海外マーケティング支援を行っている合同会社トロの芳賀 淳です。
日本の事業者が貿易で使う通貨はやはり米ドルなのでしょうか?
財務省がほぼ半年ごとにその統計データを公表しています。毎年1月下旬と7月下旬に、それぞれ直前半年間の「貿易取引通貨別比率」(Share of Currency in Trade) を次のURLから閲覧することができます。
https://www.customs.go.jp/toukei/shinbun/tuukahappyou.html
この記事を執筆しているタイミングでは令和5年(2023年)後半のデータが最新ですが、皆さんがこの記事を読まれている時期にはデータが2024年前半版に更新されているはずです。関心ある方は是非ご自身でデータを調べてみましょう。
貿易は米ドル一辺倒ではない
出典:合同会社トロ資料
輸出入全般では米ドルと日本円
直前の円グラフによると、輸出か輸入かで取引通貨の比率が若干違うことがわかります。原油や天然ガスなどのエネルギー、鉄鉱石などの原材料、食料品、の多くを輸入に依存する日本にとっては、国際市場で価格が決まるこうした品目を米ドルで輸入せざるをえない状況におかれています。一方で輸出の場合は、車両、(工作)機械、(半導体など)電子部品、化学物質、鉄鋼、など日本が競争力を持つ品目が主体です。日本の売り手側交渉力が強まるので日本円での取引が多い、ということが背景にあります。
他通貨の中でも人民元(RMBという略称)の利用は数パーセントと微々たるものです。
輸出は日本円、米ドル、相手国通貨(VNはベトナムの略です)
日本円、米ドル、相手国通貨、が混在しています。日本の最大の貿易相手国・中国向けは日本円決済が最も多く、次が米ドル、人民元はかろうじて2桁パーセントです。米国向けは9割近くが米ドル(それでも日本円が10%以上あります)というのは理解できますね。台湾向けは米ドルと日本円が拮抗、韓国向けは日本円がトップ通貨、というのも新鮮な情報です。オーストラリアとドイツ向けは相手国通貨が半分以上を占めています。同じASEANの国であるにもかかわらず、自国通貨比率が15%以上のタイと1%未満のベトナムは、国際信用度が違うのかもしれません。
輸入はほぼ米ドルか日本円
輸入の場合、最も選ばれる通貨は米ドルか日本円です。輸入品は輸出品に比べてより汎用性の高い品目が多いので、米ドルが選ばれるのでしょうか。中国からの輸入では輸出と一変して圧倒的に米ドルが選ばれる、台湾およびオーストラリアからの輸入でも米ドルが圧倒的に強い、ということは品目がよりコモディティー化しているということと推察します。韓国とドイツからの輸入では日本円が一番選ばれる通貨です。買い手側の交渉力が通貨に現れているということのようです。ASEANの2か国からは米ドルでの輸入比率が一番高く、一方で相手国通貨での輸入はタイが17%、ベトナムが1%未満と、輸出と同様の傾向を見せています。
通貨によって金利が異なる(輸出は後払い、輸入は前払いの金利に注意)
決済通貨が違うということは、金利が違うということです。
輸出の場合は後払い(船積後の入金)、輸入の場合は前払い(船積前の支払い)、に注意します。例えば米ドルで輸出をする事業者が、船積後60日の決済を了解したとします。船積イコール売上計上から60日しないとお金が入ってこないので、その間の機会損失が発生します。仮に米ドル金利が6%とすると、60日の機会損失は365分の60、つまりほぼ1%に相当します。価格にこの金利相当分の1%を含めておかないと、実は損をしていることになります。輸入の場合は輸出の逆となるので、米ドル決済でこちらが前払いとなると、日数に応じて金利分の機会損失が発生します。
取引相手がきちんと決済する業者なのか、こちらの不利になるような決済条件を押し付けてこないか、事前に信用調査をきちんと行います。
まとめ
貿易で使われる通貨は米ドルだけではありません。日本円でも相手国通貨でも可能ですが、こちらの交渉力や貨物の汎用性によっては意に沿わないことになるかもしれません。高金利通貨で決済時期が船積みタイミングとずれる場合は金利負担に注意します。きちんと決済する取引相手かどうか事前に信用調査を行います。
【プロフィール】
合同会社トロ 代表社員 芳賀 淳(はが あつし)
大手総合電機、精密機械メーカーにてベトナム他での海外販路開拓や現地法人設立などの海外業務に携わった後、合同会社トロを設立。豊富な海外業務・貿易実務経験を活かしたコンサルティングや研修サービスを、民間企業およびジェトロや大阪商工会議所などの公的支援機関向けに提供している。これら機関向けセミナー実績も多数有する。
URL:https://sub.toro-llc.co.jp