・新興国における会計・税務周りの注意点
インドで日本企業の進出支援を行っている公認会計士の野瀬大樹と申します。インドでのビジネス経験を基に、新興国における会計・税務のポイントやインドで生活してきて気付いたことなどを皆様に伝えていきたいと思いますので、よろしくお願いします。
私が拠点を置いているインドを含め新興国では、もちろんビジネス自体も大変なのですが、会計や税務などの管理周りでも日本やシンガポールなどでは考えられないような問題に直面することがあります。
細かなポイントは次回以降に譲るとして、私が現地インドで仕事をする上でよくある問題点をおおまかにグルーピングしてみました。
▼目次
①税制や会計制度の複雑性
新興国では、いまだに税制や会計制度が未発達・発展途上であることが多く、それらの制度が非常に複雑かつ非効率であるケースが多いです。日本企業は新興国への進出検討時には見込みの売上や利益までは計画に織り込むのですが、比較的大きな規模の企業でも実際の税負担や会計開示にかかるコストを織り込まず、資金繰りに苦しむところが多いのが実情です。
また税制改正も非常に多く、日本との大きな違いとして「来週から変えます」などという急な展開が少なからずあります。このあたり、せっかく作成したインボイスや見積書が無駄になったり、また毎月の税納付を間違ってしまうリスクがあります。
②管理業務に対する認識ギャップ
先進国・新興国で働く会計士と色々話をしていても、日本企業の管理の厳しさは群を抜いています。日本企業の1円まで差異を詰める執念、あらゆる事象に事前に対応しようとする計画性は確かにすごいのですが、日本本社からの要望で実際多い「リスクをゼロにしてくれ」という水準は特に新興国では難しいです。
また管理会計上、日本本社は翌月3営業日までの月次決算提出など、かなりタイトな日程を依頼されることが多いです。これも現地の事情(そもそも相手からインボイスが来ないなど)を加味すると事実上難しいところです。
確かに管理を厳しくすることは大切ですが、ある程度現地の事情を考慮して「ここまでなら許容できる」というラインを提示しないと、無理難題を言われた現地サイドで逆に不正が生じる可能性も否定できません。
③不透明な取引
新興国と言えば、直面するのがあらゆる場面で要求されるいわゆる「賄賂」の問題です。このあたりは私も文字として残すのは難しいのですが、あるかないかと聞かれれば実際はあります。ただ当然日本の親会社が不正競争防止法にひっかかるリスクはありますので、これをそのまま払うわけにはいかないはずで、実務上は現地ローカルのコンサル会社やエージェントを使ってリスクを上手く切り離す必要があります。
また①ともかぶるのですが、税制上、特に間接税において取引先との間に解釈の相違が生じるような案件の場合、日本企業相手であれば「話せば分かる」ケースが多く、あとで払い過ぎた分などは調整することができるのですが、相手がローカル企業の場合こちらが条文を示して説得しても一度払ってしまったお金を彼らから取り戻すのはなかなか難しいです。このあたりは事前によくシミュレーションし、極力こちらの支払いは小さくすることが肝要です。
まとめ
途上国には日本など先進国ではあまり考えられない種類のトラブルがあるので、事前にトラブルを想定・シミュレーションし「転ばぬ先の杖」を用意しておく必要があります。
<プロフィール>
野瀬 大樹(のせ ひろき) 公認会計士・税理士
大手監査法人勤務の後、NAC国際会計グループに参画、インドのニューデリーにて主に日系企業をサポートするコンサルティング会社NAC Nose India Pvt. Ltd.を設立し、同代表に就任。インド各地にて、会計・税務・給与計算に加え、各種管理業務に関わるコンサルティングサービスを提供している。
事務所HP:http://in.nacglobal.net/
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