▼目次
はじめに
第10回の今回は,「英文で契約書が来たら?~英文契約書のトリセツ超初級編~」の最終回です。最終回の本稿では,最近よくみられる,秘密保持条項(Confidentiality Clause)を取り上げたいと思います。
チェックポイント
・義務者
秘密保持条項が含まれている場合は,当事者の一方だけが義務を負うことになっていないか,一方だけなのであれば,そうした取り決めは当該取引に際して開示が予想される情報の内容に照らし適切かを確認しましょう。
・「秘密」の内容
秘密保持の対象となる「秘密情報」(confidential information)が適切に定義されているかも,きちんと確認しましょう。
「秘密情報」の定義については,「相手方から受領したすべての情報」などとしてあらゆる情報を対象とする場合もあれば,「相手方が秘密に保持すべきと指定したもの」などとして,秘密情報の範囲を開示者に区切らせる場合もあり,契約内容に応じて柔軟に決められます。
相手方から契約書が送られてきたとき,又は,自社のテンプレートを使用して相手方に契約書案を提示するときは,当該取引において開示されうる秘密情報にどのようなものが含まれるかを具体的に想像し,どのように定義したらよいか検討するようにしましょう。
・秘密情報からの除外事項
通常,開示を受ける前にすでに知っていた情報,開示を受けた際にすでに公知となっている情報(一般に誰でも知っているような情報),開示を受けた後に公知となった情報,第三者から取得した情報,独自に取得した情報などは,例外的に秘密情報にあたらないものと規定されることが多いです。そのような場合にも,相手方に守秘義務を負わせることは妥当でないからです。
規定例は以下のとおりです。
Notwithstanding the provisions of Article XX of this Agreement, the Confidential Information shall not include any information which falls into one or more of the followings:
(i) which was already known to the XXX at the time of disclosure;
(ii) which is or becomes accessible to the public through no fault of XXX;
(iii) which is obtained by XXX from a third party lawfully in possession thereof without restriction on disclosure or use; or
(iv) which is independently ascertained or developed by or for XXX without use of such Confidential Information.
・秘密保持義務からの除外事由
秘密保持義務を負うとしても,自社内での開示や,外部のコンサルタント等への開示はできるようにしておく必要があります。
規定例は以下のとおりです。
Notwithstanding the provisions of Article XX of this Agreement, XXX may disclose Confidential Information to its directors, officers, employees, attorneys, accountants, consultants, financial advisors and other representatives.
また,法律の規定により開示が求められる場合や,裁判所・行政機関等から開示が求められた場合に開示を認める条項も,自社が被開示者となりうる場合には設けておくべきでしょう。シンプルな規定例は以下のとおりです。
If XXX is required to disclose any of the Confidential Information of the other Party by government authorities or required by law, ordinance, rule, regulation or court order, XXX may so disclose such Confidential Information.
・期間
秘密保持義務を負う期間を何年と設定すべきかも,具体的取引に即してしっかり検討しましょう。当該契約における秘密情報は,何年で陳腐化するものなのかが一つの指標です。ノウハウや顧客情報といった重要な情報については,単に「契約終了後も秘密保持義務を負う。」とし,期限を区切らないことも考えられます。
☆契約書英語レッスン☆
今月は,契約書を作成する際に使える便利な表現をご紹介します。
・reasonable(合理的な)
例:「Xは,Yに対し,……に要するすべての費用を支払わなければならない。」などといった条項に,「reasonable」を付け足すことで,支払い義務の対象を「すべての『合理的な』費用」と限定することができ,相手方からの支払請求に対し,合理性を欠くことを理由に,反論することができるようになります。
・to the best of one’s knowledge(…の知る限り)
例:「Xは,Yに対し,……が~であることを保証する。」などといった条項に「to the best of one’s knowledge」を付け足すことで,「Xの知る限り,……が~であることを保証する」と保証の対象を狭めることができます。
・material(重要な)
例:「Xは,本契約に定められた義務を履行しなかった場合には……」などといった条項に,「material」を付け足すことで,「本契約に定められた重要な義務を履行しなかった場合には…」となり,相手方から義務違反による効果発生を主張された場合に,当該義務違反が重要な義務違反にあたらないことを理由に,反論することができるようになります。
さいごに
これまで,本稿も含め10回の連載を行ってきましたが,いかがでしたでしょうか。すべて通してみてくださった方もいれば,興味のある稿だけ見てくださった方もいらっしゃることと思います。どのような形であれ,一人でも多くの英文契約書初心者の方のお役に立てれば幸いです。See you again!
<プロフィール>
弁護士法人堂島法律事務所(東京事務所) 弁護士 瀧澤 渚氏
慶應義塾大学大学院法務研究科修了。2014年弁護士登録。外資法律事務所勤務の後、2016年より堂島法律事務所所属。企業法務・労務を中心に、英米法等の海外法務にも精通。