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【国内回帰しますか?】円安だから海外生産工場を畳んで、日本国内に戻る選択肢は?

投稿日:

海外マーケティング支援を行っている合同会社トロの芳賀 淳です。

 

円安だから日本から輸出すると価格競争力がある。だから海外の生産拠点を畳んで日本国内に戻って来るのがよい。

150円台の円安が続いているせいか、製造業の国内回帰ということがしばしばメディアで取り上げられます。2020-22年には世界的なコロナ禍によるサプライチェーンの混乱、物流費高騰、ということを背景に、製造業の国内回帰が話題になることがありましたが、今は円安下での国内回帰論です。このような流れをどう考えればよいでしょうか?

 

 

国内回帰という世間の声で、悩む社長

 

出典:合同会社トロ資料

 

前提条件

  • 1ドル¥100と¥150で比較する
  • 物価や賃金の変動はない
  • 関税を含む税金、コンテナ運賃を含む輸送費を含まない
  • 商品の製造コストは、非日本原産の原材料25%、日本原産の原材料25%、管理費25%、利益25%、とする
  • 貿易で利用する通貨はドルとする
  • 1ドル¥100条件の日本製造コストを1万円、とする(基本形)
  • 1ドル¥100条件の日本製造コストを①とする
  • 1ドル¥100条件の海外製造コストを②とする
  • 1ドル¥150条件の日本製造コストを③とする
  • 1ドル¥150条件の海外製造コストを④とする

 

1.円安で高くなる要素

円安で高くなるものは日本への輸入品です。これは普段の買い物でも実感できますね。

為替レートが¥100から¥150に変動することによって、日本の工場が海外から購入する原材料の価格が上がります。25ドルの海外を原産とする原材料価格は、¥100ならば¥2,500、¥150ならば¥3,750です。¥1,250の増加(3,750-2,500)ということです。

イラスト③の非日本原産の原材料価格がこれに当たります。

 

 

出典:合同会社トロ資料

 

2.円安で安くなる要素

円安では日本からの輸出が外貨ベースで安くなります。

為替レートが¥100から¥150に変動することによって、海外の工場が日本から購入する原材料の価格が下がります。25ドルの日本を原産とする原材料価格は、¥100ならば25ドル、¥150ならば16.7ドルです。8.3ドルの減少(25-16.7)ということです。

イラスト④の日本原産の原材料価格がこれに当たります。

 

3.商品の製造コストはそれぞれどうなる?

1ドル¥100では日本での製造コストは¥10,000です(①)。ドル換算すると100ドルです。

¥150へ円安になることで日本での製造コストは¥11,250に上がります(③)。円貨換算ではコスト上昇していますが、ドル換算すると75ドルです(③)。

一方、¥150へ円安になることで海外での製造コストは91.7ドルに下がります(④)。

つまり①から④の製造コストを比較すると、¥100から¥150の円安下では、日本の円換算の製造コストは上がるもののドル換算では一番安くなる(③)、つまりコスト競争力がつく、ということになります。

円安だから製造拠点を国内回帰するのがよいという話の根拠は、このような経済計算によるものでしょう。

 

4.為替の上下で製造場所を変えますか?

為替の変動の程度や期間にもよりますが、円安ならば日本で生産する、円高ならば海外で生産する、のが経済的に妥当と言えます。

ただし、1ドル150円という円安がいつまで続くのか誰にも未来のことはわかりません。国内回帰を決定し海外の製造拠点を整理し始めた途端に、¥150から¥120を経て¥100の円高になった、というのでは笑い話です。また、日本での製造設備の準備や現場の人材教育を考えると、立ち上げまで時間と労力がかかることは明らかです。

重要なことは、海外の製造拠点からは海外の顧客向けに売るというパイプを太くすることです。この販売パイプならば円安や円高の影響はほとんどありません。日本の製造拠点はより高付加価値の商品を担当するような努力も欠かせません。

もちろん海外の顧客に関する調査をしっかり行うことを忘れてはいけません。海外の製造拠点が現地で調達する非日本の原材料サプライヤーに関しても、信用状況や事業内容を定期的に調べ、適切な納期で安定的な原材料供給を行える相手かどうかを確認しておきましょう。

 

 

まとめ

円安だから海外の製造拠点を畳んで日本国内に回帰する、ということは効果的な判断なのでしょうか? 経済計算では日本で生産したものの価格に一番競争力がありますが、製造設備や人材教育の時間軸を考えると最適な判断と言うのは難しそうです。海外の製造拠点からは海外の顧客向けを主に担当してもらうのがよさそうです。海外の取引先の信用状況や事業内容の調査も忘れずに行います。

 

【プロフィール】

合同会社トロ 代表社員 芳賀 淳(はが あつし)

 

大手総合電機、精密機械メーカーにてベトナム他での海外販路開拓や現地法人設立などの海外業務に携わった後、合同会社トロを設立。豊富な海外業務・貿易実務経験を活かしたコンサルティングや研修サービスを、民間企業およびジェトロや大阪商工会議所などの公的支援機関向けに提供している。これら機関向けセミナー実績も多数有する。

メール:info@toro-llc.co.jp

URL: https://haga-school.thinkific.com

 

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