ゴールドマン・サックスが命名した「BRICs」4か国は過去15年にわたり期待通り急成長を遂げました。その代表格は中国で、それに続くのが今回のテーマであるインドです。
インドの国内通貨であるインドルピーは、2013年にモルガン・スタンレーが米国FRB(連邦準備理事会)の量的緩和縮小に伴う通貨下落が予想される通貨として掲げた「FRAGILE5(脆弱な5か国)」と名指しされたように、高インフレ率、経常収支の赤字など、金融・経済システムが脆弱な国としての側面を有してきたことは否めません。しかし2014年5月に国民の高い期待を受け、インド人民党・モディ政権が誕生して以来、ビジネス活性化に向けて経済改革に乗りだし、国内外から「モディノミクス」と囃されて成長期待が高まっています。さらに巧妙な外交で中国を意識しながら「強いインド」への布石を打ち続けています。
21世紀半ばには人口そして経済力で中国を抜き去り、世界最大の国になるとの見方も強まっているインド。今回は、経済改革や外交に手腕を発揮するモディ政権が推し進める改革は成功するのかどうか、その実情を探ってみましょう。
前回の記事はこちら⇒新興国リスク【第2回】米国の利上げと新興国への影響
▼目次
モディノミクスの光と影
モディノミクスとは?
ある国の政治・経済を始めとした実態を総合的に反映するものがその国の為替市場における通貨価値だとすれば、2013年の急落から一転した近頃のインドルピーの安定ぶりは、現在のインド経済の好調と将来への期待を先取りしたものと言えるでしょう。
2014年5月の総選挙で勝利し、単独政権となったのがインド人民党・モディ政権です。モディ政権が掲げる経済政策は、「モディノミクス」と呼ばれ、インフラ整備、外資規制緩和による製造業の発展、増税・汚職撲滅などの構造改革を打ち出し、国内外での期待を集めました。
恒常的な双子の赤字(経常赤字と財政赤字)に悩まされてきたインド経済は、近年の原油・天然ガスなど資源価格の低下で経常収支が改善し、さらに2015年の成長率は8%近辺と予想されるなど中国を上回る好調を維持しています。このような経済実態の改善を目の当たりにして、モディ首相により進められている改革への期待感が高まり海外からの投資が増大しています。
さらにインド準備銀行(中央銀行)のラジャン総裁は、即効性に欠ける政府の構造改革を補完するかのように利下げを実施して時間を稼ぐなど首相と中銀総裁との二人三脚が海外投資家への安心感を与えています。
真価が問われる2年目のモディノミクス
このようにモディノミクス1年目については保険・防衛分野での外資規制を緩和し外資誘致に成功するなど順調に推移しました。しかし一方で改革の速度が遅いことに対し市場や産業界から不満の声も漏れ始めています。
経済の効率化を図る構造改革には痛みを伴うのは当然です。モディ政権が進める食料の供給拡大を目指す農業改革やインフラ整備促進のための土地供給を促す土地収用法改正などは都市型ビジネスと対極にある農民から反対が噴出しています。実際に、財政赤字解消のために2016年4月より導入予定のGST(Goods and Services Tax)法案は下院こそ通過したものの、上院で合意に至らず、次期国会へと持越しになっています。
果たして2年目に入った「モディノミクス」は期待通りに経済改革を進め、12億人のインド経済を覚醒させることが出来るのか注目されるところです。
インドの外交政策
外交面でも存在感を増すインド
インドは半世紀余り前に東西陣営の対立が激化した時にネール首相が非同盟諸国を率い第3極を形成するなど外交面において存在感を示しました。現在同様のイメージを抱いているとも推測されるモディ首相は既に20か国近くを歴訪し、トップ外交を展開しています。
その目的は今後の市場拡大を踏まえ、外資誘致を進めることが挙げられます。さらに経済的側面にとどまらず外交面でのインドの復権を目指していると言っても良いでしょう。
実際、米国や日本を訪問しては関係の強化を図っていることは、南アジアへの勢力を伸張する中国を強く意識したものと言っても良いでしょう。
牽制しあう中国とインドの関係性
中国の習主席は4月にパキスタンを訪れ同国を縦断する経済回廊に450億ドルの投資を行うと約束しました。この回廊はインド・パキスタン間で緊張関係が高まるカシミール地方を縦貫することから中印衝突の可能性を秘めており、今後の両国関係を大きく左右することになるかもしれません。
折しも新開発銀行(BRICS銀行)の準備が進んでいます。この銀行はBRICS各国の投資・開発案件に融資することを目的としていますが、本店を北京におき、総裁はインドから出すこととなっています。従って今後BRICsの勝ち組である中国、インド2か国の様々な分野での競争などその動向が注目されるところです。
まとめ
2014年度の国際協力銀行の調査結果(わが国製造業企業の海外事業展開に関する調査報告)によると、中期的な有望事業展開先国として調査開始以降初めてインドが中国を抜いて1位になったように、日本企業のインドへの関心は日に日に高まっています。
日本でアベノミクスが始まって3年近くが経過しましたが、構造改革・規制緩和は簡単には進まない状況が続いています。この日本と同様にインドでも1年半遅れで「モディノミクス」が始まりました。果たして金融緩和で時間稼ぎをしている間にどこまで構造改革を進め、BRICsの先頭を走る中国を追撃する経済基盤が作ることができるのか注目されます。
●コラム筆者プロフィール●
名前:テムジン
リスクマネジメント界のチンギス・ハンです。
一言:迷える子羊たちに、世界各国のカントリーリスクを 分かりやすく説明します。 |