「経済優先」のコロナ対策方針
インドで日本企業の進出支援を行っている公認会計士の野瀬大樹です。
年が明けてからインドのコロナ患者は増加に転じ、3月末時点の一日当たりの新規患者は6万人を超え続けています。一時は収まるかに見えたインドにおけるコロナ禍が、第二波に入ったことの証左となります。
しかし、日本と異なりインド政府のコロナに対する方針は完全に「経済優先」です。4月1日からは学校も再開され、マスクの装着が義務付けられている以外は市民生活はほぼ日常通りと言えます。
これは広大な高度と多様性のある膨大な人口を抱えているインドにおいて、日本のような統制は不可能と判断し、ワクチンの接種とあわせてゆるゆると集団免疫獲得を狙う作戦なのかなと思いますし、私もこの政府判断は賢明で正しいと思います。
ではそんな経済優先に舵を切っているインド、どのような産業が恩恵を受けているのでしょうか。
製造業
今インドで勢いを取り戻しているのは製造業です。特に四輪二輪の回復は目覚ましく、昨年8月の時点ではすでに前年同月以上の売上を記録しています。「対面」ではないことも理由の一つですが、そもそもインド政府が有利な税制改正を行うなど自国内での製造業を振興していたこともあり、新しい工場がコロナ禍でもどんどん稼働を始めています。
他にインド政府念願の国内携帯電話製造工場も勢いがあり、サムソンや鴻海の新工場が動きだしました。外資呼び込みの競合相手であった中国やミャンマーが先進国から制裁を受けそうな情勢もインドにとっては追い風になっています。
Eコマース
日本と同じように、アマゾンやフリップカートなどのEコマースビジネスも活況を呈しています。インドでは従来よりEコマースのビジネスが伸び続けていましたが、その勢いはコロナ禍をチャンスとして売上を伸ばし続けています。
コロナ前までは、特に外資であるアマゾンはインドの小規模小売業を苦しめるものとして反対デモなどもありましたが、そんな世論もコロナにより吹っ飛んだ形となります。
加えて、ウーバーイーツやゾマトなどのフードデリバリーサービスもその売上を伸ばし続けています。こちらもEコマース同様コロナ前からの成長産業でしたが、コロナによりその勢いはさらに増す形になりました。
製薬業界、ヘルスケア業界
サニタイザーなどの消毒液が大きく売上を伸ばしています。従来日本と比較しても決して衛生観念が高いとは言えなかったインドですが、コロナを機会として家庭やオフィスでの手洗い、消毒が徹底されるようになりました。
またこれを機会として、健康に意識を向ける富裕層も増えており、サプリメントや健康食品は需要が高まっています。
加えてインドは国内で生産されているアストラゼネカ社のワクチンの接種にも踏み切っており、これが成功裏に終わると製薬業界の売上全体をかなり押し上げると言われています。そもそも人口が膨大ですし、緊張が絶えない中国に対抗してか周辺国へのいわゆる「ワクチン外交」も始めていますので、このあたりも今後需要が増えることはあっても減ることはなさそうです。
まとめ
・インドのコロナは第2波に突入も、経済活動は通常のまま
・製造業、Eコマース、製薬を中心に急激な回復をみせている
・今後の動向は「ワクチン次第」だが、国全体で経済が勢いを取り戻すのはまだ先になる
【プロフィール】
野瀬 大樹(のせ ひろき) 公認会計士・税理士
大手監査法人勤務の後、NAC国際会計グループに参画、インドのニューデリーにて主に日系企業をサポートするコンサルティング会社NAC Nose India Pvt. Ltd.を設立し、同代表に就任。インド各地にて、会計・税務・給与計算に加え、各種管理業務に関わるコンサルティングサービスを提供している。
事務所HP:http://in.nacglobal.net/