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仮想通貨は詐欺か革命か ―デジタル通貨の将来性についての考察―

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仮想通貨NEMの流出事件から1年が経った。その被害金額の大きさに世の中は驚くとともに仮想通貨そのものへの疑念を深めた。一方1,000を超える仮想通貨の代表格であるビットコインは過去を振り返ると20倍ほど上昇したあと半値以下に急落するなどその乱高下ぶりが話題となった。つまり、その不祥事や投機性ばかりが注目を集めていることから「仮想通貨」はうさん臭く見られており、そのイメージはいたって悪い。

しかし日進月歩のITと従来の通貨の概念を融合させた「通貨」が誕生したことは確かであり、その成長性について過小評価されているのは否めない事実だ。仮想通貨が導入されてすでに10年が経過し、その「通貨」としての将来性についての議論が広がりつつあるのも確かである。実際仮想通貨が最も普及している日本ではメガバンクがデジタル通貨発行の計画を進め、G20でも「マネーロンダリング」への規制が中心ではあるものの議題として取り上げられ、さらに各国中央銀行も新たな法定通貨として「デジタル通貨」の導入の検討を本格化させている。

ついては以下に、新たな法定通貨としての将来性を有している仮想通貨の実体を整理して、仮想通貨がもたらしつつある革命の足音について探ることにしたい。

▼目次

ブロックチェーンとは

そもそも仮想通貨の誕生を可能にした基本的なIT技術こそが「ブロックチェーン」である。その内容については野口悠紀雄氏の「ブロックチェーン革命―分散自立型社会の出現」などに詳しい。そもそもブロックチェーンとは「電子的な情報を記録する新しい仕組みで、管理者を必要とせず、記録が改ざんできない」総勘定元帳ということだ。従来の総勘定元帳と言えば中央銀行など絶対的存在としての主体が全取引データを管理するものであり、その絶対性に対して人々が信頼することを前提とし、そして金融システムの根幹と位置付けられるものだ。

それに対して「ブロックチェーン」を司る者は、絶対的な唯一の存在というこれまでの定義から一転し、多くの人々がインターネットで自由に新たな取引を書き込んでは共有するものである。つまりそれは逆転の発想であり、一人ではなく皆でそのデータを共同管理し運営しようというものである。このこれまでの常識を破った基本概念とシステムこそがこれまで中央銀行の下で発行されてきた法定通貨に代わるべき「仮想通貨」を誕生させたのであり、その将来性を予見させるのである。

ただ中央銀行という一人の絶対的存在が管理するものと信じて疑わなかった法定通貨が皆で管理するというこの逆転の発想は、にわかに人々に信じられないのはやむを得ず、目下議論が巻き起こっているのである。したがって米大手銀行のトップが「ビットコインは詐欺だ」と主張している一方で、「ブロックチェーンは革命」だと言う人もいるなど現状はその価値を巡り喧々囂々となっているのだ。

ただ「詐欺」と「革命」のどちらかについては歴史が証明することになるが、その結果が分かるまでにも時間がかかることは明らかである。したがってそれを早めに予測しようとするのも合理的行動でもあると言え、それを行うのが本稿の目的である。

かつてライト兄弟が空を飛ぶ実験を始めた際に人々から冷笑され、実験が成功したとの報道も一笑に付されたように「詐欺」と「革命」の違いを認識する作業は難しい。また1789年7月14日にフランスのバスチーユ牢獄で起きた暴動に際して、この暴動は反乱かと尋ねたルイ16世に対して「これは反乱ではありませぬ、革命です」とリアンクール侯爵が言ったように、今置かれた状況を的確に判断することは重要である。このような故事が教えるように「詐欺」か「革命」か、その真実を極力早く見極めることは肝要である。

法定通貨としての条件

それでは現在の仮想通貨の可能性について考えてみる。そもそも仮想通貨は円や米ドルなどの法定通貨を脅かすような「通貨」となりうるのだろうか。これまで通貨の歴史を振り返ると貝殻などが商品貨幣の端緒とされ、そして5000年前のメソポタミアにおいて金や銀などの金属貨幣が使われていたとの記録が残されている。そしてローマなどでは金貨・銀貨など鋳造貨幣が一般化し、さらに17世紀に中央銀行が発足して紙幣が発行され現代の金融制度へつながってきた。そして貨幣は一定の通貨量が調整されてその価値が維持され人々が国・中央銀行を信用することで一般化し、利用されてきたのである。そしていままさにITの発展にそってデジタル通貨つまり仮想通貨が出現したのも必然と言えよう。

そもそも通貨はその3機能として①一般的交換手段、②価値の尺度、③価値の保蔵手段が必要条件と考えられてきた。換言すればこの3機能を備えていなければ「通貨」として認識されにくいということである。例えば荒い値動きを続けているビットコインがこれらの機能を十分に備えているとは言い難いのは事実だ。とくに現状は創業者利益を得ようと発足間もないこの時期に値上がりメリットを取得しようとする行動が積極化している。したがってその投機性ばかりが注目されるが、一定期間を経過すれば投機性が薄れ逆に利便性が注目されるようになり、価格の安定さらに価値の尺度や保蔵手段としての機能性を高めて行くのではないだろうか。

中央銀行によるデジタル革命

現在「仮想通貨」と「デジタル通貨」と言った用語を耳にする機会が多い。この用語の定義があいまいでまた混同されている。「仮想通貨」は「私的なデジタル通貨」と言えるだろう。つまりビットコインに代表されるこれらの「通貨」には公的な裏付けはなく、現在流通している法定通貨との交換レートは大きく乱高下しており、これが将来法定通貨の代わりになるまでの道のりは遠い。

一方「公的なデジタル通貨」については、現在多くの中央銀行で発行が検討されているもので、発行主体は中央銀行で公的な裏付けがあり、交換レートも現金と1対1になる見込みだ。そしてその実験は徐々に進んでいるのが実情だ。その代表がスウェ―デン中銀の「eクローナ」の発行計画、カナダ中銀の「CADコイン」や「シンガポールドル」の実証実験、そしてウルグアイ中銀による「eペソ」の試験運用などが挙げられる。

このように中央銀行の公的デジタル通貨の発行は金融政策の効率化や国民の利便性の高まりがもたらされると期待される。特に日本で100兆円も流通し一般化した紙幣・硬貨の使用になれた国民に一時的に混乱をもたらすとしても、その利便性の大きさは容易に想像がつく。特に電子マネーはじめとするフィンテックの進化と利便性に慣れてきた現代人にとってはその混乱は限定的であり、十分に対応する可能性は高いと考えてよさそうだ。

そうなると中央銀行による公的デジタル通貨の実現性は案外早そうにも見える。つまり問題は今後も種類を増やして行くに違いない私的なデジタル通貨である「仮想通貨」の行方である。果たして仮想通貨の運命はどうなるのか。生存競争が繰り返されて自然淘汰されつつも進化し、公的デジタル通貨の補助的な存在として通貨への道を歩んで行くことになるのではないだろうか。

仮想通貨先進国の日本で起きること

仮想通貨は投機目的が主体であるものの少しづつ広がりつつある。その中でも流通量の半ば程度を占め、仮想通貨大国と言われるのが日本である。従来取引量が最大とされてきたのは中国だが、人民元を仮想通貨へ交換して海外への資産移動が行われるのではないかと懸念されて取引所が禁止された。一方日本では2017年4月に改正資金決済法で取引所への登録が義務付けられたが、これが逆に仮想通貨を国が公認するところとなった面もあり、その後の急速な取引量の拡大がもたらされたのである。その結果取引業者が一気に増加し、トラブルが発生するなど金融管理・規制が追い付いていないのが明らかとなった。とはいえ三菱UFJ銀行が2018年度中に独自のコインを発行する計画を有しているようにさらに仮想通貨は一般化して行くことになるのだろう。

ただ目下のビットコインに代表される仮想通貨人気は一攫千金を狙う人々によるもので、真の「革命」を理解し支持する人々の集団によるものではないだろう。現状ブロックチェーン革命が進み、仮想通貨が世界で市民権を得るに至るのではないか。それはまさに20年前に経験したインターネット革命に続く革命と考えるのが妥当ではないだろうか。

このような激変する環境において、決済システムに携わってきた日銀OBたち、特に京都大学の岩下信行、麗澤大学の中島真志、早稲田大学の岩村充など各教授や前述の野口氏など専門家の発言のフォローをお勧めしておきたい。

【プロフィール】
ネクスト経済研究所代表 国際金融アナリスト 斎藤 洋二氏

大手銀行、生命保険会社にて、長きに渡り為替、債券、株式など資産運用に携割った後、ネクスト経済研究所を設立。対外的には(財)国際金融情報センターにて経済調査ODA業務に従事し、関税外国為替等審議会委員を歴任した。現在、ロイター通信のコラムを執筆、好評を博している。

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