8年間続いた民主党オバマ政権から共和党政権に移行するのか?
それとも、ヒラリー・クリントンが初の女性大統領となり、
民主党が3期連続で政権を維持するのか?
2016年11月に行われる大統領選に向けて、共和・民主両党で長い予備選が始まりました。
共和党の最有力候補者は父と兄が大統領を務めたジェブ・ブッシュ元カリフォルニア知事であり、
「クリントン王朝かブッシュ王朝のどちらかが再興されるのではないか」
という点も注目されるところです。
大統領選をめぐって「王朝」や「世襲」といった言葉が飛び交うことに象徴されるように、かつて「機会の平等」を誇っていたはずの米国で、いま、階級の固定化が進んでいます。
第2回は、大統領選を展望しながら、米国社会の変質について考えてみましょう。
▼目次
世襲候補の対決~クリントン王朝かブッシュ王朝の再興か
大統領の指名争いが共和党で始まり、いよいよ米大統領選がスタートしました。
今後さまざまな候補が現れては消えて行きますが、共和党は穏健派のジェブ・ブッシュを中心に動く見込みです。
これまで共和党は「保守」「小さな政府」「減税」そして「(外交面における)不介入主義」を掲げてきました。しかし、現在の国際政治情勢からすれば「不介入主義」を貫くのは難しく、この点は党内でも意見が分かれることでしょう。
一方、民主党からは、圧倒的な知名度を持つヒラリー・クリントンが出馬を表明しました。ヒラリー・クリントンは、1992年からファーストレディーとしてホワイトハウス入りした経験に加え、上院議員、国務長官を歴任し、米国における女性の政治参加の象徴とも言える人物です。
「初の女性大統領」誕生への期待が高まる一方で、有権者はビル・クリントンから続くクリントン家の存在感に「クリントン疲れ」があるとも言われています。
ヒラリー・クリントンは、収入や教育の不平等を訴え、労働者階級や中間層に配慮した政策を打ち出しています。その戦略は功を奏するのでしょうか。
果たして、クリントン王朝・ブッシュ王朝のどちらが再興され、米国社会の階級化が表面化するのか。
それとも、第3の顔が登場するのか。
1年3か月に及ぶ長丁場はこれから続きます。
米国における政党支持基盤と人口構成の変化
現在、米国の人口は3億人程度(世界3位)で、2050年には4億人にまで増加すると見込まれています。
人口が減少する日本や停滞する欧州とは異なり、今世紀半ばにおいてもトップ10に入っていると予想されており、世界の政治・経済両分野で相当程度の影響力を持ち続けることでしょう。
ただし、人口増加の傾向が続く一方で、「人口構成」は大きく変化しています。
1980年代は白人が総人口の85%を占めていたのですが、ヒスパニック系やアジア系の移民の増加により、現在は70%に低下していると言われています。
特に、マイノリティ(少数派)の中でヒスパニック系は既に黒人を抜いたとされています。
このような状況の中、移民制度改革について議論が行われています。
不法移民の合法化に道を開くなど移民に対して寛容な政策をとる民主党と、反対を唱える共和党との間で、移民制度改革をめぐる議論は今後白熱してゆくことでしょう。
ちなみに、一年間の出生者数は出生率の高い非白人が白人を抜きました。
2040年には非白人の人口が白人を追い抜くこととなり、将来的には白人を圧倒的な支持基盤とする共和党から大統領が出にくくなることが予想されています。
「機会の平等」と「結果の平等」、どちらを目指すべきか
かつてフランクリン・ルーズベルト元大統領は「平等社会」を唱え、その社会こそ米国の特徴とも言われてきました。つまり、誰もが「機会の平等」のもとでアメリカンドリームを実現するチャンスがあるとされたのです。
しかし、格差の定着によって社会は変質してきました。
実際、米国の有名大学の卒業生の大半は社会経済的に地位の高い富裕な家庭の出身者で固定化されつつあるように、「機会の平等」が失われつつあるのも事実と言えるでしょう。
「平等社会」のあり方をめぐっては、民主・共和両党の主張が分かれるところです。
たとえば、民主党オバマ大統領が推進した「医療保険制度改革」は、人種差別問題の解決への大きな一歩だと評価する声がある一方、「結果の平等」を追求するあまり「機会の平等」を失うものとして共和党が批判するところとなっています。
用語解説:医療保険制度改革 オバマ大統領が推進する国民皆保険制度の取り組み。 もともと米国では国民皆保険制度が実現されておらず、個人負担で民間医療保険に加入する。 したがって、国民の15%、約4千万人が貧困の為に医療を受けられない実情があり、同改革が行われた。オバマ大統領の第一期における最大の実績とされる。 |
まとめ
民主・共和党の両党が互いのイデオロギーを主張するなか、その境界を越え、大統領選をめぐってどちらの党においても「世襲」が話題となっているところに「階級の固定化」が進む米国社会の本質が見え隠れしています。
また、米国における人口構成の変化と「移民制度」に対する両党のスタンス、そして「平等社会」のあり方に関する議論は、大統領選の結果に影響を与えうるポイントといえるかもしれません。
いずれにしろ、大統領選は内政・外交・社会など米国が直面するすべての問題について候補者の考えが白日の下に晒されることとなり、米国社会の実態を知る上で最善のケーススタディーといえるでしょう。
●コラム筆者プロフィール●
名前:テムジン
リスクマネジメント界のチンギス・ハンです。
一言:迷える子羊たちに、世界各国のカントリーリスクを 分かりやすく説明します。 |