前回は基礎として、債権保全の重要性や契約書による債権保全等についてご説明しました。今回は、決済手段の工夫による債権保全策について解説致します。
債権回収について最も重要なことは、なるべく確実性(回収可能性)の高い決済手段とすべく取引先と交渉することです。決済手段を一度決めてしまうと変更することは容易でないので、安易な妥協は避けなければなりません。
もっとも、全ての支払を前金決済に出来るのであればそもそも「債権保全」の問題は発生しません。しかし実際には、取引に至った経緯や過去の取引履歴、取引先(または自社)の信用力などを総合的に勘案し決定されることになりますので、リスクのある決済手段を選択する場面も当然あるでしょう。
このような場合でも、決済手段を工夫することにより債権の質を高め、結果として、債権保全に役立てることが可能です。
▼目次
手形・小切手による決済
オープン・アカウント(単なる売掛金)とするのではなく、手形等を取り付けることにより期日通りの支払を促進することができます。一般の国では、通常、手形・小切手法があり、手形・小切手交換所(Clearing House)で決済されています。
日本や韓国のように手形の不渡りで銀行取引停止処分になったり、アジアの一部の国では、小切手が不渡りになると振出人が刑事罰に処せられることもあります。このような国では、手形・小切手による決済とすることで取引先の支払の優先順位が上がり、債権保全に役立つと言えるでしょう。
一方で、米国など約束手形が一般の商取引に使われない国の場合には、その代わりに数ヶ月後を振出期日とした先日付小切手を取付けることが一般の商慣習とされています。
Local L/C(国内信用状)決済
海外地場取引において、債権保全の実効性を上げるために、地場銀行発行によるLocal L/Cを決済条件とする方法があります。貿易等で利用されるL/C(信用状)同様に、L/C開設費用がかかるので債務者が抵抗を示すことが多いですが、与信上不安の大きい先との取引において、確実な債権回収手段として一考の余地があります。
なお、この場合には、Local L/Cを発行する地場銀行が、取引先の信用力を補完することになりますので、地場銀行自体が信用できる先であるかどうかの見極めが重要となります。
異常に長期な決済期間に注意
その業界・商売における一般的・通例的な決済期間を大きく超える場合は、特に注意が必要です。一般的には、売り先が与える決済期間(ユーザンス)は、相手先のAsset Conversion Cycle(※)が目安となります。
(※)取引先の原材料購入から製造、販売、売上債権回収までにかかる期間のこと
買商内の開始・増額と相殺
相手先の商品を購入することが可能であれば、買商内を行い、反対債権を増やすことで、相殺による回収可能性を常に検討しておくことも有効でしょう。
ただし、中国など実務上相殺が困難な国もありますので、現地の商習慣等の事前確認は必要です。
まとめ
決済方法は、債権保全のキホン中の基本かつ最も大切な要素です。国内の常識に囚われず、各国の事情にあった最適な決済方法を選択するように心がけましょう。