中台関係において「ひとつの中国」を巡る解釈が大きく異なり、政治面では一進一退の状況が続いていることを前回お話しましたが、経済面においては1980年代より安定的に交流が進んでいます。
中国経済は過去30年余り2桁に及ぶ高度成長を遂げ世界で第2位の経済力を有する国になりました。その過程で日本、韓国、香港など周辺国・地域は中国への経済依存度を高めてきました。台湾もその例外ではなく、今や中台両岸(=両国)にとり相手国は経済パートナーとして欠かせぬ存在になったと言っても良いでしょう。
それでは東アジアシリーズの連載第2回目として、中台経済の交流の実情を眺め、そしてその将来について考えてみることにしましょう。
▼目次
経済交流が支える中台関係
人口13億人を超える中国と人口2,300万人の台湾の経済を比較すると、1人当たりGDP(USドルベース)では中国の7,500ドルに対し台湾が22,000ドルと大幅に上回っています。しかし、全体の経済規模では中国が台湾の約20倍と大きく上回り、また周辺国への影響を高めている点が特筆されます。
中国の輸出額に占める台湾向けは全体の1.9%に止まっていますが、台湾の対中輸出(含む香港)は液晶パネルなど電子部品などを中心に40%に達しています。また輸入についても約20%に達するなど台湾の貿易は中国頼りであることが明らかです。
このように台湾企業は部材を人件費の安い中国の工場で生産・加工し、輸出するビジネスモデルを作り上げて成長してきたのです。その結果、今や9万社を超える台湾企業が大陸に進出しているとされています。
一方、中国も台湾企業の中国投資を奨励し雇用拡大につなげてきました。実際、電子機器の生産で世界最大手である鴻海精密工業(ホンハイ)は中国で100万人前後の従業員を抱えています。従って経済減速に直面する中国にとっては、台湾の投資への期待は今後一層高まることになるでしょう。
これら中台ビジネスの発展と成熟化はまさに08年に馬総統が就任以来進めてきた中台の実質的な自由貿易協定(FTA)である経済協力枠組み協定(ECFA)締結など中台経済交流の成果と言ってよいでしょう。このように経済交流が両国にWIN-WINの関係をもたらしている現状から、今後もこの流れに大きな変化はないと考えてよいでしょう。
野党・民進党による政権交代、「一つの中国」原則はどうなる?
先日の首脳会談において習主席は、台湾独立は両岸の平和と発展を損なうとし、さらにひとつの中国の原則を正視さえすれば台湾のどの党とでも交流できる、と台湾独立を志向する民進党との対話の余地を残す発言をしました。
馬総統の任期は2016年5月で終了します。それに先立ち2016年1月に行われた台湾総統選では台湾独立志向を堅持する野党・民進党の蔡英文氏が大勝したことは記憶に新しいところです。
この民進党の蔡主席は、中国との首脳会談や国民党の中国への接近を批判しており「一つの中国」の原則を認めていないと言われています。従って民進党への政権移行完了後、中台関係の先行きが再び不透明になる可能性が高まることが懸念されます。
一方、国民感情を見れば、国民党とともに台湾に渡った人々(外省人)の2世、3世世代は中国への親近感を強く持っています。しかし分断後66年が経過した現在では自らを中国人というよりも台湾人だと思う人が増えているのも事実です。最近の世論調査では、自分を「台湾人」だと思う人が60%におよび、「中国人」だと思う人(3%)を大きく引き離しているのです。
今後の中台関係は経済的にはより関係が深まると思われます。しかし政治的には分断されて長い年月を経過しており、台湾独立の意識が強まるに連れ政治的な統合への具体化は進みづらくなるのではないでしょうか。
まとめ
60年2世代を過ぎると当時の関係者が少なくなり、その事件は「歴史」になると言われることがあります。この言葉に従えば、すでに分断後66年を経過した今、外省人など大陸への思いを強く持つ人々よりも台湾人として固有の独立意識を持った人が増えるのも当然の成り行きでしょう。
このような状況から、今後、中台間において政治的には現状維持を黙認しつつ経済的な交流が進むシナリオが有力ではないでしょうか。