為替レートは市場参加者の心理を映し、絶えず上下動を繰り返します。共通通貨ユーロの為替レートも、EUが統合と崩壊の狭間で揺れるたび乱高下してきました。
果たして、共通通貨ユーロは安定し、米ドルと並ぶ基軸通貨として成長してゆくのでしょうか?
これまでの連載で、欧州リスクについて各国の実情を探りながら考えてきました。最終回の今回は、欧州の政治・経済の体温を時々刻々と反映する共通通貨ユーロに注目し、欧州の未来について考えてみましょう。
▼目次
ユーロの為替レートはEU市民の「心の鏡」
1999年の共通通貨ユーロ導入時、「米ドルと並ぶ世界の基軸通貨の誕生」とその成長が期待されました。
「準備通貨(中央銀行が外貨準備として保有する通貨)」としての利用率は伸び悩み、米ドルが全体の60%を超えているのに対し、20%台に止まっています。
ユーロの利用度が予想より低い理由のひとつは、欧州における政治・経済情勢の不安定さが為替レートの値動きに反映され、変動幅が大きく使いづらいことです。
(過去16年間で、1ユーロは0.85ドルから1.70ドルの間を大きく変動しています)
また、共通通貨があれば、域内で取引を行う際には便利ですが、域外との取引においては恩恵を受ける国と被害を受ける国に二極化してしまいます。
たとえば、域外との取引を想定すると、経済力が強いドイツでは、国力に比べて為替レートが割安に設定されていることから輸出が好調で、貿易収支黒字が積み上がるなど多大の恩恵を受けます。
一方、南欧諸国では為替レートが割高となり、輸出が伸びず経済停滞に苦しむことになるのです。
(参考過去記事:欧州リスク②ドイツと南欧諸国の対比記事)
したがって、欧州経済の持続的な発展のためには、ユーロ圏における政治・経済情勢の安定によって市民の不安が和らぐこと、それに伴い為替レートが安定することが不可欠といえます。
欧州経済リスクの最大の課題―ディスインフレと金融機関の健全化―
共通通貨ユーロの為替レートを決定する大きな要因は政治と経済と言えるでしょう。特に、当面最大の経済リスクとして、①ディスインフレと②金融システムは要注意です。
<経済リスク①:ディスインフレ>
用語解説:ディスインフレ(ディスインフレーション)
ディスインフレ(ディスインフレーション)とは、金融引き締めによってインフレが収束し、物価の上昇率が低下していく(ただしデフレにはいたっていない)状況を指します。 |
欧州は、物価安定の目安として2%近いインフレ目標を設定している(実質的なインフレターゲットを行っている)のに対し、実態は0.2%台(2015年7月現在)とディスインフレ傾向にあります。その影響を受け景気の減速感が強まっているのです。
このディスインフレによる不況感は、経済成長のエンジンが見つからない世界の先進国が直面する共通の問題です。各国ともに金融緩和で乗り切りを図っています。
EUも、量的金融緩和で時間稼ぎをしている間にどれだけ構造改革を進め成長の土台を作れるかがディスインフレ克服のカギとなるでしょう。
用語解説:インフレターゲット
インフレターゲットとは、政府・中央銀行が物価上昇率について目標を定め、これを達成するような金融政策を行うことを言います。 ユーロ圏では、明確なインフレターゲットの導入は表明されていないものの、欧州中央銀行(ECB)が「物価安定の数値的定義」として2%のインフレ率を設定しています。 |
<経済リスク②:金融システム>
したがって、南欧諸国の国債を大量に保有している金融機関の破綻を回避するため、ECBは金融機関に対しストレステスト(=資産査定)を行い、欧州の金融機関の健全性を強化しています。
共通通貨ユーロの為替レートは、まさにEU統合へのバロメーターです。
混迷する欧州の未来は『一難去ってまた一難』
今回は、共通通貨ユーロに注目し、以下について述べてきました。
ひいては共通通貨ユーロの安定につながること
これらのリスクが共通通貨ユーロの為替レートの決定に影響を及ぼし得ること
今後も統合推進派と懐疑派は真っ向から対立し、EU市民の心は揺れ動くでしょう。
そして、このような心理的な動揺を反映し、しばらく共通通貨ユーロはアップダウンを繰り返すことになるでしょう。
欧州の未来を予想すれば、『一難去ってまた一難』を繰り返しながら、統合への理念が具体化する道を辿るといったところかもしれません。
●コラム筆者プロフィール●
名前:テムジン
リスクマネジメント界のチンギス・ハンです。
一言:迷える子羊たちに、世界各国のカントリーリスクを 分かりやすく説明します。 |