はスタグフレーションへ
ブラジルは現在、レアル安や干ばつといった要素により、インフレ率が8%水準へと上昇している状況です。また資源安により経済成長もマイナスへと転じる見込みです。つまり現在の状況はスタグフレーション、つまりインフレ下での景気後退に陥りつつある状況といえます。
ルセフ政権2期目に入った政府は、財政の健全化による投資家の信認回復を模索しています。
インフレと景気後退の両方を一気に克服することは難しいのは明らかです。また現在、中央銀行は金利を引き上げてインフレ対策を講じていることから、景気回復はより遠くなりつつあります。
まとめ
目下、政権はインドのように構造改革を図っています。しかしスタグフレーションと政権スキャンダルで国民からの指示を失いつつある状況で、痛みを伴う改革に取り組むことは困難といえます。
たとえば資源高によるブーム再来でも起こらない限り、回復基調への道は厳しいかもしれません。資源国であるブラジルは、高度成長する中国の需要に支えられた国際商品市場の上昇によって潤ってきました。しかしその経済実態は、BRICs4か国の中で最も弱い国だったと言っても良さそうです。