1962年以来ミャンマーでは、事実上の鎖国状態が続いてきました。さらに、1988年以降の軍事政権による民主化抑圧に対し、欧米諸国の経済制裁が加わり、ほとんど世界経済から隔絶されたような状況が続きました。
転機となったのは、2011年の新憲法下でのテイン・セイン政権の発足で、これを機に、世界の対ミャンマー経済制裁が緩和されました。さらに、税制優遇措置の導入、経済特区の創設など、外資導入に向けた環境整備が進められたことから、「最後のフロンティア」として一躍脚光を浴びるようになりました。
事実、2013年以降のミャンマーは、外国からの投資拡大を追い風に8%近い高成長を実現しています。また、スマートフォンが普及するなど、個人消費が拡大し、オフィスビルやホテルの建設ラッシュも続いています。
一人当たりGDPが1,200ドルほどの水準にあるということは、賃金水準が極めて低いことを意味し、そのことがミャンマーの最大の魅力となっています。一方で、道路・電力・鉄道と言ったインフラ整備が遅れていることは、ミャンマー最大の問題として横たわっています。今後、政府開発援助(ODA)による先進各国からの支援を受け、どのように投資環境が改善されるかが注目されるところです。
それでは連載第7回目の今回は、ミャンマーの現状と今後を展望してみましょう。
ミャンマーへのODAの詳細についてはこちら(外務省のHPに移ります)
▼目次
民主化の動きと経済発展
ミャンマー経済は、これまで半世紀にわたる鎖国状態、そして民主化抑圧に対する経済制裁により、国際社会から孤立し、発展が遅れてきました。しかし、発展が遅れたことにより相対的に高まった潜在力に今、海外からの注目が集まるようになってきているのです。
その直接のきっかけは、2011年の新政権発足でした。新政権発足以降、欧米諸国との対話が進み、経済制裁解除の流れが加速してきました。これを受け、海外投資家の注目度が高まり、外国企業の進出が増えたのです。
成長から取り残されていた国が、経済成長と共に先進国に追いつこうとする時期こそ、もっとも大きなリターンを狙える絶好のタイミングとも言われています。
1990年代のタイやマレーシアも同様でした。安い労働力を求めて世界中の企業が工場を建設する過程で、インフラの整備が進み、国民の生活水準が向上することにより、内需が急速に拡大したのです。
2011年にミャンマーが経済発展のスタート台に立ってから、ほぼ4年が経過しました。そしてこの間、管理変動相場制への移行や、証券市場の整備などの金融・資本市場の改革がおこなわれました。同時に、邦銀メガバンクなどの外銀に営業許可が与えられるなど、金融インフラの整備が矢継早に行われたのです。
さらに、対外関係正常化や経済自由化を受け、ミャンマーの消費者心理が高揚したことが、8%を超える高い経済成長を実現させたのでした。
安い労働力が豊富でもインフラの未整備がネック
ミャンマーは、インドシナ半島西部に位置し、人口はほぼ5,000万人に上ります。さらに中国、ラオス、タイ、バングラデッシュ、インドと国境を接しており、周辺には25億人のマーケットを抱えているという地理的メリットも有しています。
また、経済制裁が解かれたことにより、安い労働力を求めた海外資本の工場建設の動きが加速しています。ミャンマーにおける平均賃金は、東南アジアの中でも格段に安く、タイの平均賃金の1/8に過ぎず、カンボジアやラオスよりも3割程度低い水準とされています。
このように、最後のフロンテイアと言われるミャンマーへの工場進出は魅力に溢れているのですが、インフラの整備が全く進んでいないことから、今後どの程度まで国が主導して整備が進むのかが注目されます。
インフラの整備状況を他国と比較してみると、タイの道路舗装率が約90%、ベトナムが40%を超えているのに対し、がミャンマーは10%程度と遅れています。また、発電容量もタイ、ベトナムの1割以下と、極めて低い水準に止まっています。
したがって、ミャンマーの電力事情は悪く、停電が頻繁に起きる事態を招いています。その結果、工場進出した企業においては、自家発電設備の準備が必須とも言われています。このことは、総合的な費用を考えると、「人件費が多少高くても、カンボジアの方が良い」との声が聞かれる背景となっています。
とはいえ、長い海岸線と港湾を持ち、さらに大きな市場が隣接している地理的メリットを合わせて考えると、ミャンマーへの期待がそう簡単になくなることは考えにくいでしょう。
まとめ
今後、ミャンマーにおいてインフラ工事が順調に進むかどうかは、政治的安定がどれだけ実現されるかにかかってくるでしょう。
2015年11月の総選挙において、アウン・サン・スー・チー氏が率いる野党・現在は、国民民主同盟(NLD)が大勝したことを受け、政権交代に向けた協議が進んでいます。当面は、政権移行が無事行われるのかが注目されるところです。