前回から、実際のSales Contract(英文売買契約)中の重要な条文を取り上げています。第5回(第1回、第2回、第3回、第4回はコチラ)は、商品の価格条項、支払条件の条文を見ていきます。
売買契約の場合、商品、仕様、数量、価格、引き渡し時期などが決まっている場合もあれば、一定期間に行われる見込みで、個々の売買契約が実際に発生したときに、共通して適用される売買条件を取り決めておく場合もあります(取引基本契約書と呼ばれるものがこの類型です)。
今回も前回に引き続き、前者の商品、数量等の条件が決まっている場合について、具体的な設例に沿って話を進めます。
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【設例】
MM物産(「売主」/“Seller”)の生活用品流通課の三井さんが担当となって、MM物産はシンガポールのスーパー(「買主」/“Buyer”)にコーヒー用マグカップ(「本商品」/“Products”)を1000個販売することになりました。
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▼目次
商品の価格条項(Price)
Article XX. Price of the Products(商品の価格)
The Price of the Products shall be as follows:
(1) Unit price of the Products: JPY 1,000
(2) Total price of the Products: JPY 1,000,000
本商品の価格は次のとおりとする。
(1) 商品の単価:1個あたり1000円
(2) 商品価格の総額:100万円
ちょっと簡単すぎましたでしょうか。上記は、単純な事例になりますが、価格と総額を明記したわかりやすい規定例です。
また、よく見られるのが、商品価格の改定がありうる場合などに、商品価格を別紙に定めることにするようなケースです。たとえば以下のような条文になります。
Article XX. Price of the Products(商品の価格)
The Price of the Products shall be as set forth in the Exhibit attached hereto.
(本商品の価格、本契約に添付された別紙に記載のとおりとする。)
英文契約に限りませんが、別紙方式にすると、別紙だけ差し替えればよいので、契約書の作成上は便利です。補足契約(Supplemental Agreement)といったり、修正契約(Amendment Agreement)といったりします。
支払条件(Payment)
Article XX. Payment(支払い)
Payment for the Products shall be made by the Buyer to the Seller by telegraphic transfer to the bank account designated by the Seller in Japanese Yens within one (1) month after the date of shipment.
(本商品に対する代金の支払いは、船積日の1か月以内に、買主から売主に対し、売主指定の銀行口座に電信送金する方法により支払わなければならない。)
こちらもよくある条文ですが、支払条件については、そもそも何を選択するか、前金、L/C(信用状)、為替手形、電信送金といろいろある中から決定しなければなりません。初めての取引の場合はL/Cで、ということも多いかと思いますので、L/Cの場合の条文もご紹介します。
Article XX. Quantity(数量)
The Buyer shall open an irrevocable letter of credit, within 30 days after entering into this Agreement, through a prime bank satisfactory to the Seller, which letter of credit shall be in favor of the Seller and shall be payable in Japanese Yen.
(買主は、本契約の締結日から30日以内に、売主が認める一流銀行で、売主が認める条件の日本円支払用の取消し不能の信用状を開設しなければならない。)
L/Cの仕組みとも関連してくるので、少し読みづらいかもしれませんが、以上のように、LCを決済条件とする場合には、開設期限、開設銀行の特定、通貨等の諸条件にも言及しなければならなくなりますので、条文の作成はやはり専門家に見てもらうのが良いだろうと思います。
まとめ
今回の条文例は、売買契約でも最も重要な条件である価格と支払条件に関する条文でした。さほど難しくはないのですが、価格の設定が複雑な事例などは、慎重に作成する必要があります。また、“日本の契約書でよくある、「当月末締め翌月払い」ということで作成したいのですけど・・・”、というのはよくあるご相談ですが、単純なのに英文契約ではそれほどみかけないもの、などもありますね。他には、請求書の作成、送付に言及する例、遅延損害金を定める例、与信限度額を定める例などもあります。ここまでくると、やはり、専門家に作成してもらうのが安心かもしれません。
⇒第6回 商品の引渡しと検収(検査)
▼バックナンバー
第1回 Sales Contract(英文売買契約)の特徴
第2回 Incoterms(インコタームズ)とは
第3回 ウィーン売買条約にご注意を!
第4回 売買の合意(売買の予約)と商品の特定
<著者プロフィール>
TMI総合法律事務所 弁護士 江藤真理子氏
東京大学法学部卒業。三井物産審査部海外審査管理室勤務を経て、2003年弁護士登録。企業法務を専門としており、国内・海外取引関係(海外進出の助言、契約書作成から紛争時の対応まで)以外にも、企業側からの雇用契約関係の助言にも対応している。