海外マーケティング支援を行っている合同会社トロの芳賀 淳です。
「当社の製品は日本で作っているから日本原産です。」
もっともに聞こえますが、この理屈だけでは「日本原産」と認定されるには無理があります。
EPA/FTA毎に「xx原産と判定する理由」(原産地規則と言います)が決められているので、原産地規則に従って当該品目が日本原産なのか、EU原産なのか、xx原産なのか、を判定する作業が発生するのです。
具体的にベトナム産ハンドバッグ(HSコード420221)の事例で、「ベトナム原産」と言えるかどうかを見てみましょう。
▼目次
EPA/FTA毎に異なる原産地規則(PSR?この略語は何?)
1. 原産地規則をどうやって調べるの?
原産地規則ポータルに再登場願いましょう。とても役立つツールです。
http://www.customs.go.jp/roo/
http://www.customs.go.jp/roo/english/origin/index.htm ←同英語サイト
ここのホーム中ほどにある「ピックアップ」の欄で、「品目別原産地規則」>「品目別原産地規則の検索」を選びます。
日本が締結している全てのEPA/FTAと、それぞれが使用するHSコードの年度が出てきます。利用したいEPA/FTAを選びます。一番上の検索は最後にクリックするので、今少し我慢してください。
利用するEPA/FTAにチェックを入れたら、該当品目のHSコード6桁を品目の欄にインプットします。ハンドバッグは420221でしたね。
日本とベトナムが締結しているEPA/FTAは日アセアン(HS2002)、日ベトナム(HS2007)、TPP11(HS2012)、の3つあります。それぞれのEPA/FTAにおける日本の関税率が異なることは前々回で見たところですが、原産地規則ももしかしたら違うかもしれません。確認しましょう。
▼日アセアン
▼日ベトナム
▼TPP11
3つのEPA/FTAの赤丸の中に「品目別原産地規則/PSR」とあります。
PSRって何でしょう? また、日アセアン、日ベトナムのEPA/FTA共に、PSRの欄にはCCとあります。CCって何でしょう?
2. 原産地基準の種類
(英語ではRules of Origin。原産地がどこであるかを判断するものさし)
日本の税関に提出する「原産品申告明細書」(以下、明細書)http://www.customs.go.jp/kaisei/youshiki/form_C.htm(C-5293)にも登場する略語があるので、略語共に理解するようにしてください。
尚、以下に例として挙げた品目が必ず当該基準というわけではないので、EPA/FTA毎の基準をご自身で確認ください。
- 完全生産品(WO=Wholly Obtained=または明細書ではA)→ 例として、肉牛、バター、石油他の鉱物等
- 原産材料のみから生産される産品(PE=Produced Entirely=または明細書ではB)→ 例として、加工食料品(カップ麺、パスタ)等
- 実質的変更基準を満たした産品(PSR=Product Specific Rules=または明細書ではC) *非原産材料、つまり外国産原材料を使用していても、次の加工基準を国内で満たせば「原産性」が認められる、ということです。
① 関税分類変更基準(CTC=Change in Tariff Classification=または明細書では1)
→ 例として、多くの工業品(繊維製品、金属部品)等。CTCの中には更にCC、CTH、CTSHという下部レベルの変更基準あり
② 付加価値基準(VA=Value Added=または明細書では2)
→ 例として、多くの工業製品(自動車、電気機器)等。VAの中には更にRVC、MaxNOM等という下部レベルの基準あり
③ 加工工程基準(SP=Specific Process=または明細書では3)→ 例として、化学品、繊維製品等 - 補足的規定(詳細説明割愛)
① 累積(ACUまたは明細書ではD)
② 僅少の非原産材料(DMIまたは明細書ではE)
基準や略語も含め、詳しい説明は次の税関URLにて閲覧できます。
http://www.customs.go.jp/kyotsu/kokusai/seido_tetsuduki/pamphlet.pdf (初歩)http://www.customs.go.jp/roo/origin/epa.pdf (原産地規則マニュアル)
3.よく使う原産地基準(PSR)
前2項で主たる原産地基準を記載しました。この中で特に悩ましいのが「PSR」です。
冒頭のベトナム産ハンドバックの事例に戻って見てみましょう(CTC基準です)。同一のEPA/FTAであれば品目別規則は各国共通(同一の原産地規則)です。こちらの資料2ページ・4ページを参照ください。
http://www.kanzei.or.jp/nagoya/nagoya_files/20190128-2.pdf ←2ページ・4ページ
①CTC基準:
日アセアン、日ベトナム共に品目別原産地規則がCCとあります。CCとはChange in Chapter(上2桁変更、類変更とも言います)のことで、要するにハンドバッグを構成する個々の非原産材料のHSコード上2桁が変更されていること、つまりハンドバックのHSコード420221の上2桁「42」という番号以外のもので作られていることが条件となります。
主たる原材料の「原皮」「革」のHSコード上2桁は「41」なので、41→42に変更されていることが明らかです。ハンドバッグを構成する個々の部品についてもこうしたHSコード上2桁の変更確認作業を行うことが求められます。
CTC基準にはCC(上2桁)変更の他に、CTH(Change in Tariff Heading:上4桁変更、項変更とも言います)、CTSH(Change in Tariff Sub Heading:上6桁変更、号変更とも言います)の全3種類があります。
詳しくは2項の最後に引用した原産地規則マニュアルのURLを参照ください。
②VA基準:
付加価値基準は、ざっくり言えば次の数式で算定します。産品の価格とは通常FOB価格です(必ず個別EPA/FTAの規則を確認ください)。
(産品の価格 - 非原産材料の価格)÷(産品の価格)
この割合が40%以上なのか、45%以上なのか、という数値によって原産性を判定されます。
詳しくは2項の最後に引用した原産地規則マニュアルのURLを参照ください。
③SP基準:
加工工程では「どのような加工を施したか」が問われます。具体的には、工程を明記し、その工程を施したら「原産」と判定します。繊維分野では、何工程を施したかということが規定され、2工程あるいは3工程を施す必要もあります。
まとめ
EPA/FTAによって原産地規則が異なります。関税率の低さもさることながら、自社がクリアしやすい原産地規則を選ぶことも1つの選択肢です(日本と複数EPA/FTAを締結している国の場合)。
原産地規則を調べるには原産地規則ポータルを用いましょう。基準がWOなのか、PEなのか、PSRなのか、PSRならばCTC・VA・SPのいずれなのか、を確認します。基準に従って原産性を証明して行きます。
次回は、原産地規則の証明方法、具体的に根拠書類(特にCTCでの対比表とVAでの計算ワークシート)について説明します。
▼バックナンバー
第1回 【TPP11・日欧EPA/FTA】今までのEPA/FTAとここが違う!
第2回 【TPP11・日欧EPA/FTA】重要な第一歩「HSコード」
第3回 【TPP11・日欧EPA/FTA】どれくらい日本の輸入関税が下がるの?(日本への輸入編)
第4回 【TPP11・日欧EPA/FTA】どれくらい相手国の輸入関税が下がるの?(日本からの輸出編)
【プロフィール】
合同会社トロ 代表社員 芳賀 淳(はが あつし)
大手総合電機、精密機械メーカーにてベトナム他での海外販路開拓や現地法人設立などの海外業務に携わった後、合同会社トロを設立。豊富な海外業務・貿易実務経験を活かしたコンサルティングサービスを、ジェトロや中小機構などの公的支援機関および民間企業向けに提供している。
URL: https://sub.toro-llc.co.jp/