海外マーケティング支援を行っている合同会社トロの芳賀 淳です。
唐突ですが、日本の法令で最高額の罰金はいくらかご存知ですか?
筆者調べでは、法人の場合10億円、個人の場合3千万円という規定が最高額のようです。法令としては「不正競争防止法」や「外国為替及び外国貿易法」(通称:外為法)に最高額の記載があります。「外為法」では、違反行為の貨物価格の5倍が10億円あるいは3千万円を超える場合には、10億円や3千万円ではなく当該価格の5倍以下の金額を罰金価格とする、と定められています(個人は69条、法人は72条に記載)。
そんな事態に巻き込まれることがないよう、この機会に自社の貿易業務が外為法に則っているかを見直しましょう。
参考サイト:参議院法制局 法律の「窓」 罰金の額https://houseikyoku.sangiin.go.jp/column/column015.htm
"知らなかった"では済まされない安全保障貿易管理(外為法)
罰金規定 | 輸出入、技術取引規制の違反 | ||
大量破壊兵器関連 | 通常兵器関連 | その他 | |
個人 | 3千万円、あるいは輸出価格の5倍以下 | 2千万円、あるいは輸出価格の5倍以下 | 1千万円、あるいは輸出価格の5倍以下 |
法人 | 10億円、あるいは輸出価格の5倍以下 | 7億円、あるいは輸出価格の5倍以下 | 5億円、あるいは輸出価格の5倍以下 |
*個人に対して、10年以下の懲役刑が併科される可能性もあります(懲役+罰金)。
*最大3年間の、貿易や関係技術の提供が禁止される行政制裁が科せられる可能性もあります。
罰則規定だけ見ると非常に厳しい法令であることが分かります。しかし貿易に携わるほとんどの企業や個人事業者は外為法を遵守した事業展開を行っています。例えば、リスト規制、該当や非該当、キャッチオール規制、ホワイト国(2019年8月以降は、グループAと呼びます)、こうした用語と意味を聞いたことがある、知っている方々が多いと思います。
しかし貨物に関して厳しく取り組んでいても、技術提供や情報管理の面で脇が甘くなっていませんか?
例えば、タイの子会社から来た研修生は来日から6か月以上が経過した。よって、居住者扱いとして役務取引許可を得ぬまま、特定技術(外為令別表のx項に該当)も含めて様々な技術を伝えている。
→これはアウトです。来日6か月以上経過しても、外国からの研修生は非居住者です。外国からの研修生受け入れの場合、日本の親会社と外国の子会社(非居住者)との法人間の契約に基づいているので、研修生の居住性は「非居住者」のままです。非居住者に対して特定技術を提供する場合は、事前の役務取引許可が必要です。
来日中のドイツのプラントメーカーA社(非居住者)のX営業部長は、ベトナム(外国)工場に出張中の名古屋のメーカーB社(居住者)のY技術部長に、自社暗号ソフト(外為令別表のx項に該当)のプログラムを滞在中の名古屋のホテルから電子メールで送信した。事前の役務提供許可は得ていない。
→ これはアウトです。特定技術を外国で提供することを目的とする取引の場合、事前に役務取引許可が必要です。
東京にある素材メーカーAは、先月米国のICT企業Bとストレージサービスを利用する契約を締結した。早速Aは、そのサービスを利用して外為令別表m項に該当する製造技術Yをストレージ内にアップロードし、世界中の子会社の技術者が自由に閲覧できるようにした。事前の役務提供許可は得ていない。
→ これはアウトです。素材メーカーAおよび国内子会社の従業員が閲覧する場合は問題ありませんが、閲覧可能対象者を世界中の技術者(非居住者)が自由に閲覧できるようにするには、事前に役務取引許可が必要です。
安全保障貿易管理で陥りやすそうな事例を紹介しましたが、こうした事柄にどのように対応してゆけばよいのでしょうか?
次回は全体像概要を理解し、手順などについて説明します。
まとめ
安全保障貿易管理は貨物だけでなく技術や情報も法令(外為法)の規制対象です。罰則も非常に厳しく、罰金では法人が10億円・個人が3千万円(以上)という可能性もあります。
▼シリーズバックナンバー
第1回 【安全保障貿易管理、米国ルールにも注意!】Huaweiと商売するとどうなるのか?
【プロフィール】
合同会社トロ 代表社員 芳賀 淳(はが あつし)
大手総合電機、精密機械メーカーにてベトナム他での海外販路開拓や現地法人設立などの海外業務に携わった後、合同会社トロを設立。豊富な海外業務・貿易実務経験を活かしたコンサルティングサービスを、ジェトロや中小機構などの公的支援機関および民間企業向けに提供している。
URL: https://sub.toro-llc.co.jp/
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