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ASEANシリーズ【第3回】ASEANの中核国、タイ

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ASEAN最大の工業国タイは、1980年代から97年のアジア通貨危機に至るまで、外国資本の流入を促進させ高度な経済成長を達成してきました。アジア通貨危機で一旦停滞したものの、IMFの管理下において経済再建を進め、東南アジアの輸出センターとして経済再生を果たしました。

東南アジア域内においては、経済規模こそインドネシアには及びませんが、電力などのインフラ環境や、労働者の熟練度等の点においては一日の長があるようです。その結果、日本の自動車関連産業をはじめとし、海外からの工場進出が目覚ましく、タイの成長を支える所となっています。

しかし、この経済発展は、恩恵を享受する都市部のエリート層(反タクシン派)と恩恵を受けられない農村部の貧困層(タクシン派)の激しい対立を招き、政治の不安定化をもたらしています。

現在のプラユット政権は、2014年のインラック元首相の失職後、軍OBにより樹立されました。欧米などはプラユット政権に対し距離を置く一方、中国が関係強化を図るなど、政治的に不安定な状況となっています。

それでは、連載第3回目の今回は、経済成長の果実の配分を巡り、混迷を深めるタイの現状と変遷について、政治情勢を踏まえながら見ていきましょう。

前回記事はこちら

 

▼目次

アジア通貨危機を乗り越え、目覚ましい経済成長を実現

第二次世界大戦後、ベトナム、カンボジア、ラオスが共産化する中、タイは「共産主義の防波堤」として西側諸国の支援を受けてきました。その結果、経済・社会のインフラ整備が進み、その後の工業化に向けての土台が築き上げられたのです。

投資に値する土台を築き上げたタイは、80年代半ばから97年のアジア通貨危機までの間の固定相場制度下において、金利をやや高めの水準に設定する事により、海外からの投資マネーの取り込みに成功し、2桁近い高度成長を実現しました。

しかしその後、低い人件費を求めた外国企業が、タイから中国へ進出先のシフトを進みました。さらに、95年以降、アメリカによる「強いドル政策」が採られた結果、世界的にドル高が進み、ドルペッグ制(ドルと自国通貨を連動させる政策)を採用していたアジアの通貨価値も高くなりました。その結果、輸出が鈍化し、景気の減速、経常収支の悪化を招いたのです。そこに、アジアの通貨価値が実態より高いと判断したヘッジファンドが、タイの通貨であるバーツの空売りを仕掛けた結果、通貨価値は暴落。タイ経済は破綻したのです。

その後、タイで始まった通貨危機は、韓国やインドネシアなどにも飛び火。この一連の出来事は、「アジア通貨危機」と呼ばれ、アジアへの進出企業に、「カントリーリスク」の重要性を認識させる大きなきっかけとなりました。

タイでは一旦外貨が底をつき、経済はマイナス成長に転落。しかし、その後の為替の変動相場制への移行や、外貨準備高の増加などによる通貨の安定化策を導入した結果、輸出が増加し、再び回復基調への転換が図られたのです。さらに、厚みを増した中間層による消費が経済を牽引した結果、一人当たりGDP6000ドルを伺うまでの経済発展をなしとげたのです。

 

赤シャツと黄シャツの対立

経済回復の結果、個人所得の増加も実現したタイですが、経済成長の果実は均等に分けられる事なく、経済成長の恩恵を受けられない層と受けられる層が出現しました。それぞれの層は、「赤シャツ」グループ、「黄シャツ」グループと呼ばれ、2001年にタクシン元首相が政権を握って以来、この2グループ間での対立が続いています。

「赤シャツ」グループは、「タクシン派」です。そのタクシン派が支持するタクシン元首相は、田中角栄に似た政治家と言われています。その政治手法は、既存権益層に切りこみ、バラマキ政策を行う事により、農村部・貧困層の圧倒的な支持を得るというものです。

そのタクシン元首相自身は、脱税などの罪により追放され、目下亡命しています。2011年、妹・インラックが政権を樹立し、恩赦によりタクシン元首相の帰国を画策してきたと言われています。

一方、対立する勢力は「黄シャツ」グループです。この反タクシン派は、都市部・エリート層を中心とした、軍部・官僚を支持する既得権益層ということになります。

これらの対立構造は、米国や中国をはじめ、各国で議論されている格差問題の一部をなしていると言えるでしょう。この問題の解決は難しく、またどちらの政治勢力に正統性があるとは断定できないために、政治的混迷の度合いが深まっているのです。

ASEANの中心に位置し、成長を続けるタイでは、成長の果実の配分における争いの激化は必至です。政治を巡る混迷は深まっており、今後、この争いの激化が、同国の屋台骨を揺らす事も十分考えられることでしょう。

 

まとめ

日本からタイへの進出企業は、トヨタ、日産などの自動車企業を筆頭に数千社に及ぶと言われています。電力などのインフラが整備されている事、また熟練労働者が豊富な事が、生産拠点としてのタイの魅力を最大化させていると言えるでしょう。

2011年にバンコク近郊が洪水による被害を受けた際には、日本のサプライチェーンが寸断されました。今やタイが直面する生産環境や政治環境面でのリスクは、日本経済を直撃する点で大きなリスクになったと言っても過言ではありません。現在のタイの最大の貿易相手国が中国であり、その中国の景気減速が深刻である事を考えると、なおさらかもしれません。

タイの政治・経済両面における状況変化には、最大の注意を払う必要があるでしょう。

 

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