▼目次
欧州の移民受け入れの歴史
東西冷戦以降、東欧から英国への移民が急速に増加しました。
トルコからドイツ、さらに北アフリカからフランスへの移住は長年続き、既に2世・3世・4世の時代となっています。
多民族国家化するフランスでは、ハンガリー移民2世であるサルコジ氏が大統領に就任した例もあります。
つまり欧州では、ひとつの社会に「多文化主義」が定着しているのです。
不法移民問題に悩むイタリア
ところが近年、過激派組織などによる政情不安定から、アフリカのソマリア・シリア等からの不法移民が増加しています。
EUへの亡命申請者数は年間約60万人にのぼり、欧州の政治・社会上の問題となっています。
特にイタリアは、欧州域内ではアフリカに近いことから、最大の受け入れ国となっています。
周辺国は受け入れに消極的なため、イタリアが不法移民を抱え込む状態になっている状態です。
(一部は本国への強制送還の措置が取られています。)
イタリアの移民問題の特徴
既に人口の1割を移民が占めると言われているイタリア。同国の移民問題の大きな特徴として次の3点があります。
「受け入れ国」としての歴史の浅さ
イタリアは19~20世紀までヨーロッパ最大の「送り出し国」側でした。
そのためドイツ・フランス・英国よりは移民受け入れの歴史が浅く、慣れていないといえます。
地理的問題
十分な国境管理ができないため、対岸のアフリカから不法移民が殺到する事態を許してしまいます。
マフィアの存在
組織犯罪集団であるマフィアは、不法移民斡旋を裏ビジネスとして行っているといわれます。
移住希望者が犠牲となった密航船の事故
続いてロードス島沖でも、トルコからギリシャへ向かった密航船が座礁。100人が溺れ3人が死亡しました。
しかし実際にはどの国も受け入れには及び腰で、今後の対策の行方は不透明な状況です。
今後EU市民意識は広がるか
具体的に生じている問題、期待される経済効果の実際について見てみましょう。
各国のパリ新聞社襲撃テロへの反応
2015年2月パリ、宗教風刺画を掲載した新聞社が、イスラム圏からの移民系と思われる男に襲撃される事件が起こりました。
この事件を皮切りにフランスはイスラム過激派テロへの警戒を高め、ドイツでは移民反対のデモも活発化しています。
問題を巡り、欧州は大きく割れる状態が続くことになるでしょう。
「ヒト」の自由移動によるメリットを享受できるか
また労働力の自由な移動による経済効果も、全く理論どおりに進むわけではないようです。
欧州域内ではシェンゲン協定により、検査なしで国境を越える「ヒト」=すなわち労働力の移動が可能です。
とはいえカネやモノと違いヒトには、「言語の問題」や「熟練技術の有無」といった制約があります。
ですから、労働力が「経済的に不調な地域(低賃金)」から「経済的に好調な地域(高賃金)」へ流れ、経済を効率化させるとは断定できません。
以上のような理由から、EU域内の5億人による「EU市民意識」(=共通の意識・価値観)が醸成されるか否かはむずかしいところです。
おわりに
その歴史的背景から、もともと欧州には多様な価値感を受容する「多文化主義」の素地があるといえます 。
しかし現代における問題発生や、反移民感情の表象といえるような事件を見ると、「EU市民意識」の醸成に向けた道のりは、なかなか険しいように思えます。
●コラム筆者プロフィール●
名前:テムジン
リスクマネジメント界のチンギス・ハンです。
一言:迷える子羊たちに、世界各国のカントリーリスクを 分かりやすく説明します。 |