アジアインフラ投資銀行(AIIB)とは、アジアのインフラ整備を目的に、中国が主導する国際金融機関です。世界経済第2位の経済大国である中国による、既存の国際機関での発言力が向上しない不満や、中国企業の海外市場への参入をねらっての独自構想です。
当初は、東アジアや東南アジア以外の参加国はないだろうと予測されていましたが、最終的にはイギリスやフランスなどのヨーロッパ主要国を始め、5大陸57ヶ国が参加を表明しました。一方、中国の勢力が増大することを懸念したアメリカや日本は参加を見合わせています。今回は、アジアインフラ投資銀行の参加国と、各国の思惑についてご紹介します。
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ASEAN加盟全10ヶ国
ASEAN(東南アジア諸国連合)加盟10ヶ国は、全ての国が参加を表明しています。中国はASEAN加盟国を対象に、約200億ドル(約2兆3,000億円)の融資枠を新設すると表明しており、ASEANの立ち遅れたインフラ整備を支援するとしています。人口増と経済成長が続くASEANは、アジアインフラ投資銀行にとって魅力的な投資先であると言えるでしょう。
また、ASEAN加盟10ヶ国は地理的に近いこともあり、長きに渡って中国と関係が深い地域でもあります。現在、南シナ海の領有権をめぐり、中国との間に政治的な火種を抱えている国もありますが、経済は輸出・輸入ともに中国頼みという現状です。
中東・中央アジア諸国
アジアインフラ投資銀行の創設の背後には、「中華経済圏」の構想計画が存在します。その構想計画の1つが「新シルクロード経済圏構想」です。
新シルクロード経済圏構想とは、中国から中央アジアと中東を渡ってヨーロッパに至る鉄道を敷設するという構想です。また、中国からインド洋を経てペルシャ湾や紅海を通り地中海に至る「海のシルクロード」という貿易路も整備する構想も存在します。
これらが完成することによって、中央アジアや中東、ヨーロッパのユーラシア大陸全域の貿易が活性化し、中国経済の影響がこれらの地域にまで及ぶことが期待されています。
ヨーロッパ諸国
当初、アメリカがアジアインフラ投資銀行の不参加を表明していたため、ヨーロッパ諸国も同様に不参加であろうと考えられていました。
しかし、2015年3月にG7(先進7ヶ国)として初めて、イギリスが参加を表明しました。これを皮切りに、フランス、ドイツ、イタリアも次々と参加を表明しました。G7に参加しているヨーロッパすべての国が参加したことになります。
アメリカにとって最重要同盟国であるこれらの国が、次々と参加を表明した理由はどこにあるのでしょうか。その鍵を握っているのは、イギリスの参加にあると言われています。
2015年5月のイギリス総選挙の結果によって、イギリスのEU離脱に対する動きが加速すると予想されています。EUに残留することは、イギリスにとって、移民が増え、イギリス独自の政策が行えないことを意味すると考えるEU離脱派が多数存在します。
しかし貿易面では、イギリスの輸出先の半分がEU諸国です。EU離脱後の輸出先確保を目的に、イギリスはアジアインフラ投資銀行への参加を表明したと見られています。
考察
アジアのインフラ開発を進めることを目的とした金融機関として、日米が主導権を握っている「アジア開発銀行(ADB)」が既に存在します。しかし、アジアのインフラ整備に必要な予算は膨大なため、現在のアジア開発銀行だけでは賄いきれない現状です。アジアインフラ投資銀行の表向きの設立趣旨は、アジア開発銀行と共に資金ニーズに応えるとされています。
しかし実際のところ、中国はアメリカが主導する現在の国際金融秩序に不満があったと見られています。世界最大の消費市場であり政治的にも大きな影響力を持つ中国が、国際金融においては発言権を得られていなかったことが不本意だったのでしょう。
アジアインフラ投資銀行の設立によって、中国自らが盟主となる新秩序を打ち立てようとしていると考えられます。
おわりに
アジアインフラ投資銀行の参加国についてご紹介しました。日本は、アジアインフラ投資銀行の不透明性や意思決定構造の問題点を指摘し、アメリカとともに参加を見送っています。しかし、イギリスを始めとしたヨーロッパの主要国が参加を表明したため、日本の今後の動向に注目が集まっています。