米国では3度に渡った量的緩和(QE)が終わり、米連邦準備理事会(FRB)がいよいよ金融正常化に向けて動き出しています。
緩和マネーはこれまで世界同時株高を演出し、一環として証券市場を通じて新興国にも大量に流入してきました。
米国の金融政策の転換は、マネーの流れに大きな変化をもたらします。そして金融市場に何らかのショックを与えることが懸念されます。
過去にも、米国の利上げを前にして1994年12月にはメキシコ通貨危機が発生したり、97年の利上げ後にはアジアやロシアで危機が発生しました。
米国の金融政策の変更、とくに引き締めが実施された場合、新興国に流れ込んだ資金が米国へ回帰する傾向が顕著といえます。リーマンショックから7年を経た現在、新たな金融危機が発生する可能性は否定できません。
この連載第2回では、米国の利上げが新興国に与える影響について考えてみましょう。
前回の記事はこちら⇒新興国リスク【第1回~はじめに】成長性と脆弱性が混在する新興国諸国
▼目次
金融危機発生のメカニズム
1980年代以降、国際金融市場では通貨危機、金融危機が数年に一度起きています。
その度にその国の通貨が売られ、株式市場や債券市場の暴落と、金融市場そして国の経済の混乱を引き起こしました。
背景には、新興国は慢性的に経常収支赤字で、外貨準備が不足している状況があります。
新興国に流入している短期マネーは、その国の経済事情の悪化や、米国の金利引き上げなど、様々なきっかけで急速に流出します。
そして一度流出が起こると、その国は対外債務支払いに行き詰まってしまう…この流れは過去に何度も繰り返されてきました。
今日では、このような流れでの金融危機を回避するために、IMFを中心に各国間でスワップ協定が結ばれています。
万一の時に通貨危機に陥った国が外貨資金を調達できる仕組みが作られ、これまでに比べて盤石な体制が構築されています。
とはいえ、現在の金融市場は資金量が巨大に膨れ、さらに各市場は複雑に絡み合っています。
いかなる不測の事態が発生するか分からないことが、市場の不安を増幅する要素となっています。
過去の金融危機と米国利上げの関係
経済史上、通貨危機・金融危機は金融システムが脆弱な新興国で発生してきました。
代表的な例として1994年のメキシコ通貨危機(テキーラ・ショック)、1997年のアジア通貨危機を解説します。
1994年:メキシコ通貨危機(テキーラ・ショック)
メキシコ通貨危機は、グリーンスパンFRB議長が率いるFRBの金融引き締めへの動きを前にして発生しました。
当時のメキシコは、経済安定化と市場自由化をうたった1988年~サリナス政権のもとで急成長中でした。
新興国の中でも優等生とされ、先進国から多額の投資資本が流入していました。
一方で、固定相場制に対する市場の懸念も水面下で高まっていきます。
ついに1994年に入り、経済政治情勢の不安定化をきっかけに、資金流入が急速に細り、デフォルトリスクが生じます。
影響は即座に中南米諸国に伝播することとなりました。
1997年:アジア通貨危機
1997年の米国の金利引き上げにおいては、タイからの資金流出に端を発したアジア通貨危機が発生しました。
タイやインドネシア、韓国などアジア各国はデフォルトに追い込まれ、IMFの管理下で経済再生への厳しい道を歩むこととなります。
今回の米国利上げについても、開始時期と具体的な手順を巡って、国際金融市場では様々な憶測が飛び交ってい ます。
不安心理の増大は、更なる不安を呼び、急激な資本引き揚げといった極端な行動を引き起こします。
また新興国に端を発した金融危機への不安は、欧米金融機関が保有する債権価値の毀損にもつながります。
欧米の銀行においても、経営の根幹を揺るがす要因になりかねません。
このように世界金融市場の緊張の高まりは、連鎖的な金融危機へと発展する可能性を秘めているのです。
まとめ
過去の通貨危機や金融危機の多くは、金融システムが脆弱な新興国市場で発生してきました。新興国市場への投資や、ビジネス参入を考える場合、その点にはくれぐれも留意が必要です。
今後最も注意が必要な国々は、資源高に支えられた高成長を謳歌してきたロシアやブラジルなどです。
これまでの15年間こそ、好調な経済にあった両国は、既に資源安や中国の経済減速の影響を受けています。
国内事情の悪化や、その動向には十分注意をすべきでしょう。
●コラム筆者プロフィール●
名前:テムジン
リスクマネジメント界のチンギス・ハンです。
一言:迷える子羊たちに、世界各国のカントリーリスクを 分かりやすく説明します。 |