コロナ禍のインド経済対策
インドで日本企業の進出支援を行っている公認会計士の野瀬大樹です。
前回はコロナ禍におけるインド政府の経済支援策のうち、個人に対するものを解説しました。今回は同じ経済支援策のうち法人や事業体に対する代表的なものについて触れたいと思います。
1.法人税納税の猶予
こちらは個人と同様、法人についても申告期限の延期ひいては納税の延期が可能となりました。従来は前年4月から3月までの儲けについて9月末までに納税するのが原則ですがこちらも個人同様12月末まで期限が延期になりました。
ただこちらもインドで多くを占めるサービス業の場合はむしろ「早く還付がほしい」と思っている業種が多かったため、従来通りのスケジュールで申告をする企業が多かったようです。一方政府もこういった還付が生じる中小企業への速やかな還付を行う旨も表明しており、コロナ禍のしわ寄せが来やすい中小企業への配慮をのぞかせました。
2.源泉税率の25%低減
非常に複雑で有名なインドの源泉徴収制度ですが、この源泉税の税率について給与以外に関してはその料率を1年間25%低減させるという方針を表明しました。例えば、従来は100の売上に対して10%の10の源泉税が生じ結果として90だけが入金され、残りの10については税務申告後の還付まで待つというスタイルだった企業にも、源泉税の税率を10%から25%減の7.5%にすることで92.5が入金されるようになりました。最終的な税額には影響がないものの、当座の手元キャッシュが増えるため、私は正直賢い方策だなと思いました。ただ、私のように源泉税の計算などをアドバイスする立場の人間の場合、その手続きや計算で混乱することが多かったのも事実です。
3.EPFへの拠出の引き下げ
日本の社会保険にあたるEPFの料率を雇用主負担・従業員負担ともに12%から10%に一時的に下げることとしました。こちらも②の源泉税率の低減と同様、実質的に政府の負担ゼロで個人及び企業の負担を軽減できるため、柔軟で良い施策だなとは思いました。ただ、インドでEPFが義務とされているのは、従業員20名以上の企業であるため、ほとんどの中小企業にはそもそも恩恵はありませんでした。
4.緊急信用枠保証制度
MSMEに該当する中小零細企業などに対して、現状の融資残高の20%を上限として緊急的な追加融資を受けられるように計らう政府の保証制度について、その適用期間を2022年3月末までと延長しました。これはコロナでダメージを被った26の業態のみへの施策ですが、返済は当初1年は猶予、つまりゼロという性質のものでもあるため、金利負担が大きいインドでは好意的に受け止められました。
正直、中小零細企業への手厚い支援…という意味では、日本の持続化給付金のようなインパクトには及ばないものが多いのですが、中小零細企業への徴税率が制度上非常に低いとされるインドにおいては、これくらいの制度の新設が限界なのかなとも思いました。
まとめ
インド政府のコロナ禍での法人や事業体への支援策
- 納税の延期
- 源泉税の税率の低減
- 社会保険料負担の低減
- 緊急融資枠の設定
インパクトは乏しいものの、慢性的な税収不足、低い徴税率を考えるとこのあたりが限界なのかなとも思われる。
【プロフィール】
野瀬 大樹(のせ ひろき) 公認会計士・税理士
大手監査法人勤務の後、NAC国際会計グループに参画、インドのニューデリーにて主に日系企業をサポートするコンサルティング会社NAC Nose India Pvt. Ltd.を設立し、同代表に就任。インド各地にて、会計・税務・給与計算に加え、各種管理業務に関わるコンサルティングサービスを提供している。
事務所HP:http://in.nacglobal.net/